著者
細野 天智 鵜沢 美穂子 大前 宗之 升本 宙 出川 洋介
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.77-91, 2021-11-01 (Released:2021-12-28)
参考文献数
78

Octospora系統(チャワンタケ目,ピロネマキン科)は多数のコケ植物生および少数の非コケ植物生の種からなる系統群である.本系統に含まれる種は主にヨーロッパや北アメリカから報告されているが,日本からの正式な報告は皆無であった.筆者らは盤菌類の調査によって得られた標本の中から,本系統に含まれる以下の4属4種を形態的に同定し,これらの同定結果は核リボソームRNA遺伝子の大サブユニット領域を用いた分子系統解析によっても支持された.Leucoscypha leucotricha (新称 ワタゲシロチャワンタケ)は非コケ植物生で,カバノキ属の樹下より採集された.他の3種はいずれもコケ植物生で,Neottiella albocincta (新称 アラゲタチゴケチャワンタケ)はナミガタタチゴケを,Octospora ithacaensis (新称 ゼニゴケツブチャワンタケ)はゼニゴケを,Octosporopsis erinacea (新称 ケゼニゴケニセチャワンタケ)はケゼニゴケをそれぞれ宿主としていた.いずれも東アジア新産で,O. erinaceaは基準産地のボルネオ島に続く二例目の報告となる.
著者
升本 宙 出川 洋介
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.19-25, 2020-05-01 (Released:2020-06-10)
参考文献数
33

日本新産のシラウオタケ属菌Multiclavula vernalis (新称:ネコノコンボウ)について,長野県産標本に基づき,子実体と地衣体の形態を報告した.また,核rDNAのITS領域の分子系統解析の結果,および多胞子由来の培養株の情報も付記した.本菌は亜高山帯の黒ボク土からなる地上に子実体を散生し,地衣化していた.地衣体は地上に形成され,不定形または小球形,菌糸が一個または数個の藻類細胞を取り囲む構造をしていた.共生藻は緑藻で,球形から楕円形,細胞内に油球と思われる小胞を多数有していた.
著者
出川 洋介
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.58, 2007 (Released:2008-07-21)

Mortierella tuberosaはvan Tieghemにより1875年に記載されたMortierella属Simplex節の一種で,同属中,最も大型の胞子嚢柄を形成し,ケカビ属に類する外観を持つ特異な種である.1994年以後,長野県,神奈川県の動物糞(ネズミ類,ホンドタヌキ)より分離された菌株は,原記載及びOu (1940)の記載にもよく一致し本種と同定された.2005~2006年にかけて神奈川県丹沢大山地域の微小菌類調査において,西丹沢(山北町)のニホンジカの糞よりM. tuberosaに類する菌が複数検出された.これらは,湿室内の糞表面で強く屈曲した胞子嚢柄を生じ,胞子嚢壁が容易に溶解しない特徴を持つ.胞子の発芽は遅く,低温下で長期を要したが通常の培地上で容易に生育し,培養検討の結果M. tuberosaとは,1)胞子嚢胞子のサイズがより小型,2)胞子嚢柄の屈曲が顕著,3)栄養菌糸体上のベシクルの形状,4)コロニー形状,において明瞭に区別されることが明らかになった.現在Mortierella属にはこれらの特徴を有す既知種は知られないが,Schroeter (1897)により設立されたHerpocladiella属(H. circinans 一種を含む)は胞子嚢柄が強く屈曲する点で類似している.同属は胞子嚢に柱軸を欠くことから,従来の接合菌類の総説では,いずれもMortierella科に類縁としつつもステータスの不明な属とみなされてきた.Schroeterの原記載は図版を伴わず,短い記載文のみによるが,Naumov (1939)はHerpocladiella属をMortierella科に認め,胞子嚢柄上部の形状を図示している.同属は胞子嚢柄が分枝を示す点で本菌と一致しないが,本菌の胞子嚢柄は天然基質や培地上で倒伏した際に二次的に分枝して立ち上がることがある.胞子嚢胞子のサイズその他の点においては,本菌はNaumovの記載に類似することから,丹沢山地産菌株はHerpocladiella circinansに近縁なものと考えられる.
著者
日野 晶也 河合 忍 出川 洋介
出版者
神奈川大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究ではイトマキヒトデの精子中心体の分画から発見した新奇DNAが、ヒトデ以外の生物にも保存される中心体特有のDNAであり、中心体を有する多くの真核生物にも同様に相同な塩基配列のDNAが存在すると考えた。また、広く真核生物に共通の分子マーカーとしても貢献すると考えた。そこで、中心体を有する真核生物からの網羅的な探索を試みた。その結果、海綿動物から脊索動物まで、96%以上の相同性が検出された。また、アメーボゾアの粘菌からも96%以上の相同性のあるDNAが検出された。更にコケ植物など、植物からも95%以上の相同配列が確認されたことから、真核生物に広く保存されるDNAであることが示唆された。
著者
出川 洋介 勝山 輝男 田中 徳久 山岡 裕一 細矢 剛 佐久間 大輔 廣瀬 大 升屋 勇人 大坪 奏 城川 四郎 小林 享夫 原田 幸雄 松本 淳 勝本 謙 稲葉 重樹 佐藤 豊三 川上 新一 WALTER Gams
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

労力と時間を要すために研究が遅れてきた菌類のインベントリー調査を、博物館を介して専門研究者と市民とを繋ぐ3者連携体制を構築して実施した。多様な世代の70名以上の市民により5千点を超す標本が収蔵された10年に及ぶ事前調査を踏まえ、約50種の菌類を選定し、研究者の指導のもとに市民が正確な記載、図版を作成し菌類誌を刊行、デジタルデータを公表した。本研究事例は今後の生物相調査の推進に有効な指針を示すと期待される。
著者
徳増 征二 山岡 裕一 佐藤 大樹 出川 洋介
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究期間中、メンバー全員がタイ北部においてそれぞれの担当分野の菌類あるいはその分離源を採集、持ち帰って観察、分離、同定を行った。また、マレーシアの熱帯湿潤地域からも同様な方法で菌を収集した。熱帯との比較を行う目的で、同じ季節風の影響を受けるが気温的に暖温帯に属する南西諸島において同様な調査を行った。現在分離・同定を継続申であるが、アジア季節風の影響下にある熱帯と暖温帯を微小菌類の種多様性という観点から比較した場合、以下のような傾向が確認できた。マツ落葉に生息する腐生性微小菌類の種多様性は明らかに熱帯が暖温帯より高かった。また、両者に共通する種の割合は低かった。マツの穿孔虫に随伴する菌類では、温帯から熱帯季節風地域にまで連続して分布する種の存在が確認され、それら菌類はそれぞれの地域に適応している宿主を利用していることが明らかになった。昆虫寄生性の菌類はタイ北部において多くの冬虫夏草を採集した。その多くの種が本邦では梅雨の末期に子実体形成するものであった。熱帯季節風帯の長い雨季はこうした菌類に感染、子実体形成に好ましい環境であると推測できた。また、トリコミケーテスの一新種を発見した。接合菌類の調査ではタイ北部で40種、マレーシアで24種採集した。出現菌の中で13種は分類学的に新種あるいは詳細な再観察を要するものであった。加えて、菌類地理学的観点から新しい知見を加えることができた種が多数記録された。全体に結果を総括すると、この地域の菌類群集の種多様性が熱帯湿潤地域、暖温帯に比べて高いことが示唆された。この地域の多様性の高さは最終氷期以降の気候変動による植生の南北移動、温帯性植物が逃避できる高地や高山の分布という地史的、地形的要因に、乾季雨季によってもたらされる季節性という気候的要因、さらに耕作、焼畑などの撹乱という人間による要因が重なって成立していると考えられる。