著者
横田 孝雄 柴田 恭美 野村 崇人
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第50回日本植物生理学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.0708, 2009 (Released:2009-10-23)

維管束植物のうち裸子植物と被子植物の内生ブラシノステロイドはよく研究されており、茎葉、根、種子、花粉などから多種類のブラシノステロイドが同定されている。しかしながら、維管束植物のうち進化上、下位にあるシダ類の内生ブラシノステロイドについては確実な証拠が得られていない。本研究では、数種のシダ類についてガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC-MS)を用いて内生ブラシノステロイドの分析を行った。調べた組織は、スギナ(Equisetum arvence)の栄養茎と胞子茎、ゲジゲジシダ(Thelypteris decursive-pinnata)の葉、ワラビ(Pteridium aquilinum)の葉、ゼンマイ(Osmunda japonica Thunb.)の葉である。その結果、すべての組織からブラシノステロイドが同定された。活性ブラシノステロイドとしては、すべての組織からカスタステロンが同定されたが,ブラシノライドは検出されなかった。カスタステロンの前駆体としては、種子植物と同じ種類のブラシノライドが同定された。各シダの内生ブラシノステロイドの特徴についてはシロイヌナズナと比較しながら議論したい。
著者
田邊 優貴子 工藤 栄
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第50回日本植物生理学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.S0069, 2009 (Released:2009-10-23)

昭和基地周辺には、南極の一般的イメージ「薄暗い氷に閉ざされた大陸」とは違った露岩域と呼ばれる地帯がある。これらは氷期-間氷期サイクルという地球規模の環境変動の影響を受け、3~4万年前に南極氷床が後退して創成された。そこに多数点在する多様な形状・水質を持った湖沼の底には普遍的に、まるで森林のようにユニークな植物群落(藻類・コケ類優占)が一面に広がっており、南極陸域生態系の中で最も豊穣な植生と言われている。この湖ごとに独自で多様な湖底藻類形成と繁栄の謎に迫るべく、1)南極湖沼の環境変動の解明、2)湖底藻類群集の保持色素と光合成の関係、3)光変動に対する藻類群集の応答性、というアプローチによる研究を行った。南極湖沼は一年のほとんどを氷に覆われ、氷厚や積雪によって水中の光環境は大きく影響を受けていた。南極の夏季は光合成生物にとって限られた成長期であるが、日長が長く、紫外域を吸収する溶存有機物質が低濃度の湖水であるためか、湖底まで強光・強紫外線が到達しており、貧栄養かつ低温の湖水環境であった。藻類群集は、このようにストレスの多い極域で生存し生長するために、強光・強紫外線の防御によって死滅回避しながらも、可能な範囲の光エネルギーを利用するように応答することが明らかになった。これにより、藻類群集は死滅すること無く正の光合成を維持でき、南極の湖底で大群落を築き上げていたと考えられる。
著者
前田 麻起子 崎浜 靖子 福士 幸治 橋床 泰之
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第50回日本植物生理学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.0884, 2009 (Released:2009-10-23)

含窒素色素であるベタレインは植物四大色素の一つであり、ベタシアニン(赤)とベタキサンチン(黄)がある。ベタレインの分布はアカザ科やヒユ科など一部の植物に限られており、赤系フラボノイドのアントシアニンとは排他的に存在する。アントシアニンを含むフラボノイドは、活性酸素及び活性窒素消去能を持ち、植物細胞においても抗酸化機能を有していることが報告されている。一方、ベタレインの生理機能に関する報告は殆どない。そこで本研究では、ベタレインの植物細胞における機能解明の一環として、その抗酸化能を検討した。 赤ビート(Beta vulgaris L.)根から主要色素2成分(BBx、BBc)を分画した。各々の吸収極大波長は480 nm、538 nmに見られ、光吸収特性がベタキサンチン及びベタシアニンにそれぞれ一致した。活性窒素の一種である一酸化窒素(NO)及びペルオキシナイトライト(ONOO-)をBBx、BBcに対して反応させると、NO添加による変化は見られなかったが、ONOO-添加においてはBBx、BBcの顕著な退色が観察された。この退色反応はONOO-の添加量に依存しており、ONOO-スカべンジャーであるグルタチオンによって抑制された。以上の結果から、ベタレインがONOO-消去能を持つと判断した。H2O2等の活性酸素種との反応も併せて、ベタレイン抗酸化能を考察する。
著者
内海 俊樹 Mergaert Peter Van de Velde Willem Alunni Benoit Zehirov Grigor 石原 寛信 Kondorosi Eva 九町 健一 東 四郎 阿部 美紀子
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第50回日本植物生理学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.0189, 2009 (Released:2009-10-23)

マメ科植物と根粒菌の共生窒素固定系は、細胞内共生の最もよいモデルである。しかし、根粒菌を共生状態へと誘導・維持する植物側因子についての知見は乏しい。タルウマゴヤシやエンドウとミヤコグサやダイズの根粒内部の根粒菌(バクテロイド)は、形態的・生理的に大きく異なる。これは、細胞内共生の成立に関わる植物側の分子戦略の違いを反映しているものと考えられる。タルウマゴヤシ根粒中には、NCRと総称されるペプチドが存在する。4または6システイン残基を保存するディフェンシン様ペプチドであり、400を超える遺伝子ファミリーを構成している。いずれの遺伝子もミヤコグサゲノムには存在しておらず、その発現は、根粒特異的である。NCR001と084は、感染細胞に特異的に存在しており、合成NCR001と035をアルファルファ根粒菌に添加すると、バクテロイドに特徴的な変化を誘導した。NCR遺伝子を発現するミヤコグサ形質転換毛状根を誘導し、ミヤコグサ根粒菌を接種して根粒を着生させた。そのバクテロイドは、ミヤコグサ根粒菌であるにも関わらず、タルウマゴヤシ根粒中のバクテロイドと共通した特徴を呈していた。このことは、タルウマゴヤシ根粒では、NCRペプチド群の複合的な作用が、根粒菌のバクテロイド化とその維持に関与していることを示唆している。