著者
清水 聡
雑誌
玉川大学経営学部紀要
巻号頁・発行日
no.31, pp.33-48, 2020-03-20

本稿ではドイツ政治におけるポピュリズムの動向が分析された。2009 年以降,複数の危機がEUの統治に衝撃を与えた(例えば,それらは2010年のギリシャ債務危機,2014年のウクライナ危機,2015年の欧州難民危機とテロ危機である)。2016年にはイギリスが「ブレグジット」(EUからの離脱)の道を選択した。 EU の統治は,政治的に2 つの傾向へと分断されている。すなわち,(1)エスタブリッシュメントによって統治された支配(エリートによる支配:EU サミットやEU 官僚),そして(2)大衆社会や無数の公の労働者によって支持されたポピュリズムである。これらの状況は,1990年代以降,加速し,新しいタイプの階級(貧富の傾向)を引き起こしたグローバリゼーションによってもたらされた。 ドイツ政治の事例においては,極右政党であるドイツのための選択肢(AfD)が欧州難民危機の後,党勢を拡大した。2017 年,ドイツにおいて連邦議会選挙が実施され,キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が246 議席を得て第1 党となり,ドイツ社会民主党(SPD)が153 議席を得て第2 党となったのに対して,AfD は94議席を得て第3党となった。AfD の特徴は,直接民主主義への傾倒,反ユーロ政策,外国人への敵対的態度である。AfD の台頭は,民主主義のシステムに基礎づけられたドイツ連邦共和国に,大きな衝撃を及ぼしている。
著者
四釜 綾子
雑誌
玉川大学経営学部紀要
巻号頁・発行日
no.31, pp.1-16, 2020-03-20

少子高齢化社会へと突き進む日本では,近年働き手の不足から事業の発展が危ぶまれる分野を中心に外国人労働者が求められ,2019年4月から入国管理法を改正して「特定技能」資格での外国人労働者の導入が始まった。滞在期限もなく家族の帯同も許可された新しい在留資格を設けてもなお,日本は「移民の導入ではない」と主張し,彼らの社会的統合を進める政策は打ち出していない。今回,受け入れ側が入国する外国人労働者の支援計画を作成し,日常生活のサポート,あるいは日本語教育の機会を義務付けるという新しい支援体制を策定した。しかしこれは政府主導ではなく,あくまで受け入れ側に任されている。社会的統合政策の一部とも言える支援体制は,在留外国人のニーズに近づいたとも言え,現在外国人労働者が抱える問題を解決する糸口になり得るが,受け入れ側の負担は大きい。また身近な外食店や介護の場,自分の職場で実際に外国人労働者に接する機会が増えるにつれ,日本社会は「どこかにいる外国人」ではなく「近所の外国人」や「同僚」に変わり,より身近な存在になっていくことは間違いない。しかし,政府が彼らは母国に帰る一時滞在者という主張と政策を続ける限り,受け入れ側の日本社会の意識も大きく影響される。日本と同様に血統主義を重んじ移民との共生を拒んできた歴史のあるドイツは,移民を社会的に統合する方針へと大きく変換した。本稿では政府と外国人労働者,そして日本の人々を3 つの視点から捉え,それらがどの程度重なるのかを考えた。それぞれがより近づき,互いのニーズと協力点を重視しなければならない。日本で働く外国人と受け入れ側の日本人社会との間に溝を作らぬよう,改正された入管法がどう機能するのか注視したい。
著者
清水 聡
雑誌
玉川大学経営学部紀要
巻号頁・発行日
no.31, pp.17-31, 2020-03-20

本稿は,1950 年代における極東情勢と欧州情勢に対するソ連外交の決定過程を取り上げる。1950 年,朝鮮半島において朝鮮戦争が勃発し,極東において「冷戦」は「熱戦」へと転化した。アメリカは朝鮮戦争に迅速に介入し,ソ連に対して攻勢を強めた。その上,西側連合国(米英仏)は,ソ連が西欧を攻撃するというシナリオを防ぐために西ドイツの再軍備を決定した。1950 年,西ドイツの再軍備問題は欧州防衛共同体(EDC)として計画された。 この時期,ソ連は西側連合国に対して中立を基礎にドイツを再統一することを目的としてスターリン・ノートを提案した。しかしながら西側連合国は,スターリン・ノートをEDC 条約の調印を妨げることを目的とした危険な提案と見なして拒否した。 アメリカがソ連に対する強硬な政策を採用したことに直面して,スターリンは極東情勢と欧州情勢のグローバルな連関を再考しなければならなくなった。スターリンは東西ドイツ間の境界線を危険な地帯として,防衛することを東ドイツ指導部に命令した。朝鮮戦争とスターリン・ノートの失敗は冷戦に強い衝撃を与えた。 冷戦史研究に取り組む研究者にとって,極東情勢と欧州情勢とのグローバルな連関は,重要な主題であり,この研究モデルは冷戦の真相を解き明かす可能性を秘めている。
著者
島 義夫
雑誌
玉川大学経営学部紀要
巻号頁・発行日
no.30, pp.17-33, 2019-03-20

金融リテラシー向上の必要性が指摘されるが多くの個人にとり金融学習のハードルは高い。効果的金融教育を考えるなら,教育を受ける側の金融に関わる心理的動機を探索してそれを利用することを考えるべきだ。本研究では,大学生156人に対して質問調査と金融リテラシーを測る金融テストを実施し,その結果を多変量解析で心理学的に分析した。データや分析手法には限界があり断定的な判断まではいかないが,知的好奇心や計画志向をはじめとするいくつかの心理的傾向や特徴とそれらの組み合わせが金融リテラシーに結びつきそうなことがわかった。その一方で家庭の影響は必ずしも金融リテラシーに結びつかないようだ。金融教育は心理的タイプ別にいくつかメニューを用意した方が良いかもしれない。また,男女の金融に関わる心理的動機には大きな違いがあることがわかり,そのことが女子の金融リテラシーに不利に働く可能性があることがわかった。