著者
斎藤 忠志
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 商学研究 (ISSN:02858932)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.11-61, 2004-09-30

家電流通機構は未整備であったが, 戦後, 大量生産体制を確立した家電メーカーは卸売段階, 小売段階に対して各種の指導・援助を提供し家電流通経路を整備した。その結果, 卸売段階はメーカーの販売会社となり, 小売段階は各メーカーの系列店と呼ばれるものになった。業界は成長するが製品普及率の高まりとともに, 複数メーカー製品を扱う非系列の家電専門量販店が誕生し, 品揃えと低価格販売により市場シェアを拡大させた。一方で日米構造協議を契機に業界の取引制度改善が要請されて, 流通系列化政策は見直しを迫られる。バブル崩壊後, 新興大型専門店が出現し中小規模の系列店シェアは縮小し, メーカーは消費者重視の視点から流通業者との間で新しい取引関係の構築が求められる時代になっている。
著者
小見山 隆行
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 商学研究 (ISSN:02858932)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.179-205, 2007-03-31

近年,フリーター,ニートの増加など,若年者をめぐる雇用問題は大きな社会問題となっている。大卒者も例外でない。若年者の雇用悪化の背景には,厳しい就職環境といった外的要因のみならず,就職者の職業観や就業意識などの内的要因,日本的雇用制度としての年功序列貸金制・終身雇用制の崩壊という構造的な要因も複雑に絡んでいるといえる。また,経団連が提唱した「雇用ポートフォリオ」という考え方に基づいた新たな複線型の雇用管理の導入も新規学卒採用を少数厳選採用に向かわせている。伝統的な日本型雇用システムであった「新規学卒定期一括採用」という「モデル」は,産業構造の変動に規定されてゆらぎ始めている。若年雇用の不安定化によって生み出される社会的問題は無視できない。日本全体の人的資本の蓄積の後退,社会全体に経済的損失をもたらす可能性,若者たちのエネルギーが誤った方向に流れる等,社会全般に及ぼす影響は決して小さくない。本稿は,若年者の雇用事情が深刻な事態をもたらしている社会的な背景を探り,高等教育機関としての大学が,学生を社会に送り出すにあたって,いかに職業生活への移行を円滑に図っていくか,大学教育の役割をどのように果たしていくべきか,大卒者の就職事情,就職観等を分析し,キャリア教育の在り方について考察を試みる。
著者
小見山 隆行
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 商学研究 (ISSN:02858932)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.39-63, 2006-12-20

本稿は,江戸時代,明治維新以降の商業教育の生成・変遷を概観し,商業道徳がどのように位置づけられてきたかを検証し考察する。江戸期の商人教育の関わりとして,年季奉公以前の幼少時の「寺子屋」教育と「丁稚奉公」制度,「家憲・家訓」及び「商売往来」の説く商人道,石田梅岩の「石門心学」にみられる商業道徳,近江商人の「三方よし」の思想等について,商業教育と道徳教育の観点から検証を試みた。日本商人観の近世・近代の連続・非連続論,明治維新以降の近代教育と商業学校制度の発達,渋沢栄一の「道徳経済合一説」の説く道徳思想等を分析するともに,戦後の新教育制度における学習指導要領「商業科目」の変遷を概観し,次期改訂への若干の提案とともに,これからの商業教育(ビジネス教育)における新たな使命と役割,商業道徳教育のあり方等について考察した。
著者
根津 永二
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 商学研究 (ISSN:02858932)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.127-144, 2007-03-31

日銀の福井総裁は「家計の生活経営が切り拓く日本の新時代」という講演の中で, 生活におけるリスク・テイクは家計には新しい道を開き,マクロ経済的には新しいビジネスを創造する可能性を高めるだろうと述べ,積極的なリスク・テイク(リスク投資)を推奨している。しかし,積極的にリスクを取るには,リスク管理は欠かせないが,現在の金融取引環境や家計・個人の金融面の知識やリスク管理能力は,家計・個人にリスクを積極的に取るように勧めるような金融環境は整っていないように思われる。また,所得や資産の少ない階層ほど安全資産の保有比率が大きいが,低金利,株主重視・配当重視のなかで,リスク投資を行っている階層との資産格差は増大する。階層間の格差が固定しないような政策が必要になるであろう。日本では土地・住宅取得や教育費が高い。これは金融資産の選択にも影響するだろう。このような状況では,危険回避的な日本人の金融資産選択では,低利ターン・低リスク・高流動性の金融資産選択が最適な選択と判断される。これは現状の選択を最適と見なす顕現選好の理論(Theory of Revealed Preference)の考え方とも整合的である。