著者
古賀 令子 北方 晴子 田中 里尚 濱田 勝宏
出版者
ファッションビジネス学会
雑誌
ファッションビジネス学会論文誌 (ISSN:13489909)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.67-77, 2011-03

ファッションとメディアは切っても切れない関係にある。しかし、近年の大きな社会変化の影響が、ファッションの環境や構造を大きく変貌させ、メディアも「紙媒体」依存からの脱皮を余儀なくさせつつある。ファッションとメディアとの関係も、従来モデルから大きく変化しつつある。本研究では、そうしたファッション環境変化の現状とその変化に適応しようとしているファッション・メディアの課題とを把握するために、研究者とファッション・メディア編集の実務者双方の観点から問題を提出し、それらを総合してファッションとメディアとの関係付置を整理して、メディアの現場が抱える問題と、メディア研究が今後目指していく課題とを明確化しようという試みである。基礎的研究と、共通認識を形作るための議論の場の<シンポジウムファッションとメディアを考える〉(2009) の過程で、浮かび上がったいくつかの課題を、中国ファッション誌の現在の状況をケーススタディとして検証した。外部からの先進情報の導入と読者の啓蒙、内なる丈化の醸成と発信というメディアの機能が再確認でき、インターネット情報が氾濫する時代において「紙媒体としてのファッション誌」の意味を再考する必要性が浮上した。
著者
北方 晴子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化女子大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.39-52, 2007-01

20世紀初頭のイタリアで始まった新しい芸術運動であるイタリア未来派は,詩人マリネッティによる『未来派宣言』により始まり,イタリアの過去の伝統を否定し,機械によってもたらされた力やスピードなどから新しい美意識の誕生を掲げた。次第にファッションにも関心を抱き始め,バッラやタイアートらが試みた革新的なメンズファッションの創造と改革を提案した。未来派によるそうした試みは,19世紀後半から20世紀初頭に見られた女性の社会的領域の拡大による男女差の縮まりや不確かな男らしさに対し,新たな男らしさを示す動きであった。そして未来派は,次第にヨーロッパに広がるファシズムの美意識に取り込まれていった。男性至上主義を推進するファシズム文化は,男性性を強調し,未来派こそファシズム美学を支えた男性性を強く主張する表象となっていった。一方で,当時,演劇の領域でも革新が見られ,未来派の中でも特にデペーロは舞台衣装への関心を寄せた。ファシズム文化において極めて重要な男性の身体意識という視点で論考を進めた結果,未来派は男性の身体の発見にも大きな影響を及ぼしていた。
著者
大石 さおり 北方 晴子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.63-73, 2013-01

本稿では、現代日本における男性役割観について、次の2点を目的として調査を行った。(1)現代日本社会における男性役割観を測定する尺度の作成、(2)男性役割観についての考えが性別や年代によって異なるのかについての検討、である。予備調査で収集した186の特性が現代男性にとって重要な程度について、関東1都3県在住の男女419名(10〜50代)の回答を対象として分析を行った。(1)尺度の作成については、最終的に55項目からなる尺度を作成した。尺度の因子構造は、5因子とすることが妥当であった。第1因子より"社会的望ましさ"、"見た目のよさ"、"個性"、"豪快さ"、"精神的強さ"と命名し、これらを現代日本における男らしさ測定尺度の下位概念とした。(2)については、現代の男らしさの概念には、性別によって考え方が異なる下位概念と年代によって考え方が異なる下位概念が含まれていることが明らかとなった。具体的には、女性は男性より、男性に対し社会的望ましさや豪快さを求めている傾向がみられた。一方で、10代の男女は男性により外見的なよさや個性を重要視しているということがわかった。
著者
古賀 令子 北方 晴子 田中 里尚 濱田 勝宏
出版者
ファッションビジネス学会
雑誌
ファッションビジネス学会論文誌 (ISSN:13489909)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.67-77, 2011-03

ファッションとメディアは切っても切れない関係にある。しかし、近年の大きな社会変化の影響が、ファッションの環境や構造を大きく変貌させ、メディアも「紙媒体」依存からの脱皮を余儀なくさせつつある。ファッションとメディアとの関係も、従来モデルから大きく変化しつつある。本研究では、そうしたファッション環境変化の現状とその変化に適応しようとしているファッション・メディアの課題とを把握するために、研究者とファッション・メディア編集の実務者双方の観点から問題を提出し、それらを総合してファッションとメディアとの関係付置を整理して、メディアの現場が抱える問題と、メディア研究が今後目指していく課題とを明確化しようという試みである。基礎的研究と、共通認識を形作るための議論の場の<シンポジウムファッションとメディアを考える〉(2009) の過程で、浮かび上がったいくつかの課題を、中国ファッション誌の現在の状況をケーススタディとして検証した。外部からの先進情報の導入と読者の啓蒙、内なる丈化の醸成と発信というメディアの機能が再確認でき、インターネット情報が氾濫する時代において「紙媒体としてのファッション誌」の意味を再考する必要性が浮上した。
著者
北方 晴子
出版者
文化学園大学・文化学園大学短期大学部
雑誌
文化学園大学・文化学園大学短期大学部紀要 (ISSN:24325848)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.43-48, 2019-01-31

昨今、「スカート男子」という言葉が聞かれるように、モードに関心の強い若い男性の間ではスカートを履く姿も見ることが出来る。かつて女性専用の衣装と考えられていたスカートが、今なぜ男性に広がりつつあるのだろうか。本研究ノートでは、かつての「男がズボン、女はスカート」の定説がいつごろ誕生し、定着していったのか整理した。そして、服飾史の中でも特異な現象である17 世紀の男性用のスカート風半ズボンの流行、その後のフランス革命直後に現れた男性用チュニックを取り上げた。また、イギリスでは19 世紀後半、男性衣装に関する改革が試みられた。そして20 世紀初頭、組織団体メンズドレスリフォームパーティが設立され、長ズボンを排除し、スカート風ズボンを推し進めようとした。一方で、19 世紀はヨーロッパで民族衣装が再認識された時期でもある。自然回帰、異国趣味、地方趣味、素朴さへの愛好などを重んじるロマン主義時代、作家や芸術家は民衆の生活に注意を向け始めた。東西ヨーロッパ遠隔地や一部では原初的な形としてチュニック形式の男性民族衣装があった。そこで本研究ノートでは歴史にみる男性用スカートとスカート風民族衣装について整理をし、現代男性とスカートについての論考に繋げる足がかりとしたい。
著者
北方 晴子 大石 さおり
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
no.44, pp.63-73, 2013-01-31

本稿では、現代日本における男性役割観について、次の2点を目的として調査を行った。①現代日本社会における男性役割観を測定する尺度の作成、②男性役割観についての考えが性別や年代によって異なるのかについての検討、である。予備調査で収集した186の特性が現代男性にとって重要な程度について、関東1都3県在住の男女419名(10~50代)の回答を対象として分析を行った。①尺度の作成については、最終的に55項目からなる尺度を作成した。尺度の因子構造は、5因子とすることが妥当であった。第1因子より“社会的望ましさ”、“見た目のよさ”、“個性”、“豪快さ”、“精神的強さ”と命名し、これらを現代日本における男らしさ測定尺度の下位概念とした。②については、現代の男らしさの概念には、性別によって考え方が異なる下位概念と年代によって考え方が異なる下位概念が含まれていることが明らかとなった。具体的には、女性は男性より、男性に対し社会的望ましさや豪快さを求めている傾向がみられた。一方で、10代の男女は男性により外見的なよさや個性を重要視しているということがわかった。
著者
北方 晴子 古賀 令子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.21-30, 2011-01

本稿は,筆者を含む研究者6名による共同研究「ファッション誌の現在に関する一研究」1)の成果報告の一部である。2008年に行った先行研究や業界誌における議論を分析・検討する基礎調査を経て,2009年9月に<ファッションとメディアを考える>シンポジウムを企画開催した。基礎調査とシンポジウムにおける議論の中で浮上したのが,中国市場の急速な発展である。そこで,ファッションおよびファッション・メディアの発展プロセスの研究において,最重要なケーススタディとして中国市場の調査研究の重要性が高まっていると考え,主要ファッション誌の編集者インタビューを中心とする中国ファッション誌の現地調査を行った。その結果,これまでファッション誌と読者との関係は,ファッション誌が読者を教育するという状態にあり,中国ファッション誌の市場やコンテンツにおける牽引役を日本系や欧米系提携誌が担ってきたが,現在中国ファッション誌の最大の課題は,美意識や価値観の「本土化」(脱輸入依存)にあることが明らかとなった。また,ウェブと紙媒体との関係についても,ウェブは紙媒体に対する脅威ではなく補完・共存するべきものとの捉え方が共通していたことも,今後のファッション誌の展望について考察を進めるに際しての1つの指針を得た。
著者
北方 晴子
出版者
ファッションビジネス学会
雑誌
ファッションビジネス学会論文誌 (ISSN:13489909)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.183-192, 2006-03

イタリア未来派は1909年にマリネッティMarinetti,T.E(1876~1944)を指導者として始まった芸術運動である。過去の遺産や伝統的な価値と対立し、新時代に相応しい生活と様式を創造しようと衣装についても強い関心を抱き、特にメンズファッションを巡っては革新的な改革を提唱した。メンズファッション改革を中心的に進めたバッラBalla,G(1871-1958)は1914年5月にLe vetementmasculine futuriste manifeste(未来派男性衣装宣言)を発表し、同年9月にII vestito antineutrale manifesto futurista(未来派反中立衣装宣言)を発表した。タイアートThayaht,E.(1893-1959)は1932年のManifesuto per la transformazione dell'abbigliamento-maschile(男性衣装変革宣言〉を発表し、1933年未来派グループによりII manifesuto futurista del cappelo italiano(イタリア帽子未来派宣言)、Manifesto futurista sulla cravatta italiana(イタリアネクタイ未来派宣言)が発表された。当初としては非常に新しい美意識を持っており、その独特な発想は今日でも高い関心が持たれている。他方、1914年7月第1次世界大戦が勃発し、次第にファシズムへと導かれ参戦へと向かう。未来派は活動の中心を芸術から政治へと移行し、ファシズムに傾斜していった。この時期にタイアートら未来派の活動は活発化していく。男性至上主義的な考え方を推進するファシズムこそ男らしさを強調する文化であり、そうしたファシズム美学を支えたひとつにイタリア未来派があった。すなわち、彼らが取り組んだ試みは男らしさを強く主張する表象であった