著者
斎藤 繁
出版者
弘前学院大学
雑誌
弘前学院大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:13464655)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-13, 2005-03-01
被引用文献数
1

老年期にある高齢者の重度記憶障害についての若干の検討と考察を試みた。特に認知症(痴呆)による知能障害と記憶障害についての脳病理学的、神経心理学的、認知心理学的解明を試みながら、福祉臨床における介護支援の諸方策について検討した。加齢にともなう高齢者の認知機能の低下は、われわれ人間にとっては避けがたい生物学的、神経心理学的現象と言えるが、長年にわたって培われた知識・技能が容易に失われないこともまた事実である。認知症の中核症状に記憶機能と認知機能障害が考えられている。記憶能力の低下は知覚、学習、思考、コミュニケーション行動に直接的な影響を及ぼすが、そのための介護福祉的支援方策について考察し、若干の提案を試みようとした。急性、亜急性に発症する認知症は医療の対象となるが、一般的な老化による記憶機能と認知過程の障害は、徐々に部分的に出現し次第に憎悪する傾向がみられる。そのあらわれ方には個人差があり、個々人の人生努力と密接である。個人の自助努力は言うに及ばず、また家族、地域による福祉支援課題として、その対応方策が考慮されねばならない。軽度の認知症が疑われるレベルでは、幼少期から十分習慣化した運動や身体作業、ADLに支障があらわれ、日常生活や社会行動面において部分的な不具合や不都合が生じるようになる。さらに、中・重度の認知症になると見当識などの認知機能のみならずADL、APDLにも重い障害があらわれてくるが、著しい言語・記憶障害を示す認知症への対応には、医療、理学療法、作業療法、言語療法のほかにも、福祉的環境調整ときめの細かいケアプランとケアワーク、それに生活療法的、行動療法的、芸術療法的支援、非言語的意思伝達などの諸方策が必要となる。高齢認知症者の抱える個人的問題に関しては、身体的側面のみならず精神的側面と、家庭・社会関係の再体制化への配慮が求められる。なかでも家族福祉支援が重要である。そのための医療・福祉支援は必須のものとなる。問題の解決には高齢認知症者のQOLと高齢者をとりまく社会・文化的環境についての配慮も欠くことはできない。
著者
齋藤 繁
出版者
弘前学院大学社会福祉学部
雑誌
弘前学院大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:13464655)
巻号頁・発行日
no.13, pp.15-36, 2013-03

芥川龍之介の最晩年の作品に焦点を当てて、彼の他界に至る経緯を主として作品を通して考察を試みた。「歯車」はこれまで諸家による評論が繰り返しなされ、百家争鳴に近い論争を引き起こした作品である。 筆者は彼の最晩年の創作活動が前衛的芸術活動であると見做し、「歯車」は写実主義やロマン主義の文学とは異なる新しい文学運動の一つの試みであり、彼の文学の代表的作品であると考える立場から、作品中に散見される精神病理学的表現を再評価してみた。 芥川龍之介は永い間歯車の幻視に悩まされ、発狂の予兆と感じて悩み続けていたが、それは眼姓片頭痛、または閃光暗点と云う病気で、精神病理的な症状としての幻視とは異なるものであった。レエンコオトの男と僕の歯車の幻視体験を度々登場させることが、怪奇的な心理的空間を醸成することに役立っていたことは事実である。それにしても最初に芥川自身によってつけられた題名「夜」か「東京の夜」が、正当な命名と見做されるであろう。日常性を超えた異次元的、怪奇的精神世界、現実と非現実、日常性と非日常性、条理と不条理とが混然一体となった生活空間の構成を図ったとすれば、内なる心の闇の表現に或程度成功していると考えられる。 しかし彼は慢性的な神経疾患である神経衰弱を患い、メランコリックな精神状況の中で創作活動を続けていたのである。早世に至った動機は依然として明らかではないが、心身の消耗の極みが推定される。
著者
齋藤 繁
出版者
弘前学院大学社会福祉学部
雑誌
弘前学院大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:13464655)
巻号頁・発行日
no.15, pp.30-41, 2015-03

コミュニケーションの基礎にある個々人の意識、表象、心像表象、想像についての意味と、さらには社会・文化的シチュエーションにおける意思伝達にいたるまで、主として発生認識論的、認知心理学的視座からの論考を試み、特に哲学的認識論と認知心理学における現代的意義についても考察した。イメージ、コミュニケーションという帰化語は、今日的には、単に表象とか意思伝達という訳語でじゅうぶん説明が尽くされるものではないことが明らかとなった。言語学、心理言語学レベルにとどまらず、更にベースにある言語心理学、意味心理学、認知心理学、社会心理学、実験社会心理学サイドからの一層の分析が必要とされるであろう。また、伝統的なギリシア以来の哲学的認識論のさらなる論考の深化が期待される。
著者
齋藤 繁
出版者
弘前学院大学社会福祉学部
雑誌
弘前学院大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:13464655)
巻号頁・発行日
no.13, pp.15-36, 2013-03-15

芥川龍之介の最晩年の作品に焦点を当てて、彼の他界に至る経緯を主として作品を通して考察を試みた。「歯車」はこれまで諸家による評論が繰り返しなされ、百家争鳴に近い論争を引き起こした作品である。 筆者は彼の最晩年の創作活動が前衛的芸術活動であると見做し、「歯車」は写実主義やロマン主義の文学とは異なる新しい文学運動の一つの試みであり、彼の文学の代表的作品であると考える立場から、作品中に散見される精神病理学的表現を再評価してみた。 芥川龍之介は永い間歯車の幻視に悩まされ、発狂の予兆と感じて悩み続けていたが、それは眼姓片頭痛、または閃光暗点と云う病気で、精神病理的な症状としての幻視とは異なるものであった。レエンコオトの男と僕の歯車の幻視体験を度々登場させることが、怪奇的な心理的空間を醸成することに役立っていたことは事実である。それにしても最初に芥川自身によってつけられた題名「夜」か「東京の夜」が、正当な命名と見做されるであろう。日常性を超えた異次元的、怪奇的精神世界、現実と非現実、日常性と非日常性、条理と不条理とが混然一体となった生活空間の構成を図ったとすれば、内なる心の闇の表現に或程度成功していると考えられる。 しかし彼は慢性的な神経疾患である神経衰弱を患い、メランコリックな精神状況の中で創作活動を続けていたのである。早世に至った動機は依然として明らかではないが、心身の消耗の極みが推定される。
著者
齋藤 繁
出版者
弘前学院大学
雑誌
弘前学院大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:13464655)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-7, 2007-03

発達障害児のなかには、重度の知的障害によるか広汎性発達障害のために、言語を媒介とするコミュニケーションが困難な事例が見出される。最近、母国語によって意思伝達ができない障害児に対して代替言語、即ち人工語の開発研究並びに試験的適用が試みられている。本論においては、先ず人工語研究の発端とその発展、現状について述べ、知的障害児や発達障害児への応用について考察を試みた。