著者
竹橋 誠司 高橋 春樹 糟谷 大河 柿嶌 眞
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.101, 2007 (Released:2008-07-21)

日本各地の海岸砂地から採集された2種のホウライタケ型菌類について報告する. 1. Crinipellis scabella (Alb. & Schwein.) Murrill:北海道石狩市の海岸砂丘の海浜植物群落内で採集された.本種は枯れたイネ科植物,あるいは海岸砂地の主に枯死したイネ科植物の根茎から発生し,かさと柄に帯橙~帯赤褐色の短毛を密生させるという特徴を持つ.本種の和名について本郷(1952, 植研雑27: 368)はニセホウライタケ,川村(1954, 原色日本菌類図鑑3巻)はカヤネダケとそれぞれ命名した.このため現在,本種に対しニセホウライタケとカヤネダケの和名が並存して用いられている(伊藤,1959:日本菌類誌2巻5号).しかし,C. scabellaの和名についてはニセホウライタケが一般に広く使われていることから,本種の標準和名をニセホウライタケに統一することを提案する. 2. 日本新産種,Marasmiellus mesosporus Sing.:北海道,本州(宮城,福島,千葉,静岡,富山,石川,兵庫)および四国(徳島)の海岸砂地から多数の子実体が採集された.本菌の子実体は小型,かさ表面は平滑で周辺部に強い小じわを持ち,ひだは肉厚で直生~やや垂生,柄は細い円筒形となり表面は粉状~綿毛状という特徴を持つ.本菌はアメリカ,アジア,ハワイ,ヨーロッパの砂地,特に海岸砂地に分布し,イネ科植物に胴枯病を起こすMarasmius-blightとして知られる.日本では,夏から秋にかけて海岸砂地のハマニンニク,チガヤ,コウボウムギ,コウボウシバやケカモノハシの茎と根茎からごく普通に発生する.本菌はM. carneopallidusと形態的に類似するが,後者とはかさ表皮構造,縁シスチジアの形状,担子胞子の大きさで異なる.本種の和名としてスナジホウライタケを提唱する.
著者
出川 洋介
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.58, 2007 (Released:2008-07-21)

Mortierella tuberosaはvan Tieghemにより1875年に記載されたMortierella属Simplex節の一種で,同属中,最も大型の胞子嚢柄を形成し,ケカビ属に類する外観を持つ特異な種である.1994年以後,長野県,神奈川県の動物糞(ネズミ類,ホンドタヌキ)より分離された菌株は,原記載及びOu (1940)の記載にもよく一致し本種と同定された.2005~2006年にかけて神奈川県丹沢大山地域の微小菌類調査において,西丹沢(山北町)のニホンジカの糞よりM. tuberosaに類する菌が複数検出された.これらは,湿室内の糞表面で強く屈曲した胞子嚢柄を生じ,胞子嚢壁が容易に溶解しない特徴を持つ.胞子の発芽は遅く,低温下で長期を要したが通常の培地上で容易に生育し,培養検討の結果M. tuberosaとは,1)胞子嚢胞子のサイズがより小型,2)胞子嚢柄の屈曲が顕著,3)栄養菌糸体上のベシクルの形状,4)コロニー形状,において明瞭に区別されることが明らかになった.現在Mortierella属にはこれらの特徴を有す既知種は知られないが,Schroeter (1897)により設立されたHerpocladiella属(H. circinans 一種を含む)は胞子嚢柄が強く屈曲する点で類似している.同属は胞子嚢に柱軸を欠くことから,従来の接合菌類の総説では,いずれもMortierella科に類縁としつつもステータスの不明な属とみなされてきた.Schroeterの原記載は図版を伴わず,短い記載文のみによるが,Naumov (1939)はHerpocladiella属をMortierella科に認め,胞子嚢柄上部の形状を図示している.同属は胞子嚢柄が分枝を示す点で本菌と一致しないが,本菌の胞子嚢柄は天然基質や培地上で倒伏した際に二次的に分枝して立ち上がることがある.胞子嚢胞子のサイズその他の点においては,本菌はNaumovの記載に類似することから,丹沢山地産菌株はHerpocladiella circinansに近縁なものと考えられる.
著者
澤畠 拓夫
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.100, 2007 (Released:2008-07-21)

菌類の子実体の形態は多様性に富んでいるが,その生態的な機能についてはほとんど明らかにされていないのが現状である.ナメコのような強い粘性を持つ表皮によって覆われている子実体の場合,ナメクジは粘性表皮に覆われた部分からの摂食を避け,裏側の子実層面から摂食する傾向がある.このことは,ナメクジが粘性表皮を食べるのを好まない可能性を示している.そこでナメコの粘性表皮がナメクジに嫌われるかどうかを調べるために,1:ナメコ子実体の傘の表皮を剥いだものと表皮付きのもの,2:ナメコの表皮を貼り付けたヤナギマツタケ子実体の傘と貼り付けていない傘に対するナメクジの摂食の度合いについて比較実験を行った.実験に用いた子実体は栽培施設で発生させたものを用い,ナメクジは当敷地内の広葉樹林で10月28日に捕獲したヤマナメクジの幼体5匹(体長5 cm程度)を用いた.実験は、プラスチックの容器(直径11 cm,高さ7 cm)に石膏と活性炭を容積比で10:1に混合した床の上に,水洗した子実体(傘の直径1cm程度のもの)を置き,2日間絶食させた上述のナメクジを1個体ずつ放して20℃下で一晩放置した後,子実体上に残された摂食痕跡の広さの度合いを5段階評価して検定する方法で行った.各実験は,5つの容器で3反復ずつ行った.表皮を剥いでいないナメコの子実体のみを与えた場合,子実体に残された摂食痕跡は小さいものがほとんどであった.表皮を剥いだナメコと剥いでいないナメコでは,剥いだものの摂食度合いは剥いでないものより有意に大きかった(U検定:P<0.01).ナメコ子実体の表皮を貼り付けたヤナギマツタケ子実体は,貼り付けていない子実体よりも摂食の度合いが有意に小さかった(U検定:P<0.01).以上の結果から,ナメコの粘性表皮はナメクジに好まれないことが示唆された.