著者
米岡 秀眞 赤井 伸郎
出版者
財務省財務総合政策研究所
雑誌
フィナンシャル・レビュー (ISSN:09125892)
巻号頁・発行日
vol.149, pp.112-136, 2022 (Released:2023-02-10)
参考文献数
34

政治家の在職年数と財政運営の間における関係性については,これまで先行研究により,多くの議論が行われてきたが,正負いずれの影響を及ぼしているかについて論争がある。また,わが国の地方自治体の財政運営を分析した先行研究は,2000 年初頭までのデータによる検証が多かったため,2000 年の前後に生じた地方財政を取り巻く環境変化について十分な考慮が行われた上で,議論がなされてきたとも言い難い。本研究の目的は,こうした既存研究の課題を克服するために,1975 年から2017 年までの都道府県パネルデータを用いて,知事の在職年数と地方歳出との関係性を実証的に明らかにすることにある。その際,2000 年の前後を境として,地方歳出と知事の在職年数と の関係性が異なる可能性,あるいはそうした関係性が知事の属性及び就任時期によっても異なる可能性に着目して,実証分析を行った。実証分析から,以下の3 つの結論を得た。まず,知事の在職年数が長いほど地方歳出が 抑制されるかどうかに関しては,データの全体(1975~2017 年)では見出せなかったものの,2000 年以後において,その抑制傾向が確認された。2000 年の地方分権一括法の施行に伴った影響をより強く受けていたものと推察される。また,こうした2000 年以後に見られる知事の在職年数が地方歳出にもたらす影響は,知事の出身属性によって異なる効果が生み出されていること,さらには,その知事の出身属性の違いによる効果も,2000年以後に新たに知事が就任したか否かで異なることが確認された。得られた結論には,既存研究においてこれまで明らかにされてこなかった点,あるいは既存研究の見解とは異なる点がいくつかあり,少なくない示唆が含まれている。これらの結果を踏まえ,今後,首長の在職年数の長さが及ぼす効果と関連する制度のあり方について,さらに分析を深めていく必要がある。
著者
竹本 亨 赤井 伸郎 沓澤 隆司
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.163-180, 2019 (Released:2021-07-28)
参考文献数
13

コンパクトな都市の方が1人当たり歳出は低いが,コンパクトな都市へ再構築することは簡単ではない。しかし,何もせずに手をこまねいていたらならば,今後予想される人口減少によって,今以上にコンパクトでない都市へと変貌(非コンパクト化)してしまう可能性がある。本稿では「基準化された標準距離」を都市のコンパクト化の度合いを示す指標として用いて,人口減少に伴って進む非コンパクト化が財政に与える影響をシミュレーションした。その結果,非コンパクト化による歳出増加額は,全体で2030年度は2867億円,2045年度は5549億円となった。特に,人口規模が小さい市町村において,非コンパクト化の影響が大きく出ることも明らかとなった。さらに,「基準化された標準距離」を現在よりも10%および20%縮小するという政策を実施すると,最大で10%の場合に4568億円,20%の場合に8640億円の削減効果が示された。
著者
山下 耕治 赤井 伸郎 福田 健一郎 関 隆宏
出版者
財務省財務総合政策研究所
雑誌
フィナンシャル・レビュー (ISSN:09125892)
巻号頁・発行日
vol.149, pp.202-223, 2022 (Released:2023-02-10)
参考文献数
11

本稿の目的は,水道管路の老朽化や人口減少の進行は,家事用の水道料金にどのように反映されるのか,さらには,口径別か用途別かという料金体系の違いは,水道料金の格差を生む要因であるのかについて実証的に明らかにすることである。パネルデータを用いた検証から,次のようなファクト・ファインディングを得た。 第一に,老朽化した水道管路の割合が高い事業体ほど,家事用の水道料金は有意に高くはなるが,そのパラメータはゼロに近く極めて小さいことを確認した。すなわち,管路の老朽化を見据えた水道料金の設定・改定は機能していないことを示唆するものである。第二に,口径別料金体系を採用している事業体では,用途別の事業体と比較して,家事用の水道料金は高い水準にある。さらに,口径別の事業体では,老朽化した管路の割合が高いほど水道料金が高いことが確認された。すなわち,用途別の事業体では,「家事用」という区分が明示的に存在することで,家事用の水道料金を高い水準に設定・改定することへの反発を招くなど意思決定上の困難性が存在するのかも知れない。第三に,口径別料金体系を採用している事業体は収益性が高く,用途別の事業体は収益性が低いことを確認した。 地方公営企業である水道事業は,独立採算制が原則で,原価に見合った料金設定・改定が求められている。用途別の料金体系を採用することで,水の使用目的により水道料金が異なる状況は,原価に見合った料金設定が機能していないことを意味する。用途別の料金体系は,施設の老朽化や事業の収支を見据えた適正な水道料金の設定・改定を阻む制度的要因になっていると思われ,持続可能性の観点からは,口径別料金体系の導入が望まれる。
著者
金坂 成通 倉本 宜史 赤井 伸郎
出版者
財務省財務総合政策研究所
雑誌
フィナンシャル・レビュー (ISSN:09125892)
巻号頁・発行日
vol.149, pp.137-157, 2022 (Released:2023-02-10)
参考文献数
45

汚職は,予算権限を持った個人主体が,ある特定の団体に利益(資金)を誘導・配分する代わりに,個人での利益を得る仕組みであり,公益とは乖離し,社会全体での効率的な資源配分を歪める要因となる。新たな資金を配分する場合には,歳出総額は拡大し,また,資金配分が非効率になる場合には,特定分野の資金が拡大し,歳出の無駄が発現すると考えられる。本稿は,汚職の存在と歳出の増加との関係について,汚職は発覚するまで存在がわからないという点に注意しながら,統計データを用いて明らかにする。 先行研究の多くがクロスカントリーデータを用いており,国家間の財政制度の違いを考慮できていないという限界を踏まえ,日本国内のデータを用いたことが,本稿の新規性である。本稿では,初めて日本の都道府県データを用いて,汚職発覚が歳出(歳出総額,土木費および落札率)に与える影響を検証している。 推定結果から,汚職の発覚後に歳出を抑える可能性がある事が示された。加えて,政治的状況による汚職発覚の影響を分析した結果,選挙において得票率が高かった知事のいる地方自治体ほど(競合する他候補者の得票率が低いほど),汚職発覚による歳出削減の効果は抑制されることを示唆する結果となった。この結果より,政治構造次第では,汚職発覚が直ちに歳出削減に繋がるわけではなく,知事の行動についても注視するべきという含意も得られる。
著者
山内 直人 赤井 伸郎 石田 祐 稲葉 陽二 大野 ゆう子 金谷 信子 田中 敬文 樽見 弘紀 辻 正次 西出 優子 松永 佳甫
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」の定量的把握および統計的分析からその経済社会的効果を分析し、政策的意義について検討・評価することを目的としたものである。 研究の成果を通じて、抽象的概念であるソーシャル・キャピタルの定量的把握に関する手法を開発、新しいソーシャル・キャピタル指標を提示し、それを用いた実証分析を行うことが可能となった。また、これまで十分に解明されてこなかったソーシャル・キャピタルの日本的特徴を把握し、多様な政策対象とソーシャル・キャピタルとの関係性に関する理論的、実証的示唆を得るとともに、ソーシャル・キャピタルの社会的意義や政策的インプリケーションに関する検討課題や論点を整理した。
著者
沓澤 隆司 赤井 伸郎 竹本 亨
出版者
会計検査院
雑誌
会計検査研究 (ISSN:0915521X)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.31-52, 2023-03-17 (Released:2023-03-17)
参考文献数
19

「コンパクトシティ」は,都市内での移動距離が短いため,歩行や歩行を伴う公共交通が移動手段に選ばれることが多く,その結果として歩行時間が長く住民の健康に良い影響を与えている可能性がある。しかし,都市のコンパクト度と歩行時間との関係や歩行時間と健康状態との関係は先行研究で分析されているが,コンパクトシティの形成が住民の健康状態を改善するかどうかは十分に解明されていない。 そこで,都市のコンパクト度が住民の健康状態に与える影響について,パネルデータを用いた固定効果分析を行った。本稿では、住民の健康状態を示す指標として「要介護の認定を受けた者が高齢者に占める割合(要介護認定率)」や「国民健康保険の被保険者1 人当たり医療費」を,都市のコンパクト度を示す指標として「基準化された標準距離」を使用した。 分析の結果,都市のコンパクト度が高い市町村ほど,①要介護認定率は低い,②健康の悪化がより深刻な要介護度の高いグループごとの認定率は低い,③国民健康保険の被保険者1人当たり医療費は低い,という3 点が明らかとなった。 この分析結果を前提とすれば,コンパクト度の高い都市を形成していった場合には,歩行時間の増加を通じて住民の健康状態も良好となり,将来的に要介護認定者に対する給付額や住民の医療費は低くなると推察される。よって,本稿の分析は,コンパクトシティの形成が介護や医療といった社会保険に係る財政 支出を抑制する効果を持つ可能性を示唆するものと言える。
著者
小川 顕正 赤井 伸郎
出版者
日本地方財政学会
雑誌
日本地方財政学会研究叢書 (ISSN:24367125)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.15-37, 2021 (Released:2022-03-26)
参考文献数
28

本稿は,市区町村によるコンビニ交付サービスの導入や交付促進政策が,各市のマイナンバーカードの1年間の交付枚数にどのような影響を与えているのかを定量的に分析したものである.現在,「特別定額給付金」をめぐる混乱によって,行政手続のオンライン化が改めて最重要課題として認識されているが,それに不可欠なマイナンバーカードの普及はいまだ不十分であり,交付率(累計交付枚数を交付対象人口で除したもの)は,15.5%に留まっている(2020年3月1日時点の全国平均).このことから,これまでコンビニ交付サービスの導入による利便性の向上や,市区町村による交付促進政策を通じたマイナンバーカードを取得しやすい環境の整備などが行われてきたのだが,それらの効果について研究は十分に蓄積されていない.そこで,本稿では,市区町村によるコンビニ交付サービスの導入や,その他の交付促進政策が交付率向上につながっているのかを分析した.市を対象にした分析の結果,市区町村によるコンビニ交付サービスの導入や,その他の交付促進政策がマイナンバーカードの交付を促進していることを明らかにした.
著者
沓澤 隆司 竹本 亨 赤井 伸郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.190-212, 2020 (Released:2022-01-19)
参考文献数
22

都市の中心部に人口が集中した都市(コンパクト度の高い都市)においては,住宅地等の地価が上昇する可能性がある。その背景として都市のコンパクト化が行政サービスの効率化および,住民の利便性の向上や経済活動の効率性の上昇をもたらしている可能性が推測される。本稿では,都市のコンパクト度が上昇する(都市がコンパクト化する)ことが公示地価等にどのような影響を与えているかについて,コンパクト度の違い,用途の別,都市の中心点からの距離帯ごとの異なる効果を考慮して,パネルデータによる固定効果分析を行った。この結果,都市のコンパクト度が上昇すると地価が上昇する関係が見られること,その影響はコンパクト度の違い,住宅地や商業地の用途の別によって異なること,距離帯別の分析では,用途全体,あるいは住宅地において,都市の中心点に近接した地域ではコンパクト度が上昇する際の地価の上昇幅は大きくなる傾向があることがわかった。
著者
石川 達哉 赤井 伸郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.166-190, 2015 (Released:2021-10-26)
参考文献数
12

土地開発公社は母体地方公共団体との一体性が高く,借入に際しての債務保証・損失補償の金額も大きいため,これを清算することは母体の財政健全化という文脈で捉えることができる。特に,地方財政健全化法の下では土地開発公社の債務の一部が将来負担比率に算入されることに着目し,清算に向けた第三セクター等改革推進債の発行が地方財政健全化法の判断基準,母体の財政状況や公社の土地保有の状況によって決まるモデルを推定した。その結果からは,将来負担比率の早期健全化基準からの乖離率(余裕度)が小さいほど発行確率が高まることが確認され,将来負担比率が土地開発公社の清算を促すガバナンス効果を持つことが裏付けられた。さらに,債務保証・損失補償の水準が高いほど,修正実質収支比率が低いほど,また,保有期間5年以上の土地の割合が高いほど,時価評価対象土地の割合が高いほど,発行確率が高まることが示された。
著者
赤井 伸郎 倉本 宜史
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.199-223, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
11

本稿は,将来の港湾の整備・運営の在り方を考えるうえで欠かせない視点として,港湾連携の実態を把握するため,これまでになされた港湾投資のパネル・データから,港湾間競争とも言える国内の港湾同士の相互依存関係の実態を検証するものである。また本稿は,現状把握や分析の工夫により,これまで行われてきた港湾政策を,港湾間の競争の観点(国内の港湾同士の相互依存関係)から,その実態を明らかにする点で意義が高いと言えよう。分析の結果,港湾間で競争がなされてきたこと,また,その競争に影響をもたらす参照先や港湾規模によっては,競争の程度が異なることも見出された。国内の港湾間に競争が存在するという,この結果は,連携の必要性を示唆しており,連携に向けては,港湾間の相互参照先を考慮したうえで,補助政策を含めた,より一層の国家戦略が必要であることを示唆していると言えよう。
著者
金坂 成通 宮下 量久 赤井 伸郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.118-130, 2010 (Released:2022-07-15)
参考文献数
19

わが国の地方分権改革でしばしば議論の対象となる国から地方への税源移譲に関して,その具体的方法を検討するために,垂直的租税外部効果が経済成長に与える影響について実証分析を行った。 推定結果から,垂直的租税外部効果は,経済成長の障害となっていることが示された。また,課税の裁量性に着目し,課税自主権を考慮した指標を用いた結果においても,垂直的租税外部効果は,経済成長を阻害することが確認された。これまで先行研究において,課税自主権の影響が示されていなかったが,本研究において,租税外部効果を通じた影響が新たに明らかとなった。 今後の地方分権に関する税財政論議でも,国から地方への税源移譲を実現するにあたって,民間の経済活動を妨げないように,課税ベースや税率選択において国と地方で過度の重複を避ける工夫が必要といえる。
著者
金坂 成通 倉本 宜史 赤井 伸郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.160-183, 2007 (Released:2022-07-15)
参考文献数
22

現在,公営交通事業において過剰投資や非効率経営による問題点が指摘されている。今後は,民間同様の経営効率性を持って,民営化などの組織形態の変更も含めた改革が求められている。 本稿では,このような状況にある公営交通事業の中でもバス事業と地下鉄事業に対し,平成11年度から平成16年度までの年度間におけるマルムクイスト生産性変化指数を計測した。計測結果から,年度ごとに公営バス事業,地下鉄事業ともに各都市のマルムクイスト生産性変化指数にばらつきがあることがわかった。そして,マルムクイスト生産性変化指数の程度に影響を与えている要因を実証分析において検討した結果,公営バス事業の生産性の変化には,補助金が生産性変化指数を低下させる可能性,また経営基盤強化のための経営計画の実施が効果的である可能性が実証分析により示唆された。また,公営地下鉄事業については委託の促進が生産性変化に効果的である可能性が示唆された。