著者
齋藤 繁
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.573-581, 2012 (Released:2012-10-11)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

アドレナリンやエフェドリンは,日本人が抽出,精製したものとして知られているが,その化学的労務を担当した技術者 上中啓三の名を知る人はほとんどいない.上中は日本薬学の祖として知られる長井長義の門下生で,長井流の化学薬学技術を習得した後,単身米国に渡る.そこで,高峰譲吉の助手となり,アドレナリンの結晶化に成功する.その後,アドレナリンの量産やタカジアスターゼ,ベークライトなどの生産技術向上に尽力する.上中のアドレナリン精製法は比較的単純であるが,細かい配慮がなされており,化学的,薬学的に大いに示唆に富んでいる.また,当時の研究環境や上中の名が世に知られなかった社会的背景は大変興味深い.
著者
荻野 祐一 小幡 英章 肥塚 史郎 戸部 賢 関本 研一 齋藤 繁 木村 裕明
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.465-469, 2012 (Released:2012-11-16)
参考文献数
9

FiRST(fibromyalgia rapid screening tool)は,線維筋痛症(FM)を効率よく検出するために開発された問診表で,6項目の「はい・いいえ」で答える簡単な問診からなる.われわれは,原著者から許可を得たのち,FiRST日本語版を作成した.当科ペインクリニック外来において日本語版を用いたアンケート調査を行い,全71名の慢性痛患者から回答を得た.原著と同様,6項目中5項目以上陽性(「はい」と答える)をCut-off値とすると,FiRSTの6項目すべてにおいて,FMと他の慢性痛疾患群との群間比較で有意差を認め,感度は100%(11/11名),特異度は74.4%(51/60名)であった.FiRSTの6項目の問診は,線維筋痛症の実体をよく表していると考えられた.
著者
戸部 賢 須藤 貴史 三枝 里江 金本 匡史 荻野 祐一 麻生 知寿 高澤 知規 齋藤 繁
出版者
北関東医学会
雑誌
北関東医学 (ISSN:13432826)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.253-261, 2022-08-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
24

背 景:弘法大師空海は疫病対策や治水に活躍したと伝えられているが,史実として確立しているものと民間伝承の間に大きな乖離がある.目 的:弘法大師空海の医療や水に関する活動を文献から抽出し,史実として同定されうる文献記述と民間伝承との関係を考察する.方 法:高野山大学密教文化研究所による『定本 弘法大師全集』から医学・医療に関係すると考えられる記述を抽出し,内容別に分類した.また,群馬県の弘法大師伝説のある地点を実際に訪問し,弘法大師伝説の背景を確認した.結 果:空海よる医学,医療に関する記述は,「薬」「施術」「飲食物」「呼吸」「祈祷」など合計41ヶ所あった.群馬県内には国土地理院地図,観光・史跡案内ウェブサイト,現地解説板などに空海縁の地と指摘された地点が合計12ヶ所存在した.結 語:空海自身が全国を回って疫病治療や湧水・温泉発掘をしたという史実はないが,空海の思想を後継した高野聖や山岳修験者の活動が数々の救世主空海の神話を生み出したと考えられる.時代を超えて感染症と水の確保は人間社会を悩ませる課題である.
著者
神山 治郎 齋藤 繁
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.227-234, 2013-04-01 (Released:2013-05-14)
参考文献数
93

β遮断薬の歴史は,アドレナリンの発見や交感神経活動の解明まで遡ることができる。1940年にアドレナリンの誘導体からβ刺激薬イソプロテレノールが合成され,1962年にβ遮断薬プロプラノロールが登場する。そして,β受容体タンパクやサブタイプが明らかとなり,サブタイプ特異的な薬剤の開発が推進された。現在,短時間あるいは超短時間作用性のβ遮断薬が,発作性頻拍や虚血性の心不全など不安定な心機能の管理に広く臨床使用されるようになっている。
著者
齋藤 繁 林 重成 成田 拓郎 加藤 泰道 大塚 元博 荒 真由美 成田 敏夫
出版者
公益社団法人 日本金属学会
雑誌
日本金属学会誌 (ISSN:00214876)
巻号頁・発行日
vol.83, no.10, pp.372-377, 2019-10-01 (Released:2019-09-25)
参考文献数
11

A diffusion-barrier coating layer (DBC) was formed on a Ni-22Cr-19Fe-9Mo alloy by Al-pack cementation at 1000℃ followed by heat treatment at 1100℃.The thermal cyclic oxidation behavior of the DBC system was then investigated. The thermal cycle oxidation tests were conducted at 1100℃ in air for 45 min, each followed by 15 min at room temperature. Electron probe micro-analysis (EPMA) was performed to determine the microstructure and concentration profile of each element between the substrate and the coating layer.The DBC system showed good thermal cycle oxidation property. The layer structure between the substrate and the coating layer after thermal oxidation cycling is discussed with respect to the composition paths plotted in the Ni–Cr–Fe and Ni–Cr–Al phase diagrams. The coating layer structure after 100 cycles of 45 min at 1100℃ consisted of the γ- and α-phases of the Ni–Cr–Fe system and the β-phase of the Ni–Cr–Al system. The coating layer structure after 400 cycles of 45 min at 1100℃ consisted of the γ-phase of the Ni–Cr–Fe system and the β-phase of the Ni–Cr–Al system. In contrast, the coating layer structure after 900 cycles of 45 min at 1100℃ consisted of the γ-phase of the Ni–Cr–Fe system.
著者
齋藤 繁
出版者
弘前学院大学社会福祉学部
雑誌
弘前学院大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:13464655)
巻号頁・発行日
no.13, pp.15-36, 2013-03

芥川龍之介の最晩年の作品に焦点を当てて、彼の他界に至る経緯を主として作品を通して考察を試みた。「歯車」はこれまで諸家による評論が繰り返しなされ、百家争鳴に近い論争を引き起こした作品である。 筆者は彼の最晩年の創作活動が前衛的芸術活動であると見做し、「歯車」は写実主義やロマン主義の文学とは異なる新しい文学運動の一つの試みであり、彼の文学の代表的作品であると考える立場から、作品中に散見される精神病理学的表現を再評価してみた。 芥川龍之介は永い間歯車の幻視に悩まされ、発狂の予兆と感じて悩み続けていたが、それは眼姓片頭痛、または閃光暗点と云う病気で、精神病理的な症状としての幻視とは異なるものであった。レエンコオトの男と僕の歯車の幻視体験を度々登場させることが、怪奇的な心理的空間を醸成することに役立っていたことは事実である。それにしても最初に芥川自身によってつけられた題名「夜」か「東京の夜」が、正当な命名と見做されるであろう。日常性を超えた異次元的、怪奇的精神世界、現実と非現実、日常性と非日常性、条理と不条理とが混然一体となった生活空間の構成を図ったとすれば、内なる心の闇の表現に或程度成功していると考えられる。 しかし彼は慢性的な神経疾患である神経衰弱を患い、メランコリックな精神状況の中で創作活動を続けていたのである。早世に至った動機は依然として明らかではないが、心身の消耗の極みが推定される。
著者
三枝 里江 戸部 賢 高澤 知規 麻生 知寿 齋藤 繁
出版者
北関東医学会
雑誌
北関東医学 (ISSN:13432826)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.199-206, 2020-08-01 (Released:2020-09-03)
参考文献数
23

【目 的】 上州,上越地方では古くから山岳信仰が盛んであり,多くの修験者や行者が活動していた.その足跡を山中の遺跡や古文書で解析することは地域住民の医学・保健学的認識を理解することに有効と考えられる.【方 法】 群馬県内の修験者・行者の活動拠点を踏査し,信仰対象とされた山体に設置された石碑や,参道の遺物,山麓修験道寺院の収蔵書を検証した.また貴重な記録物である「伝法十二法」から医学・保健学に関連する記述を抽出し,現代医学の観点から解析した.【成 績】 群馬県内の多くの山頂に山岳信仰に基づく石碑が設置されていた.本山修験宗長見寺収蔵書には医学・薬学に関する古文書も含まれていた.「伝法十二巻」には医学,保健衛生に関する記述が16項目あり,創傷や熱傷治癒,咽喉頭異物除去など治療的観点に立つもの,感染症や身体的不都合を惹起するもの,懐妊・避妊・堕胎など産科的なものなどが含まれていた.【考 察】 北関東地域では山岳信仰が根付いており,地域住民の健康観に影響を与えているものと想定された.
著者
松井 祐介 松岡 宏晃 金本 匡史 渋谷 綾子 室岡 由紀恵 大高 麻衣子 竹前 彰人 高澤 知規 日野原 宏 齋藤 繁
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景】HITは,血小板第 4 因子(PF4)とヘパリンとの複合体に対する抗体(抗PF4/H抗体)の産生が起こり,その中の一部で強い血小板活性化能を持つもの(HIT抗体)が,血小板,単核球,血管内皮の活性化を引き起こし,最終的にトロンビンの過剰産生が起こり,血小板減少,さらには血栓塞栓症を誘発する。治療には,まずはヘパリンの使用を中止することに加え,抗トロンビン作用を持つ代替抗凝固療法 (アルガトロバン) が必要である。今回我々は体外式膜型人工肺を用いた心肺蘇生後にヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia , HIT)を発症し,回路内凝血により持続的腎代替療法の継続が困難であったが,透析膜の変更で治療を継続することができた1症例を経験したため報告する。【臨床経過】我々は,体外式膜型人工肺を用いた心肺蘇生後にHITを発症し,除水ならびに血液浄化目的に、持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration, CHDF)が必要となり,ポリスルホン,セルローストリアセテートの透析膜を用いても,血栓による閉塞を頻回に起こし、回路交換による中断をせざるを得なくなり,管理に難渋する症例を経験した。本例は,ヘパリン中止,アルガトロバンによる全身の抗凝固療法と,ナファモスタットを用いた回路内の抗凝固療法を併用し,活性化凝固時間を延長させたにもかかわらず,頻回な回路閉塞によりCHDFの継続は困難であった。しかし,高い親水性をもった厚い柔軟層を有するポリスルホン製の透析膜のダイアライザー (商品名:トレライトNV) を用いた持続的血液透析および体外式限外濾過療法より,比較的長時間の腎代替療法を行うことができ,除水を継続することができた。【結論】HIT患者においても,ダイアライザーの種類を変更することで,腎代替療法を継続することができた。水分管理が困難であった場合,酸素化不良による静脈返血での体外式膜型人工肺(V-V ECMO)が考慮されたが,本症例では導入を必要とするまでには至らず,重篤な合併症を回避することができた。
著者
田中 陽 佐古 博恒 齋藤 繁
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.153-155, 2003-04-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
4

三叉神経第1枝の帯状疱疹では, ぶどう膜炎や角膜炎を合併することがまれではない. 今回われわれは, 3例の眼疾患を合併した症例を経験した. 第1例 (透析治療中の77歳の男性) は, 皮疹出現後8日目より角膜潰瘍とぶどう膜炎が発症し, 次第に悪化した. 第2例 (55歳の女性) は, 皮疹出現後8日目より角膜浮腫とぶどう膜炎が発症した. 第3例 (68歳の男性) は, 皮疹出現後15日目より表層性角膜炎と沈着物を伴う毛様ぶどう膜炎が発症し, これらの症状は次第に悪化した. 最初の2例においては, アシクロビル眼軟膏と抗菌剤の局所投与により次第に眼症状が改善した, 第3例目は, 眼症状は軽微で増悪はしなかった. 三叉神経第1枝領域の帯状疱疹では, その治療に際して眼症状の注意深い観察が必要である.
著者
齋藤 繁
出版者
弘前学院大学社会福祉学部
雑誌
弘前学院大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:13464655)
巻号頁・発行日
no.15, pp.30-41, 2015-03

コミュニケーションの基礎にある個々人の意識、表象、心像表象、想像についての意味と、さらには社会・文化的シチュエーションにおける意思伝達にいたるまで、主として発生認識論的、認知心理学的視座からの論考を試み、特に哲学的認識論と認知心理学における現代的意義についても考察した。イメージ、コミュニケーションという帰化語は、今日的には、単に表象とか意思伝達という訳語でじゅうぶん説明が尽くされるものではないことが明らかとなった。言語学、心理言語学レベルにとどまらず、更にベースにある言語心理学、意味心理学、認知心理学、社会心理学、実験社会心理学サイドからの一層の分析が必要とされるであろう。また、伝統的なギリシア以来の哲学的認識論のさらなる論考の深化が期待される。
著者
齋藤 繁
出版者
弘前学院大学社会福祉学部
雑誌
弘前学院大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:13464655)
巻号頁・発行日
no.13, pp.15-36, 2013-03-15

芥川龍之介の最晩年の作品に焦点を当てて、彼の他界に至る経緯を主として作品を通して考察を試みた。「歯車」はこれまで諸家による評論が繰り返しなされ、百家争鳴に近い論争を引き起こした作品である。 筆者は彼の最晩年の創作活動が前衛的芸術活動であると見做し、「歯車」は写実主義やロマン主義の文学とは異なる新しい文学運動の一つの試みであり、彼の文学の代表的作品であると考える立場から、作品中に散見される精神病理学的表現を再評価してみた。 芥川龍之介は永い間歯車の幻視に悩まされ、発狂の予兆と感じて悩み続けていたが、それは眼姓片頭痛、または閃光暗点と云う病気で、精神病理的な症状としての幻視とは異なるものであった。レエンコオトの男と僕の歯車の幻視体験を度々登場させることが、怪奇的な心理的空間を醸成することに役立っていたことは事実である。それにしても最初に芥川自身によってつけられた題名「夜」か「東京の夜」が、正当な命名と見做されるであろう。日常性を超えた異次元的、怪奇的精神世界、現実と非現実、日常性と非日常性、条理と不条理とが混然一体となった生活空間の構成を図ったとすれば、内なる心の闇の表現に或程度成功していると考えられる。 しかし彼は慢性的な神経疾患である神経衰弱を患い、メランコリックな精神状況の中で創作活動を続けていたのである。早世に至った動機は依然として明らかではないが、心身の消耗の極みが推定される。
著者
齋藤 繁
出版者
弘前学院大学
雑誌
弘前学院大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:13464655)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-7, 2007-03

発達障害児のなかには、重度の知的障害によるか広汎性発達障害のために、言語を媒介とするコミュニケーションが困難な事例が見出される。最近、母国語によって意思伝達ができない障害児に対して代替言語、即ち人工語の開発研究並びに試験的適用が試みられている。本論においては、先ず人工語研究の発端とその発展、現状について述べ、知的障害児や発達障害児への応用について考察を試みた。