著者
紙谷 幸子 柿嶌 眞
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.93-100, 2021-11-01 (Released:2021-12-28)
参考文献数
17

Urocystis tranzschelianaはサクラソウに寄生し,花の葯の柄に分生子を,子房内にくろぼ胞子を形成する.本研究では,植物組織内における菌の存在部位の特定を目的として,U. tranzschelianaに特異的なPCRプライマーを開発した.この種特異的プライマーを用いて,くろぼ菌に感染したサクラソウの株(ジェネット)の個体(クローンラメット)のPCR法によるDNA検出を行った結果,菌体は花器だけでなく,地下茎や花茎にも存在していた.この結果から,サクラソウの感染株の地下茎には菌が存在しており,地下茎から無性芽に菌が直接侵入することにより,同じ株の次世代個体に感染することが示唆された.
著者
竹橋 誠司 高橋 春樹 糟谷 大河 柿嶌 眞
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.101, 2007 (Released:2008-07-21)

日本各地の海岸砂地から採集された2種のホウライタケ型菌類について報告する. 1. Crinipellis scabella (Alb. & Schwein.) Murrill:北海道石狩市の海岸砂丘の海浜植物群落内で採集された.本種は枯れたイネ科植物,あるいは海岸砂地の主に枯死したイネ科植物の根茎から発生し,かさと柄に帯橙~帯赤褐色の短毛を密生させるという特徴を持つ.本種の和名について本郷(1952, 植研雑27: 368)はニセホウライタケ,川村(1954, 原色日本菌類図鑑3巻)はカヤネダケとそれぞれ命名した.このため現在,本種に対しニセホウライタケとカヤネダケの和名が並存して用いられている(伊藤,1959:日本菌類誌2巻5号).しかし,C. scabellaの和名についてはニセホウライタケが一般に広く使われていることから,本種の標準和名をニセホウライタケに統一することを提案する. 2. 日本新産種,Marasmiellus mesosporus Sing.:北海道,本州(宮城,福島,千葉,静岡,富山,石川,兵庫)および四国(徳島)の海岸砂地から多数の子実体が採集された.本菌の子実体は小型,かさ表面は平滑で周辺部に強い小じわを持ち,ひだは肉厚で直生~やや垂生,柄は細い円筒形となり表面は粉状~綿毛状という特徴を持つ.本菌はアメリカ,アジア,ハワイ,ヨーロッパの砂地,特に海岸砂地に分布し,イネ科植物に胴枯病を起こすMarasmius-blightとして知られる.日本では,夏から秋にかけて海岸砂地のハマニンニク,チガヤ,コウボウムギ,コウボウシバやケカモノハシの茎と根茎からごく普通に発生する.本菌はM. carneopallidusと形態的に類似するが,後者とはかさ表皮構造,縁シスチジアの形状,担子胞子の大きさで異なる.本種の和名としてスナジホウライタケを提唱する.
著者
柿嶌 眞 保坂 健太郎 阿部 淳一ピーター 大村 嘉人
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

福島第一原子力発電所の事故から4年間、自然界における放射性物質の動向を解明するため、茨城県(つくば市を中心に)、福島県、栃木県、宮崎県、千葉県などできのこ類、地衣類、植物寄生菌類の放射能の生物モニタリングを行なった。その結果、きのこ類では腐生性よりは菌根性の方が放射能が高く、地衣類ではきのこよりも平均的に10倍高く、事実上放射性セシウムのミニホットスポットである。植物寄生菌類では特にサツキツツジもち病菌の罹病葉が健全葉より2倍高いことが明らかになった。一般的な傾向として事故後2年まで菌類や地衣類の放射性セシウムの放射能は徐々に減少したが、現在は、放射能はほぼ安定し、減少率が低い。
著者
埋橋 志穂美 東條 元昭 今津 道夫 柿嶌 眞
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.133, 2008

<I>Pythium</I>属菌は世界各地の土壌や水域環境に広く分布する卵菌類で,現在130種以上,日本では約50種が報告されている.多くの種は野菜をはじめ多くの作物の苗立枯れや根腐れを引き起こす重要な土壌伝染性病原菌として知られている.一方,土壌や水域環境下で腐生的に生存している種も認められているが,それらを調査した研究は少なくその分布や種類相については不明な点が多い.演者らはこれら腐生性種を含む土壌中の<I>Pythium</I>属菌を得るため,日本各地より土壌を採集し<I>Pythium</I>属菌を分離した.その結果,日本未報告種や新種の可能性のある種を含む多数の<I>Pythium</I>属菌が認められ,土壌中の<I>Pythium</I>属菌の多様性が示された.そこで,これら未解析の<I>Pythium</I>属菌の系統関係を明らかにするため,得られた菌株についてrDNA ITS領域およびD1/D2領域の塩基配列を決定し,既存のデータとともに分子系統解析を行った.その結果,得られた系統樹上には4単系統群が検出された.<I>Pythium</I>属菌においてはITS領域の分子系統解析により胞子のうの形状と密接に関わる3単系統群が認められており(L&eacute;vesque and de Cock, 2004),本解析でもこれらと一致する膨状胞子のうを形成する種からなる単系統群と球状胞子のうを形成する種からなる2単系統群が検出された.更に本解析ではこれら3系統群とは明確に異なる単系統群も検出された.この単系統群には,異なる地域より分離された8菌株が含まれており,ITS領域には2種の配列が認められ,その相同性は93.9%(687/732)と低かったが,D1/D2領域の塩基配列は全ての菌株で完全に一致した.これらの菌株はいずれも細く特徴的な分枝形態を示す菌糸を形成し,球形,楕円形,洋ナシ型等様々な形態の胞子のうを形成し,一部の菌株では,付着器や膨状胞子のう様の菌糸の膨らみも認められた.造卵器は平滑で1個から数個の造精器が付着し,雌雄異菌糸性または同菌糸性で造卵器内に1個の非充満型卵胞子を形成した.
著者
早乙女 梢 太田 祐子 服部 力 柿嶌 眞
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.21, 2007

<I>Polyporus</I>(タマチョレイタケ属)は,担子菌類サルノコシカケ科の一属であり,子実体が有柄で結合菌糸骨格菌糸の未分化な2菌糸型の種が広く含められている.このため,本属は子実体の外形が多様な種が包括されており,属内には子実体の外部形態に基づいた<I>Polyporus</I>, <I>Favolus</I>, <I>Melanopus</I>, <I>Polyporellus</I>, <I>Admirabilis</I>及び<I>Dendropolyporus</I>という6つの形態グループが設けられている(N&uacute;&ntilde;ez and Ryvarden, 1995).<BR>本研究は現在1つの属として扱われている<I>Polyporus</I>の分類学的な妥当性を検証する事を目的とし,本属22種52菌株及び近縁属10属15種18菌株を用い,LSUnrDNA領域, <I>rpb2 </I>遺伝子領域及び<I>atp6</I>領域による分子系統解析を行った. <BR>解析の結果,系統樹上には8個の単系統群が検出され,そのうち2単系統群には本属菌と近縁属菌が含まれていた.したがって, <I>Polyporus</I>は単系統群ではないことが明らかとなった. <BR>属内の各グループの系統関係については, <I>Polyporellus</I>グループの種は同一クレードを形成した.一方, <I>Polyporus</I>グループと<I>Melanopus</I>グループの種は複数のクレードに含まれ,これら2グループは単系統なグループではなかった.なお, <I>Favolus</I>グループ, <I>Admirabilis</I>グループと<I>Dendropolyporus</I>グループの種については系統的な位置を特定することができなかった. <BR>以上の結果から, <I>Polyporus</I>は単系統群ではなく,また形態的にも遺伝的にも多様な種が含まれており,分類学的再構築が必要であることが明らかになった.
著者
柿嶌 眞
巻号頁・発行日
2015

科学研究費助成事業 研究成果報告書: 挑戦的萌芽研究 2012-2014課題番号:24651043
著者
阿部 淳一 保坂 健太郎 大村 嘉人 糟谷 大河 松本 宏 柿嶌 眞
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.18, 2011 (Released:2012-02-23)

2011年3月の福島第一原子力発電所の事故により,多量の放射性物質が環境中に放出され,広い地域に拡散した.3月15日には,当該発電所から167 kmに位置する筑波大学構内でも,最大放射線量2.5 µSv/hが大気中で測定された.野生きのこ類および地衣類の放射性物質濃度を調査するため,構内およびその周辺で発生していたきのこ類8種および地衣類2種を4月26日に採取し,本学アイソトープ総合センターで放射性セシウム(137Cs, 134Cs) およびヨウ素(131I)濃度を測定した.その結果,きのこ類ではスエヒロタケ (木材腐朽菌)>ツチグリ(外生菌根菌),チャカイガラタケ(木材腐朽菌)>Psathyrella sp.1,Psathyrella sp.2 (地上生腐生菌)の順に,それぞれの核種で濃度が高かった.スエヒロタケでは137Cs:5720,134Cs:5506,131I:2301 (Bq/kg wet)であり,これは,2004年に構内で採取した標本と比較しても極めて高い値であった.なお,アミガサタケ,カシタケ(外生菌根菌),ヒトクチタケ(木材腐朽菌)では,放射能物質濃度は比較的低かった.一方,地衣類では,放射性物質の濃度が極めて高く,コンクリート上で採取したクロムカデゴケ属の一種では137Cs:12641,134Cs:12413,131I:8436 (Bq/kg wet),樹幹から採取したコフキメダルチイでは137Cs:3558,134Cs:3219,131I:3438 (Bq/kg wet)であった.これまでの報告で,きのこ類や地衣類は放射性物質を蓄積することが報告されているが,今回の調査でも,そのことが認められた.現在,継続的に調査を行っているが,その結果も加えて報告する.