- 著者
-
廣部 恵子
- 出版者
- 滋賀大学教育学部
- 雑誌
- 滋賀大学大学院教育学研究科論文集 (ISSN:13444042)
- 巻号頁・発行日
- no.第16号, pp.1-12, 2013
人間関係の希薄化が言われて久しい。核家族化や,地域での人間関係の希薄化,家庭内におけるプライベート化の進行など,対人関係経験の少なさは,今の子どもたちの人との関わり方や関係の築き方において問題を呈している。また,幼い頃からの遊びの経験不足など,みんなと一緒に何かをする経験の少なさも,子どもたちの人間関係を構築する力の弱さの一因であるように思われる。子どもたちの学校での様子を見ても,思いの行き違いや自分の思い込み,あるいは自分の思いが伝えられずにトラブルになることが多く,学年が小さいほど,教師が間に入ってそれぞれの思いを聞き合い,やりとりの橋渡しを丁寧に行い,解決の方法を伝えていくことが日常茶飯事である。また早くから放課後の遊びの予約をするなど,少人数の仲よしグループに所属することに苦心し,外には開かれていないグループの内向性や,他のグループやクラスメートへの関心や関わりの低さも感じられる。更に,言われたことにはまじめに取り組むことができるが,自分たちで工夫をしたり,友だちや,学級,学校のためによいと思うことを新たに考え実践したりする力の弱さも感じられる。社会生活の大部分は,集団を基盤にした関係で成り立っている。また人間の学習と成長は,個人的過程であると同時に,自分が所属する社会の中で人と関り,その人々と共に行動することで学習し,成長していくといえる。社会の中でよりよく生き,学んでいくためには,それぞれの集団とそこで展開する諸活動や人間関係を,メンバーが望ましいと感じられるように考え行動したり,それらに肯定的に関与したりできるような力が大切であり,そのような力を育てていくことが今の子どもたちには必要である。本研究では,子どもたちが生涯にわたって社会と肯定的に関わり,成長を続けていくことのできるための力を培っていくための方途を,子どもにとって大きな社会である学級の集団性を転換させていくことから実践的に追及していくものである。