著者
杉原 真晃
出版者
山形大学
雑誌
山形大学高等教育研究年報 : 山形大学高等教育研究企画センター紀要
巻号頁・発行日
vol.3, pp.13-17, 2009-03-31

はじめに このたび,私は平成20年度「山形大学教養教育ベストティーチャ一新人賞」をいただいた。山形大学に着任して2年の私がこのような名誉ある賞をいただき,喜びと恐縮とが合わさった気持ちになると同時に,私の授業を一緒に作ってきた受講学生 そして私を推薦してくださった山形大学の先生方に心より感謝申し上げたい気持ちでいっぱいである。山形大学教養教育ベストティーチャー賞および新人賞は,大変優れたシステムである。それは,ファカルテイ・ディベロップメント(FD)の一環として授賞制度を設けており,受賞者にはその教員の持つ優れた実践のノウハウを「公開」して学内に「還元」することがセットとなっていることである。もちろん,学内に限らず,学外の人たちが公開されたものにふれることも可能となっている。そして,この賞は非常勤講師も含めたすべての教養教育授業担当教員に開かれている。つまり,このシステムは自由,競争,機会の平等,そして知的格差(不平等)への再分配を実現しているのである。ロールズ(RawIs,J.)が見れば,これを何と評価したであろう。さて,以上のようなシステムのため,私は受賞に際し,自身の授業を公開した。公開した授業は春学期の「春からのキョウヨウ教育必勝法A」(学際・総合領域)と秋学期の「秋からのキョウヨウ教育必勝法A」(教養セミナー)である。本稿では,主として「春からのキョウヨウ教育必勝法A」(以下,「春キョウ」)について紹介する。
著者
立松 潔
出版者
山形大学
雑誌
山形大学高等教育研究年報 : 山形大学高等教育研究企画センター紀要
巻号頁・発行日
vol.2, pp.51-55, 2008-03-31

山形大学の教養教育では、平成16年度よりGPA制度を導入している。GPA制とは「学生の学習の成果を、履修した単位数とともに成績を平均したGPAによって把握し、その値に基づいて、学生の学習に関する相談に応じ、指導を行うためのもの」であり、やはり16年度から導入された新たな修学支援体制である「YUサボーティングシステム」の3つの柱の一つという重要な役割を与えられている。GPA制度に基づく修学指導とは、たとえば各学部ごとにGPAの最低基準値をさだめ、それを下回る学生を対象にアドバイザーが面談を行ったり、勉学の督励を行ったりすることを意味している。山形大学中期計画(平成16年6月3日文部科学大臣認可)に、「GPAを活用した機動的な修学支援を行う」とされているのも、このような指導を念頭に置いたものである。このように本学のGpA制は学生への修学支援・学習指導のためと位置づけられて導入されたのであるが、本来のGPA制度の役割は単にそれだけにとどまらない。それは教育内容の改善に向けた教員側の取組みにとっても有用な道具となりうるからである。山形大学では、平成13年3月の『山形大学のあるべき姿』で「卒業生の質の確保」のための方策として、次のようにGPAに言及している。すなわち、「大学が社会に対し,卒業生・修了生の一定水準の学力を保証するためには,成績評価の客観的システムを構築する必要がある。そのためには,例えばアメリカ等で導入されているGPA(Grade PointAverage)のような指数方式を用いて,個々の学生に対しても,適宜,現時点でのトータル評価を把握させ,あるいは努力目標として示し,より的確な評価を与え,学生の4年間の勉学における学習効果を高めるように措置するとともに,社会に対して卒業生・修了生の持つ学力の水準を示す必要がある」と。「より的確な成績評価」の実施が、社会に対して卒業生の学力水準を示すための不可欠の条件であり、その実現のためにGPA制度を活用すべしというのである。また、中期計画でも「教育の成果・効果を検証するため,GPA分布の継続的調査」を行うとしており、さらに「単位取得状況,GPAの分布,履修状況,学生に対するアンケート調査などを踏まえ,教育課程の改善・充実を図る」としている。教育の成果の検証、教育内容の改善のための道具としてGPAを積極的に活用する方針を打ち出しているのである。本稿は以上のような動向を踏まえ、今後の授業改善への取り組みに生かすため、本学の教養教育科目のGPA分布を分析しようというものである。
著者
岩鼻 通明
出版者
山形大学
雑誌
山形大学高等教育研究年報 : 山形大学高等教育研究企画センター紀要
巻号頁・発行日
vol.3, pp.6-7, 2009-03-31

はじめに 1996年度の教養部改組以前から,一般教育を主として担当する者として,授業改善の試みを今日まで続けてきた。1983年の教養部赴任以来,10年近くは地理学概論的な講義を続けてきたが,一般教育科目が自由選択へ移行した前年の1992年度から,多様な内容を提供できるように変えはじめた。1994年から年に数回の訪韓を重ねてきたが,講義で韓国に関する話題を提供できるようになったのは,1995年度から総合領域で有志と始めた「平和と人権」の中でのことだった。この講義は,2002年度まで断続的に行ったが,1998年夏に日本学術振興会の韓国短期派遣の機会が得られ,それを契機に1999年度以降は「韓国の文化と民俗」などと題した授業を続けてきている。この間に,南北および日朝首脳会談やW杯サッカーの日韓共同開催,さらには「冬ソナ」ブームなどが相次ぎ,韓国への関心は,過去にないほどの高まりをみせ,韓流と呼ばれるまでに至っている。それを受けて学生に基礎的かつ最新の情報を提供するべく工夫を続けてきたが,たとえば,授業で「ペパーミント・キャンディー」という光州事件を題材にした韓国映画を鑑賞したところ,毎回集めるコメントで,受講生の誰一人として,光州事件に触れた者はいなかった。このように,韓国人にとっては常識的なことでも,日本人には欠けている基礎知識は少なくない。21世紀の未来を担う若者たちに,世界平和の前提となる国際的な相互理解の芽を育てることた,我々大学教員の任務のひとつといえよう。
著者
三上 英司
出版者
山形大学
雑誌
山形大学高等教育研究年報 : 山形大学高等教育研究企画センター紀要
巻号頁・発行日
vol.3, pp.8-12, 2009-03-31

はじめに 高等教育機関における教養教育に対して,入学生をインターフェースとして社会全体から求められている役割は,多様である。そもそも,現代日本においては「教養」という語の意味自体が,社会の多様化に連動して拡散し続けているように思われる。このような状況の中で,教養教育は,習得すべき明確な到達目標を示すことが一層困難になってきている。要請される事柄の全てに対応しようとするとき,その実現は一地方大学の許容能力を遥かに超えてしまう。それゆえに,多くの高等教育機関における教養教育は往々にして,社会的な要請から乖離した画一的なカリキュラムの殻に閉じこもったり,反対に現状へ近視眼的に反応して即戦力的スキルの習得を第一義とする講習会へと変容してしまったりする。さらに,本質的な問題はこれらの教養教育が,非常勤スタッフの手を借りなければ運営できない状態に陥っていることである。この現状は,学問の本来的な在り方を鑑みるとき,危機的と呼んで差し支えない。本来の「Liberal Arts」が培ってきた「普遍性」に対する社会全体の意識低下が,この状況を生み出した主因だといえる。一方,教養教育の場で学ぶこととなる新入生は,学力・モチベーションがともに,必ずしも高いとはいえない。この責を単に初等・中等教育の現場や学生自身の意識の低さに求めることは,問題解決のために何ら貢献しない。なぜならば,少なくとも入学生たちは選抜試験に合格し,本学に入学を許可された者たちであり,これらの学生に対しての教育が困難であることを訴えても,社会的な承認は,けして得られないからである。さて,昨今の学生の特徴で教員にとって最も重要な点は,学生個々の基礎的学力と彼らの求める事柄が,やはり多様化しているということである。現在の入学者選抜方法は,社会的な要請に応える形で実に多様化している。そのことによって学生の資質も,複雑化しているのである。このような現状に対応するために,大学の教養教育の現場では,まず授業を成立させなければならない。そのために学問の本質とは基本的に無関係な多くの授業実践方法に関するスキルが要求されている。FD活動に代表される教育方法改善活動が,平成以降,全国で活発になったという事実は,煎じ詰めれば様々な学生の状態を許容することになった現代日本の高等教育機関の現状の反映だと考える。
著者
森谷 菜穂子 高橋 加津美 丸山 俊明
出版者
山形大学
雑誌
山形大学高等教育研究年報 : 山形大学高等教育研究企画センター紀要
巻号頁・発行日
vol.4, pp.33-44, 2010-03-31

はじめに 山形大学附属博物館(以下当館と記す)では通年の事業として,特定のテーマに沿った「特別展」と一般市民を対象とした「公開講座」をそれぞれ年に一度開催している。近年,大学法人化にともなって当館にも地域貢献や社会連携の課題が課せられている。このような社会背景や学内環境の変遷のもと,昭和50年代から30年以上にわたって継続されてきたこれらの事業も一大転機を迎えることとなった。本稿は,初めて学外との連携において行なわれたこれらの事業について報告するものである。開催概要については文末の図表1・2にまとめたのでご参照願う。平成19年度の開催当初から3年間,ただただ無我夢中で振り返る暇もなかったが,ここで一区切りつけて反省することによって,高等教育研究機関のひとつであると同時に,地域に開かれた社会教育施設を目指す当館の課題が明らかになると思われる。
著者
丸山 俊明 森谷 菜穂子 高橋 加津美
出版者
山形大学
雑誌
山形大学高等教育研究年報 : 山形大学高等教育研究企画センター紀要
巻号頁・発行日
vol.3, pp.20-33, 2009-03-31

はじめに 本学の附属博物館では,学芸員という国家資格を取得するための必修科目の一つである博物館実習を担当している。この実習は,博物館の教育運営に造詣が深い10人程の教員グループが講師を務めて,小白川3学部に共通する集中実施形式の授業として夏休みに開講している2単位の授業科目である。したがって,教育成果や学生からの授業評価は担当教員全員で共有すべきものであるが,小論では著者ら博物館事務執行部の視点で授業の概要をご説明し,実践事例の一つとして近況や課題をご報告する。ただし,すべての責は筆頭著者一人に限られ,他の授業担当教員や事務員の方にはまったく累を及ぼさないことをご承知置き願いたい。