著者
小松 国子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第59回大会・2016例会
巻号頁・発行日
pp.102, 2016 (Released:2017-01-13)

【目 的】 昨今「家庭基礎」2単位を履修する学校が増加した。「実習時間」 「調べ学習」などの活動が減少して、座学による一斉授業が増えて いる。そのため、知識・技術を習得させることが多くなり、活用・ 思考・表現の場が不足していることが指摘されている(野中ら,2011・ 2012,長澤ら,2011,松井ら,2011)。また、学習指導要領や秋田県学校教育の指針では、生活を主体的に創造する実践的な態度や適切な解決方法を探究する活動の充実が求められている。新学習指導要領においても、「生活の中で課題を設定し、解決する力」が目指す力となっている(中央教育審議会教育課程部会,2016)。そのため家庭科においても探究や協働の力を育む授業の再構築を検討する必要がある。そこで、課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学びを行う手法として「アクティブラーニング」を取り入れた学習を検討した。【方 法】(1)調 査:2015年7月~8月に、秋田県高等学校家庭科教員を対象に「仕事の負担度」「授業項目の重視度」「ホームプロジェクトについて」「技術検定」「施設訪問」「分野統合、他教科連携、他校種連携」「探究及び体験型の学習について」などのアンケート調査を実施した。(2)実 践:2016年4月から、秋田県立K高等学校の「家庭基礎」(1年生で実施)で授業実践を行った。 【結果および考察】(1)調査より県内でも共通教科の選択は「家庭基礎」が70%を超えており、「住生活」「ホームプロジェクト」「被服実習」「高齢者の生活と福祉」の順で教員の授業重視度が低いことが明らかになった。また「ホームプロジェクト」の実施に際しては、複数の課題を感じている教師が多いことや「分野統合」「他教科との連携」は、「やっていないが、今後取り組みたい」という回答が多かった。一方「ロールプレイ」など様々な手法を取り入れている教師は多いが、それが探究・体験型の学習として生徒の主体的な活動に繋がっているか否かまで、評価できていないことが明らかになった。  「家庭科の授業で悩んでいること」の自由記述では,KHcoderを用いて共起ネットワークによる分析を行ったところ、「検定」「時間」「不足」という語を中心とする共起から、悩みを抱える教師の姿が見て取れた。 (2)そこで「授業の振り返り」「探究型授業実践」に焦点をあて、授業のデザインを検討した。授業の振り返りとして、「リフレクションカード」(表裏14回分記載)を使用し、授業終了時の記入を定着させた。それにより、生徒・教師双方の気づきに繋がり、学びの向上が見られた。「社会保障について」の協働学習では、様々な意見を聞き、協議をしながらポスターをまとめることができた。しかし、全員の学習効果が高まっていない状態も見えた。グループ学習に参加することが苦手な生徒への対応も課題である。「高齢者について」のグループ学習では、ポスターセッションを導入することで、グループ全員が真剣にテーマと向き合っている姿があった。発表後に質問を受けることで、高校生である自分達が高齢化にどのように向き合うか、議論を深めている様子が窺えた。このようなグループ学習は、入学間もない生徒達が仲間を知るきっかけにもなった。【今後の課題】「ホームプロジェクト」については、冬季休業中に実施し、主体的・協働的学習の成果を考察したい。また、授業後の生徒の感想については、KHcoderを使った質的評価を検討する。4月に調査した「中学校で身につけた力」と今現在「身についた力」についても分析を行いたい。
著者
林 淑美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第59回大会・2016例会
巻号頁・発行日
pp.57, 2016 (Released:2017-01-13)

【目的・方法】子ども食堂は経済的に困窮していたり、ひとり親で食事の支度が思うようにできなかったりするなどの事情をもつ家庭の高校生以下の子どもに無料、あるいは低価格で食事を提供する場所とされている。その始まりは東京都内で2012年頃と言われており、それ以降全国各地に開設され、増加する傾向にある。子ども食堂の現状と今後期待される影響の可能性について調べるために資料および文献検索を行った。【結果】食育基本法が制定され、食育推進活動が学校、食品製造業、流通業、公共団体など社会の食物や食事に関わる様々な領域で行われるようになり、日常の食事内容や状況を見直して、より良くしようとする意識は人々の間で高まった。しかし、近年国民の経済格差の拡大に伴い、食事の見直しをしても、経済的あるいは時間的制約により改善の余地が厳しい現状にある家庭が増えつつある。文部科学省の調査では就学援助制度の支給対象となった小中学生の割合は2012年に15.6%で過去最高を更新したとされた。また、厚生労働省の調査でも、平均的所得の半分未満で生活する子どもの割合は2012年に16.3%で6人に1人が貧困状態にあり、過去最悪を更新したことが報告された。また貧困状態の子どもの割合はひとり親世帯に限ると54.6%となっていた。経済協力開発機構(OECD)の調査でも、加盟34カ国の平均値を上回る水準で推移している。このような世帯の子どもは家庭で野菜を食べる頻度が低く、週3日以下である割合が一般世帯の2倍となっている。またインスタント麺やカップラーメンを週1回以上食べる割合が一般世帯の2.7倍と高くなっており、家計が子どもの食生活にも直接影響することを示している。子ども食堂の開設をめざす協力団体は地域住民のボランティア団体、町内会、NPO法人、社会福祉法人などのほかに私立大学なども加わってきている。また大分県や福岡市では行政からの助成も予定され、堺市では自治体自らが民間団体から依託先を公募して子ども食堂の開設をめざしている。子ども食堂の開設を予定する団体や協力者のための情報交換会や講演会として「こども食堂サミット」が東京や九州で開催されるようになった。子ども食堂は経済的理由で十分な食事が与えられない子どもに栄養のバランスのとれた食事を提供すること以外に、家族と食事をとる機会が少ない子どもの孤食を改善することを目的として始まったが、支援の内容は食事だけでなく、地域住民やボランティアの人々と交流しながら、遊びや学習面に及ぶ場合もある。また、調理や片付けなどを大人と子どもとの共同作業で行われている所もあり、日常生活に必要な知識や技能を家族以外の人々との交流の中から伝授される機会を与える場所ともなっている。核家族化が進む社会で、ひとり親世帯や共働き世帯が増えつつある長時間労働を前提とした社会では子どもが家族と交流する時間は減少する可能性が考えられる。そのような状況で子どもが家族以外の様々な複数の人々と日常的に関り合いながら、学習や遊び、共同作業などを通して知識や技能、コミュニケーション力を身に付けていく場所が存在することは、子どもだけでなく社会にとっても非常に意義深く、重要である。子ども食堂は地域や社会全体で子どもを守り、育む場所として今後ますます様々な可能性が期待されるであろう。
著者
福田 豊子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第59回大会・2016例会
巻号頁・発行日
pp.103, 2016 (Released:2017-01-13)

「家庭科」を英語で「ホーム・エコノミクス(Home Economics)」と表す。「生活経済学」と訳すことも可能なこの教科の名称について、改めて考えたい。本論の目的は「経済学」としての「家庭科」の理念に立ち返り、その存在意義を再確認することである。 方法として、「生活経済学」の研究成果に依拠しながら、今日の日本の「経済学」のパラダイム転換を試みる。教科の新たな方向性を探ることも視野にいれたい。   「ホーム・エコノミクス」という教科名については、これまで「生活科学(Life Science)」や「人間環境学(Human Environment)」あるいは「家族と消費者の科学(Family and Consumer Science)」等の概念が、新しい名称として候補に挙がってきた。 そもそも「経済」という言葉は「経世済民(世をおさめ民を救う)」からきたものだ。お金の流れだけでなく、人々の生活がスムーズに流れるような社会の仕組みを表現している。その本来の意味からすれば、今日の日本で主流の「経済学」は、金融に偏重した狭義の「経済」に傾倒したものであるといえよう。本来の「経済」にはアンペイド・ワークも含まれている。また、貨幣が介在しない交換契約や贈与契約も立派な経済活動といえるが、これらはGDPには計上されにくい。 家庭科の教科書でさえ「生産領域としてのワークと消費領域としてのライフ」を明記しており、家庭が生産の場でもあることに気づきにくくなっている。家庭内の家事・育児労働はGDPの3分の1ともいわれる。このアンペイド・ワークが産業や社会全体を支えている。家庭における生産活動がシャドウ・ワークとして隠れたままでは、人間の生きる営みの半分しか見ていないことになる。 貨幣の役割には「価値尺度」「交換手段」「貯蓄」などあるが、現代の日本は、価値を測る尺度が貨幣しかない社会といえるだろう。それ以外にどんな尺度があるか、例えばOECDはBLI(Better Life Index)をよりよい生活の尺度として利用している。 また、エントロピーという「無秩序の度合い」を表す概念も価値を測る尺度として使用可能である。生きる営みはエントロピーを低める活動の維持である。生き物にとっては、エントロピーを低める活動に価値がある。エントロピーを低める事物に価値があり、高める事物に価値がないと判断できる。貨幣を補足するものとしてエントロピー概念を利用するなら、戦争は武器を製造・輸出する国や企業が儲かるが、戦地の建物や人々の生活を破壊するのでエントロピーを高める行為である。原発は、経費が安くて価値があるように思えるが、廃棄物がエントロピーを高めるのでそうではないかもしれない。貨幣の金額だけで価値判断をしないで、エントロピーを高めるか低めるか、ということを補足的に価値尺度として使用することで、より厳密にその事物の価値を測ることができるのではないか。 経済のグローバリゼーションは、貧富の格差を拡大している。経済大国は消費者として大きな責任をもつ。狭義の経済学で考えると、戦争や核エネルギーは得な選択と思えるが、広義の経済学で考えると、地球全体のエントロピーを高めるので損な選択となる。この広義の経済学を浸透させるには、ホーム・エコノミクスがふさわしい。 持続可能な社会をつくるための教育ESD(Education for Sustainable Development)は、家庭科の使命とも繋がっている。地球の訴える危機感を子どもたちに伝えていかねばならない。 家庭科の歴史には、時代の政治が大きく反映している。「道徳」に寄生してでも生き残っていくような戦略が必要である。その一つが新たな経済学の提案かもしれない。ホーム・エコノミクスからライフ・エコノミクスへ、人間主体の経済学へと進化を遂げることも可能である。