著者
鵜野 好文 井上 正
出版者
広島大学経済学会
雑誌
広島大学経済論叢 (ISSN:03862704)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.45-66, 2008-11

Holmström[7]は、全エージェント契約を前提とする均衡予算制約のもとでは、チーム生産は効率的生産水準を達成できないことを指摘した。そして、ナッシュ均衡としての効率的生産を確実に達成するには、不均衡予算制約のもとで、プリンシパル・エージェント契約が締結される必要性があることを示唆した。ところが、このプリンシパル・エージェント契約はチーム・メンバーである全エージェントに一様に非常に高いペナルティを科すことを前提にしている。それは、各エージェントの職務努力に対する監視活動がないため、個々のエージェントの職務努力とペナルティをリンクさせることができないからである。本稿では、複数エージェントの背景と複数活動の背景にまでモデルを拡張することを試みる。プリンシパル・エージェント契約において、プリンシパルはエージェントの職務努力と監視努力の二つの活動を契約の対象とする(/かもしれない)。このとき、プリンシパルが提示する最適報酬シェーマはこれらの活動から影響を受けることになる。それは、プリンシパルはエージェントに監視努力に伴う費用および集団圧力に伴う費用に報いるよう報酬を支払わなければならないからである。本稿では、プリンシパル・エージェント契約にグループ・ダイナミクスを導入することは最適報酬パッケージをどのように変更するのかが明らかにされている。すなわち、プリンシパルが限界報酬ルールを変更することでこの監視活動、集団圧力をどのように統制するのかが明らかにされている。
著者
千田 隆
出版者
広島大学経済学会
雑誌
広島大学経済論叢 (ISSN:03862704)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.119-129, 2011-03

本稿では、賃金の動きを説明する適切な労働需給指標について検討する。11の労働市場変数から数個の説明変数を選択するために主成分分析を用いる。そして、第1の主成分は「有効求人倍率」として、第2の主成分は「総実労働時間」として解釈しうることを示す。つぎに、説明変数に有効求人倍率と総実労働時間を加えた賃金フィリップス曲線を推定し、結果として、実質賃金上昇率は有効求人倍率と正の相関があり、総実労働時間とは負の相関があることが示される。これらの結果は、2005年頃に賃金が上昇しなかった理由として、高い有効求人倍率による賃金上昇圧力が、賃金上昇を抑える労働時間の増加により相殺されてしまったことを示唆している。