著者
平賀 一希
出版者
日本地方財政学会
雑誌
日本地方財政学会研究叢書 (ISSN:24367125)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.105-124, 2021 (Released:2022-03-26)
参考文献数
15

本稿では,震災や火山噴火警戒レベル上昇といった自然災害による外生的ショックが自治体の入湯税収に与える効果について,箱根町のデータを用いて実証分析を行う.箱根町においては,全国自治体でもっとも多くの入湯税収を得ているおり,具体的には,2008年1月から5地区別で月次データとして収集している.本稿においては,自然災害ショックとして,直接的な影響として箱根山の噴火警戒レベルが変化したことと,間接的な影響として,東日本大震災による全国的な自粛ムードを通じた影響について検証を行った.2つの自然災害ショックの影響を定量的かつ動学的波及効果を明らかすべく,パネルLocal Projectionという手法を用いて検証を行った.本稿の分析結果より,東日本大震災発生時のショックは大きく,発生時点では,各地域において平均約745万円(5地域計約3725万円)ほど入湯税収が減少し,箱根山噴火警戒レベルショックは約139万円(5地域計約695万円)ほどであった.一方,ショックの持続性という観点で見ると,東日本大震災の影響は2か月ほどで収束している一方,火山噴火の影響については,7か月ほど持続していることが分かった.
著者
奥 愛
出版者
日本地方財政学会
雑誌
日本地方財政学会研究叢書 (ISSN:24367125)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.47-66, 2022 (Released:2023-03-26)
参考文献数
27

本稿では,日本の自治体がエネルギーの地産地消を目指し,再生可能エネルギー供給事業に関わる際に直面するリスクへの対応について,アメリカのカリフォルニア州のCCA(Community Choice Aggregation)を事例に取り上げ検討した.CCAは電気料金を低くしながらも再生可能エネルギーの比率を高め,住民の理解を推進するインセンティブが働く設計になっている.本稿で取り上げた事例では,積極的な情報開示や補助金に依存しない事業収益での活動,地域電力会社との役割分担がなされている.また,価格変動リスクに対しては,緊急時,長期,常時の3つの局面に応じた対応が行われている.さらにリスクを減らすための対応としては,規模の経済を目指すことが有効であり,オプト・アウト方式の導入により顧客が増加すれば,電力調達で価格交渉力を強め,安定した財政基盤を築くことができる.連携については,日本では自治体新電力に都道府県が関与しながら進めていく方法が考えられる.本稿は,日本の自治体新電力にとって参考となる再生可能エネルギーの導入に伴うリスク対応策について,CCAを事例に用いた分析を通じ,地域住民の合意に基づく意思決定が行われ,各地域が水平連携し,代表組織との垂直連携を進めながら,自律的な地方自治が形成されている動きも明らかにした.
著者
小川 顕正 赤井 伸郎
出版者
日本地方財政学会
雑誌
日本地方財政学会研究叢書 (ISSN:24367125)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.15-37, 2021 (Released:2022-03-26)
参考文献数
28

本稿は,市区町村によるコンビニ交付サービスの導入や交付促進政策が,各市のマイナンバーカードの1年間の交付枚数にどのような影響を与えているのかを定量的に分析したものである.現在,「特別定額給付金」をめぐる混乱によって,行政手続のオンライン化が改めて最重要課題として認識されているが,それに不可欠なマイナンバーカードの普及はいまだ不十分であり,交付率(累計交付枚数を交付対象人口で除したもの)は,15.5%に留まっている(2020年3月1日時点の全国平均).このことから,これまでコンビニ交付サービスの導入による利便性の向上や,市区町村による交付促進政策を通じたマイナンバーカードを取得しやすい環境の整備などが行われてきたのだが,それらの効果について研究は十分に蓄積されていない.そこで,本稿では,市区町村によるコンビニ交付サービスの導入や,その他の交付促進政策が交付率向上につながっているのかを分析した.市を対象にした分析の結果,市区町村によるコンビニ交付サービスの導入や,その他の交付促進政策がマイナンバーカードの交付を促進していることを明らかにした.