著者
久保田 康裕
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.43-49, 2022-12-28 (Released:2023-05-29)
参考文献数
6

自然保護区の拡大による生物絶滅の抑止効果は,「保護区を設置する場所」に依存する。一方,保護区は土地・海域の利用に関する法的規制を伴うため,保護区を拡大できる場所は,社会経済的に制限される。陸や海の空間計画には,生物多様性保全と社会経済的利用の調和が求められる。したがって,自然共生の理念を基に,ある空間を経済的に利用しつつ保全も副次的に達成するOECM によって,民間主導の保全事業を推進することは有望である。しかし,保全の実効性を担保するという観点では,OECM の難易度は低くなく,保全政策としては共同幻想に終わる可能性もある。生物多様性保全を目的としたOECM を長期的に駆動させる原動力として,生物多様性ビッグデータ・テクノロジープラットフォームが重要である。
著者
松岡 俊二
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.3-9, 2022-09-29 (Released:2023-02-28)
参考文献数
31

ワシントン大学の研究グループは2020年に医学雑誌Lancet に発表した論文で,2064 年に世界人口は97 億3000 万人でピークを迎え,その後は減少へ転換するとした。ホモ・サピエンス登場から30 万年,永く続いてきた人類の膨張が終わりにさしかかっている。人口増加を前提につくられた社会経済システムの限界が明らかになり,新たな社会のデザインが問われている。本稿は,人類社会が人口減少・縮小社会へ転換することが,サステナビリティ研究にとって何を意味し,どのような転換への「備え」が必要なのかを論じる。特に,人口減少緩和政策としての人口政策についてフランスと日本の事例を論じ,人口減少適応政策を形成することの難しさをシルバー民主主義論に注目して考察する。
著者
原 裕太
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.83-89, 2022-12-28 (Released:2023-05-29)
参考文献数
18

本研究では中国水稲研究所データベースの登録情報に対する分析を通じて,黄河上流の一大灌漑稲作地域・寧夏回族自治区におけるイネ品種開発の傾向を明らかにした。その結果,品種のタイプとルーツの傾向等が把握できた。とくに1979 年から2020 年にかけて,低アミロース化,高株高化,多産化,生育期間の長期化,必要な施肥量の増加が進んでおり,生育期間の長期化は中国全土の目標とは一致しなかった。低アミロース化は主要消費者である寧夏や黄土高原の人々の嗜好を表象する可能性,温暖化の影響等が考えられた。また黄河中上流域では断流や水質汚染が課題である一方,生育期間と必要な施肥量の傾向は必ずしも環境負荷を低減する方向には進んでおらず,気候変動適応の観点でも課題があると示唆された。