著者
星野 三喜夫 HOSHINO Mikio
出版者
新潟産業大学経済学部
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 = Bulletin of Niigata Sangyo University Faculty of Economics (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.48, pp.1-19, 2017-01

フィリピンと中国の南シナ海を巡る係争に関し2016年7月12日に常設仲裁裁判所が出した裁定は、中国の南シナ海域内の資源に対し中国が主張する管轄権や歴史的権利を否定したが、同裁定は常設仲裁裁判所が執行機関を持たないことから「強制力」がない。しかしながら、たとえ「強制力」はないとしても裁定は「最終的」かつ「法的拘束力」を持つ。中国は下された裁定に従う意向を見せず、同海域での動きを活発化させている。裁定は力ではなく法に基づく海洋法秩序の維持という観点から、当事国のみならずすべての国・地域が真摯に受け止めるべきものである。国連海洋法条約により組織された常設仲裁裁判所によって出された裁定を尊重しないということは、中国が国連の加盟国として国際社会で法と秩序を守る責任感を欠如していること、また、国連の常任理事国としての失格がないことを認めたのと同義である。日本及び国際社会は、国連という国際社会の秩序の枠組みと法規範に基づいて決定されたことでであっても、強大な軍事力と経済力を持ってすればこれを無視することもできる、といった誤ったメッセージで既成事実(fait accompli)を形成してしまわないよう、裁定に従わない中国に対し、あらゆる場で協調して対応していく責務がある。今次の裁定は、旧約聖書の羊飼いの少年ダビデが巨漢戦士ゴリアテを倒し勝利した寓話を思い起こさせるが、フィリピン及び周辺国・地域をローマ軍を撃破した古代ギリシャのピュロス王の「割に合わない勝利」に終わらせてはならない。
著者
小林 健彦 KOBAYASHI Takehiko
出版者
新潟産業大学経済学部
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 = Bulletin of Niigata Sangyo University Faculty of Economics (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.47, pp.75-99, 2016-07

日本古代に於ける自然災害や疾病がどの様な認識の下に置かれ、それらに対してどの様な対処法が採用されていたのかに就いては、尚、類推の域を出ることは無い。「日本書紀」は、日本で初めて記録された正史として、神話を始めとした様々な事象が日本風の正格漢文で作文されたものである。そこには、政治的な出来事を始めとして、外交、戦争、自然災害、疾病、人々の営み、文化、文芸、天文現象、宗教等、様々な分野の事象が盛り込まれた。それらが事実であるか、否かは別として、古代当時の人々の実態を窺がい得る手掛かりを与えてくれるものである。本稿では、「日本書紀」全30巻に記された歴代天皇の事績の内、自然災害や疾病に焦点を当てながら、安定したサンプルとして、天皇不豫~崩御に至る過程を中心として検証することに依り、それを以って、古代に於ける疾病や、自然災害に対する認識を垣間見ようとするものである。
著者
堀口 俊二 下斗米 哲明 HORIGUCHI Shunji SHIMOTOMAI Tetsuaki
出版者
新潟産業大学経済学部
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 = Bulletin of Niigata Sangyo University Faculty of Economics (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.48, pp.65-77, 2017-01

オランダ測量術が1641年から1649年に日本に伝わった.江戸幕府(1603-1867)は国絵図作成のためにオランダ流測量術を奨励した.秘伝規矩元法別伝・八事絵巻と規矩元法別伝目録秘八目録図解は,清水貞徳(1645-1717)が確立したオランダ流測量術である.絵巻は題名,著者,年代不明である.目録は盛岡藩家臣簗田義智(義和)が1759年に盛岡藩別家の殿様に献上するために書いた.これら2つは,目録の最初の4ページを除けばほぼ同じ内容であり,どちらが古いか以前から問題となっている.本稿の目的はこれを考察することにある.このため我々は2つの違いを詳細に比較する.その結果「絵巻は目録より古いであろう.目録は殿様用に模写・改良したものである.」という結論を得る.さらに清水太右衛門尉貞徳の説明箇所では,絵巻では門弟は「数千人」とある.この「数千人」は当時の清水流測量術の隆盛を示す貴重な数値である.
著者
堀口 俊二 下斗米 哲明 HORIGUCHI Shunji SHIMOTOMAI Tetsuaki
出版者
新潟産業大学附属東アジア経済文化研究所
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 = Bulletin of Niigata Sangyo University Faculty of Economics (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.45, pp.79-99, 2015-06

2007年に札幌の石川雅康氏の自宅で清水流測量術の絵巻が見つかった.本稿では,この絵巻を手がかりに人の繋がりを求め,伝来経路を考察する(§2).さらに絵巻の影印を与える(§4).§1は清水流測量術,絵巻の発見とその著名を説明する.§3は絵巻の概略と関連書である.