著者
久保田 康裕
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.43-49, 2022-12-28 (Released:2023-05-29)
参考文献数
6

自然保護区の拡大による生物絶滅の抑止効果は,「保護区を設置する場所」に依存する。一方,保護区は土地・海域の利用に関する法的規制を伴うため,保護区を拡大できる場所は,社会経済的に制限される。陸や海の空間計画には,生物多様性保全と社会経済的利用の調和が求められる。したがって,自然共生の理念を基に,ある空間を経済的に利用しつつ保全も副次的に達成するOECM によって,民間主導の保全事業を推進することは有望である。しかし,保全の実効性を担保するという観点では,OECM の難易度は低くなく,保全政策としては共同幻想に終わる可能性もある。生物多様性保全を目的としたOECM を長期的に駆動させる原動力として,生物多様性ビッグデータ・テクノロジープラットフォームが重要である。
著者
Yoshinori SHIGETA Kai MATSUBARA
出版者
Center for Environmental Information Science
雑誌
Journal of Environmental Information Science (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.1, pp.84-89, 2021-10-08 (Released:2021-10-09)
参考文献数
6

In this study, we used the thermal stress index (THI) to clarify the relationship between temperature and utilization rate (length of stay) in domestic female Japanese Saanen hybrid goats (Capra aegagrus hircus), assessing changes across three temperature ranges: high temperature, optimal temperature, and low temperature. We also analyzed the effects of meteorological changes on utilization. We found that, under high temperatures, the indoor utilization rate was 61.8% and that animals spent more time indoors than outdoors, despite higher heat stress indoors. Based on this result, we performed a correlation analysis between meteorological factors and utilization rate, but no significant relationship between solar radiation or wind speed and utilization rate was found in the high-temperature environment. It was concluded that the reason for the high indoor utilization rate is that the outdoor foraging behavior decreased and the resting behavior increased because the heat production and physical fitness consumption by the ruminant were suppressed.
著者
渡邊 学 榎原 友樹 肱岡 靖明 大場 真 戸川 卓哉 エストケ ロナルド カネーロ 永井 克治
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.61-66, 2018

気候変動による影響を最小限に抑えるには,リスクを科学的に捉え,個々の要素に対して適切な対策を行うことが求められる。気候変動による影響のリスクを構成する主要な要素として外力・暴露とともに脆弱性があるとされる。外力・暴露については研究が進む一方,脆弱性については,その指標化や評価が困難であると捉えられてきた。本研究では,まず脆弱性の概念や脆弱性指標の特性について既往研究を基にレビューし整理を図った。その後,脆弱性指標を特定するスキームを開発し提案を行った。本スキームは適応策立案への貢献が期待できる。
著者
咸 光珉 孫 鏞勳 三谷 徹 章 俊華
出版者
一般社団法人環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.393-398, 2012

本研究は韓国の宮殿「昌徳宮」庭園を対象とし,建物にかけられている扁額の意味を分析し,庭園空間の特徴を明らかにすることを目的とした。その結果,扁額の意味は周辺景観(自然物,自然現象,動・植物,季節的要素,眺望)と当時の思想(徳・仁・孝,天人合一,神仙)に関連しており,また扁額の分布によって政治的,思想的,修養的,複合的イメージが強い空間の4 タイプのエリアが得られた。以上より,扁額と共に庭園空間を理解することは,韓国伝統庭園の奥深さを更に深め,空間の特徴をより明確にさせることがわかった。
著者
松岡 俊二
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.3-9, 2022-09-29 (Released:2023-02-28)
参考文献数
31

ワシントン大学の研究グループは2020年に医学雑誌Lancet に発表した論文で,2064 年に世界人口は97 億3000 万人でピークを迎え,その後は減少へ転換するとした。ホモ・サピエンス登場から30 万年,永く続いてきた人類の膨張が終わりにさしかかっている。人口増加を前提につくられた社会経済システムの限界が明らかになり,新たな社会のデザインが問われている。本稿は,人類社会が人口減少・縮小社会へ転換することが,サステナビリティ研究にとって何を意味し,どのような転換への「備え」が必要なのかを論じる。特に,人口減少緩和政策としての人口政策についてフランスと日本の事例を論じ,人口減少適応政策を形成することの難しさをシルバー民主主義論に注目して考察する。
著者
原 裕太
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.83-89, 2022-12-28 (Released:2023-05-29)
参考文献数
18

本研究では中国水稲研究所データベースの登録情報に対する分析を通じて,黄河上流の一大灌漑稲作地域・寧夏回族自治区におけるイネ品種開発の傾向を明らかにした。その結果,品種のタイプとルーツの傾向等が把握できた。とくに1979 年から2020 年にかけて,低アミロース化,高株高化,多産化,生育期間の長期化,必要な施肥量の増加が進んでおり,生育期間の長期化は中国全土の目標とは一致しなかった。低アミロース化は主要消費者である寧夏や黄土高原の人々の嗜好を表象する可能性,温暖化の影響等が考えられた。また黄河中上流域では断流や水質汚染が課題である一方,生育期間と必要な施肥量の傾向は必ずしも環境負荷を低減する方向には進んでおらず,気候変動適応の観点でも課題があると示唆された。
著者
Ryohei YAMASHITA Taichi IGARASHI
出版者
Center for Environmental Information Science
雑誌
Journal of Environmental Information Science (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.1, pp.48-55, 2022-10-26 (Released:2022-10-26)
参考文献数
14

The hypothesis of the beneficial effects of agricultural activities on the maintenance of positive health conditions has been empirically tested using several data sets. However, the association between good health and agricultural activities has not been examined across a wide geographical area, and no convincing census has yet been obtained. This study used big data to test the hypothesis. Medical receipt data, which represent a form of big anonymous data, were used as objective indicators of health conditions. The extent of agricultural activities conducted in particular regions was estimated from the census of agriculture and forestry, and comparisons were then affected by the health conditions of the specified areas. The use of medical receipt data is restricted because such data can directly indicate the health conditions of individual residents. This study set the unit of analysis as multiple neighboring cities and towns to avoid constraints on data use. The analysis results revealed that the reduction of agricultural activity paralleled the deterioration of health conditions in some regions. However, the study did not confirm the overall apparent effects of agricultural activity on the amelioration or deterioration of health conditions. More determinate knowledge may be attained by separately reviewing the data on agricultural activities and health and by extending the period of data collection.
著者
金 柔美 田中 勝也 松岡 俊二
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.189-194, 2012

本研究では国際環境レジームの有効性を分析するために,長距離越境大気汚染条約(LRTAP)の 4 議定書(ヘルシンキ,ソフィア,オスロ,ジュネーブ議定書)を事例とした定量的な評価をおこなった。 分析では1979 年のジュネーブ条約に参加した50 ヵ国を対象とし,手法にはdifference-in-differences (DID)モデルに傾向スコアマッチングを組み合わせた最新のインパクト評価モデルを用いた。分析の結果,ソフィア議定書では批准による環境質の改善が有意に認められたが,その他の3 議定書については有効性が確認されなかった。これらから,レジームの有効性を評価するには各国の異質性や汚染物質の特性,汚染物質の削減以外への効果などについて考察することが必要であると考えられる。
著者
皮 玲 中根 周歩
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.219-224, 2012

屋上を竹炭埋設した軽量・薄層土壌システムで、最上階(8 階)のべランダを同じく鉢で緑化し、温度、熱流を、またベランダに面する部屋の室温を非緑化階(4 階)とも、通年測定した。 緑化した屋上土壌中ではほぼ熱の流出入が遮断され、温度の日変化は僅かであった。緑化したベランダでは夏季の日中の温度上昇を最高8℃、冬季の夜間の冷却を3~4℃抑制した。その結果、部屋の温度は夏季日中で2~3℃、冬季の夜間は2℃緩和された。春と秋季は緑化がベランダや部屋の日中温度の上昇を抑制した。電力消費量を、エアコン使用の少ない5 月を基準として、両階の各月の比率をもとに、その較差を求めたところ、緑化による節電は年間量で約15%となった。
著者
左近 高志 遠藤 祥多
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.257-262, 2009

本研究は,日産スタジアムで行われているリユースカップ制度の環境教育に対する効果の有無,及びその効果の程度を探ることを目的としたものである。そのために,日産スタジアム近隣の小・中学校各一校,計900名以上の児童・生徒を対象にアンケート調査を行った。その結果、リユースカップを10回利用すれば,男子の場合は約5%,女子の場合は約17%,男女差を考慮しない場合では約6%環境配慮行動をとる確率が高くなる傾向があることが分かった。
著者
久保田 泉
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.243-246, 2013

気候変動影響への適応策に関する国際制度設計において,途上国への資金供与問題が注目されている。本研究では,適応関連資金配分の優先順位づけをいかに行うかについての示唆を得るため,京都議定書下の適応基金と「気候変動影響への対応力強化のためのパイロット・プログラム」(PPCR)の運用状況を,対象国/プロジェクトの選定に着目して比較検討した。その結果,適応基金の被支援プロジェクトのホスト国は,脆弱国への支援が謳われているにもかかわらず,各種指標で脆弱国リストの上位に入っていない国が多いことがわかった。今後の適応関連資金メカニズムには,脆弱性に着目したPPCR 類似の資金配分方法を確保することが重要である。
著者
上條 哲也
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.303-308, 2014

環境アセスメント報告書の質に対する住民協議段階の回数,代替案数と評価項目数の有効性を分析した。報告書の質はリー・コリー一括評価手法を用いて評価した。分析の結果,評価項目数が多くなると質の改善が認められた。考察の結果,良い質の報告書を作成する上で,住民協議段階の回数は2,代替案数は5,評価項目数は9 以上が妥当であることが示唆された。最後に,住民協議を行い幅広い影響を対象とした代替案検討の有効性を指摘した。
著者
上條 哲也
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.295-300, 2013

環境アセスメントの代替案検討手法として、主成分分析の有効性の検証を進めることが課題であった。5事例研究を対象に、階層分析法(AHP)と加重総和法及び主成分分析の総合評価結果を比較した。その結果、代替案と評価基準及び評点が適正に設定されれば、AHP や加重総和法と主成分分析結果が一致し、最適案選定理由の明瞭さ、恣意性の低さ、比較検討結果の検証、手法の簡易さの点で主成分分析の有効性が示唆された。最後に、主成分分析の特徴は、代替案の得失をわかりやすく説明できることであり、利害関係者の参加を通じてより良い意思決定が期待されることを指摘した。
著者
大出 亜矢子 土光 智子 陳 文波
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.339-344, 2015

<tt>本研究はインドネシアスラウェシ島山岳地トラジャ地域農村において実施した生業項目に関する半構造型インタビュー調査とそのネットワーク分析から</tt>,<tt>過去</tt>40 <tt>年間の生業構造変化について分析する。各時期における生業項目の地域内の位置づけについてネットワーク中心性指標によって算出し</tt>,<tt>それぞれの時系列変化をとらえた。固有ベクトル中心性指標の時系列変化過程の</tt>t<tt>検定の結果から</tt>, 1979-1980, 1999-2000, 2009-2010<tt>の</tt>3<tt>時期に有意な変化が検出され</tt>,<tt>近年の多生業化傾向が示された。トレンド変化点との重複から道路や水利造成等の土地改変との関係性が示された。</tt>
著者
Tomohiro ICHINOSE Satoru ITAGAWA Yumi YAMADA
出版者
Center for Environmental Information Science
雑誌
Journal of Environmental Information Science (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.1, pp.53-59, 2019-09-30 (Released:2019-09-30)
参考文献数
11

A magnitude 9.0 earthquake struck off northeastern Japan on 11 March 2011. The subsequent tsunami wrought destruction on a massive scale. Kesennuma City was one of the most heavily damaged regions in Miyagi Prefecture, where more than 1000 people were killed by the tsunami and resulting fire; 215 people are still missing. Here we analyzed historical landuse changes in the tsunami-affected area of Kesennuma city center, Miyagi Prefecture, using topographic maps from 1913 and 1952 and vegetation maps from 1979 and 2011. The area consisted of 7.3% urban land use, 10.5% dry field, 55.5% rice paddy field, 4.7% wetland, 0.3% grassland, 5.3% forest, and 16.3% water body in 1913 and 76.1% urban land use, 1.7% dry field, 17.9% rice paddy field, 0.9% wetland, 1.6% forest, and 1.6% water body in 2011. During the period, the area of urban land use increased more than 10-fold, while that of rice paddy field sharply decreased from 55.5% to 17.9%. The 77 Bank estimated that the total economic damage in Kesennuma City was 232.4 billion yen, representing annual production value of all companies located in the damaged area. Our calculations for urban land use, dry field, and rice paddy field showed losses of 112.7 billion yen and 69 million yen due to the tsunami in the areas of urban and agricultural land use, respectively.