著者
田中 里尚
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.31-38, 2011-01

本研究は,Angela McRobbieが行った『Jackie』の分析視角を『CanCam』に適用した試論である。1982年1月に創刊された『CanCam』(小学館)は,現在のイメージとは相反して大学生活をエンターテインメント化し,その架空の舞台を通じて,ファッションや恋愛の情報を提供する雑誌であった。ところが,80年代の好景気と雇用機会均等法の施行という背景を受けて,徐々に誌面の中での高級化が進行した。高級化とは単に情報として提示される服の価格の上昇ということではない。すなわち,服を用いて表現されるアイデンティティにステータス意識を持ち込むことによって,創刊当初の大学生活の舞台とファッションが犠牲になり,ステータス意識のある女性像が構築された。その結果,誌面にはブランドを推奨する記事があふれた。それは単にブランド好きということではなく,ステータス意識をもつ女性像に必要なものとして提示され,正当化をほどこされている。また,異性目線によって作られていたファッション記事は,ステータス意識を持つ女性が語る「自分らしさ」という言葉に代表されるように,自分あるいは同性の目線で作られる記事へと変容した。
著者
伊藤 由美子 大橋 寛子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.11-20, 2011-01

本学園服飾博物館所蔵品の中で,装飾に優れたオートクチュール仕立てのイブニングドレスを取り上げ,その詳細な記録を残すことを目的とした。方法は,作品の構造,縫製・装飾技法は写真撮影により情報を収集し,実測および立体裁断の手法を用いてパターンを採取,さらにトワルによる再現を行った。結果,構造は,上半身保形のため内側に脇身頃を除く前後身頃の其々ウエストまで5本の金属製ボーンが裏打ち布に留められていた。内ベルトは身頃と裏地との間にあった。縫製技法では,裾の始末に現在の技法との相違点がみられ,折り上げた縫い代の0.5cm奥を千鳥がけで留めていた。装飾は,図案の輪郭を1本糸の鎖縫いミシンで縫われ,大きさの違う5種のラインストーン,4種のパールを巧みに使い分けており,穂の部分は,白の綿糸で隙間なく糸を渡し,その上に長さ2mm弱の管状ビーズで刺繍されていた。パターンは,ウエストより下部に使用した布幅の分量をそのまま生かし,脇身頃に利用していた。今回は,パターン採取とそのフォルムの確認およびドレス構造と技法のみの調査結果に留まった。今後は,これらを踏まえて資料に近い布を使用した実物製作を通しての縫製技法を分析したいと考える。
著者
北方 晴子 古賀 令子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.21-30, 2011-01

本稿は,筆者を含む研究者6名による共同研究「ファッション誌の現在に関する一研究」1)の成果報告の一部である。2008年に行った先行研究や業界誌における議論を分析・検討する基礎調査を経て,2009年9月に<ファッションとメディアを考える>シンポジウムを企画開催した。基礎調査とシンポジウムにおける議論の中で浮上したのが,中国市場の急速な発展である。そこで,ファッションおよびファッション・メディアの発展プロセスの研究において,最重要なケーススタディとして中国市場の調査研究の重要性が高まっていると考え,主要ファッション誌の編集者インタビューを中心とする中国ファッション誌の現地調査を行った。その結果,これまでファッション誌と読者との関係は,ファッション誌が読者を教育するという状態にあり,中国ファッション誌の市場やコンテンツにおける牽引役を日本系や欧米系提携誌が担ってきたが,現在中国ファッション誌の最大の課題は,美意識や価値観の「本土化」(脱輸入依存)にあることが明らかとなった。また,ウェブと紙媒体との関係についても,ウェブは紙媒体に対する脅威ではなく補完・共存するべきものとの捉え方が共通していたことも,今後のファッション誌の展望について考察を進めるに際しての1つの指針を得た。