著者
野村 隆士 千田 隆夫
出版者
藤田保健衛生大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

典型的なカベオラは,細胞膜上で直径80nm前後の陥凹構造を持ち,脂質ラフトと同様にコレステロール/スフィンゴ脂質に富む膜ドメインである.カベオラは,細胞内シグナル伝達,エンドサイトーシス・トランスサイトーシス等の物質輸送に関与すると考えられている.研究代表者は,カベオラのクラスタリング機構の研究を行っている過程で,ラフトに親和性を示す分子としてCD13を同定した.数種のラフト分子は,生細胞において,リガンドまたは抗体で架橋するとカベオラへ移動することから,CD13も同様に抗体を用いて架橋したところ,カベオラへ移動することが判明した.CD13はヒトコロナウイルス-229E(HCoV-229E)のレセプターであることから,HCoV-229EがCD13を架橋し,抗体と同様にカベオラに運ばれる可能性が考えられた,この可能性を検討したところ,HCoV-229EはCD13を架橋し,細胞膜上をカベオラに運ばれることが光顕的,電顕的に明らかとなった.次に,HCoV-229Eの細胞内侵入経路としてカベオラが利用される可能性について検討した.その結果,(1)HCoV-229Eの細胞内侵入は膜コレステロール量に依存すること,(2)siRNAを用いてカベオリン-1(カベオラ構成タンパク質の一種)をノックダウンすると感染効率が落ちること,が明らかとなり,HCoV-229Eは,侵入経路としてカベオラを利用することが判明した.今後,ウイルスエンベロープとヌクレオカプシドを別々の蛍光色素で標識したウイルスを作製し,両蛍光色素の動態をリアルタイムに解析することにより,ウイルスエンベロープの膜融合局在,virus genomeの放出局在を時間軸を持って検討することができると考えている.
著者
千田 隆
出版者
広島大学経済学会
雑誌
広島大学経済論叢 (ISSN:03862704)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.119-129, 2011-03

本稿では、賃金の動きを説明する適切な労働需給指標について検討する。11の労働市場変数から数個の説明変数を選択するために主成分分析を用いる。そして、第1の主成分は「有効求人倍率」として、第2の主成分は「総実労働時間」として解釈しうることを示す。つぎに、説明変数に有効求人倍率と総実労働時間を加えた賃金フィリップス曲線を推定し、結果として、実質賃金上昇率は有効求人倍率と正の相関があり、総実労働時間とは負の相関があることが示される。これらの結果は、2005年頃に賃金が上昇しなかった理由として、高い有効求人倍率による賃金上昇圧力が、賃金上昇を抑える労働時間の増加により相殺されてしまったことを示唆している。