著者
餅川 正雄
出版者
広島経済大学経済学会
雑誌
広島経済大学研究論集 = HUE Journal of Humanities, Social and Natural Science (ISSN:03871444)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.23-46, 2018-06-30

本研究は,現行の民法(相続法)における遺留分制度について,「法の正義(分配的正義:distributive justice)」の視点から,遺留分制度は今後も存続させるべきという立場で考察を加えるものである。この遺留分制度の内容は,特別受益や寄与分などの扱いがどうなるのかなど,法律の専門家でない一般の国民が相続の問題に直面した場合には,それが非常に分かりにくく複雑なものになっているという現実がある。それだけでなく,民法の立法上の不完全さもあって,国民の常識的な法律解釈の範囲を超えているという問題があると認識している。それは遺産相続について誰が何をどれだけ相続するのかという問題について,家族や親族間で争いが発生するという裁判が多いことが証拠である。|本論では,以下の5つの問題を考究する。第一に遺留分制度の存在理由(reason for existence)について歴史的に考察し,日本の遺留分法(民法規定)は,条文解釈においてローマ型の現物返還ではなくゲルマン型の価値返還と捉える方が理解しやすいことを論述する。第二に配偶者が子とともに相続人となる場合には,配偶者の遺留分が基礎財産の四分の一になるという現行の規定は,妻の通常の貢献分(二分の一)が確保できないという問題を指摘する。第三に直系尊属(父母・祖父母)だけが相続人になる場合,総体的遺留分率が三分の一になっているが,その他の場合には二分の一になっていることとの不合理があることを指摘する。第四に特別受益の持ち戻しの問題(生前に「特別受益」を受けた相続人があった場合)については,それを遺留分算定の基礎となる相続財産に算入するという説(算入説)と,算入しないという説(不算入説)があるが,筆者は算入説を支持することを設例によって論述する。第五に「寄与分」について認定は,民法では上限設定はないが,遺留分の争いの範囲ではひとまず棚上げして対応する必要があることを論述する。|遺留分に関する規定は,現行民法の採用している共同相続制度(joint inheritance system)において生ずる問題について十分な配慮がされていないという立法上の問題がある。それについては,現在,民法改正の準備が進められているところであるため,本研究においては今後の民法の改正に関する考察は対象外としている。