著者
原 裕太 関戸 彩乃 淺野 悟史 青木 賢人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.67-80, 2015 (Released:2015-08-27)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本稿では,防風林の形成過程に着目することで,伊豆大島における地域の生物資源利用に関わる人々の知恵とその特徴を明らかにした.防風林の形態には気候,生態系,社会経済的影響などの諸因子が影響している.そのため,国内各地で多様な防風林が形成されてきた.防風林は,それら諸因子を人々がどのように認識し,生活に取り込んできたのかを示す指標となる.伊豆大島には,一辺が50 mほどの比較的小規模な格子状防風林が存在する.調査によって,防風林の構成樹種の多くはヤブツバキであることが確認され,事例からは,伊豆大島の地域資源を活かす知恵として,複数の特徴的形態が見出された.土地の境界に2列に植栽されたヤブツバキ防風林はヤブツバキの資源としての重要性を示し,2000年頃に植栽された新しいヤブツバキ防風林は古くからの習慣を反映していた.また,住民が植生の特性を利用してきたことを物語るものとして,ヤブツバキとオオシマザクラを交互に植栽した防風林が観察された.それらからは島の人々とヤブツバキとの密接な関係が推察された.
著者
原 裕太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.70-86, 2021 (Released:2021-03-03)
参考文献数
50
被引用文献数
4 3

中国では,環境汚染,内陸水産養殖業の急速な発展にともなう水田環境の喪失,農村部の貧困問題を改善するため,新たな農業のかたちが模索されている.中でも近代的な稲作と水産養殖の統合は,地域経済を発展させつつ水田環境と生態系を保全するための有効な方法の一つとして注目を集めている.一方,多くの地域では,依然として水田養殖の普及率は低い.その要因として,野生種の生息域内外ではその動物の養殖業の競争力に地域差があること,養殖動物の消費需要の地域的偏りと生育に必要な気候環境が制約条件になっていること,都市部の消費者の間で,水田養殖に関する生態学的なメリットやブランドの認知が広がっておらず,付加価値の創出に課題を抱えていること等が挙げられる.加えて,今後の課題として,養殖に導入された種による陸水域生態系への影響と,食の嗜好変化によって伝統的な方法を維持する中国西南地域へ近代的な水田養殖が無秩序に拡大すること等も懸念される.
著者
原 裕太 佐藤 廉也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.39, 2022 (Released:2022-10-05)

1. 背景と目的 1950~1960年代における発展途上国等の地表面環境を高分解能で把握する重要なツールの一つに米国の偵察機U-2による偵察空中写真がある.米軍偵察衛星による撮影頻度が比較的低い1960年代前半以前は,土地被覆を把握する有力な選択肢であり,1960年代以降は偵察衛星を補う目的で撮影が続けられ,貴重な情報が蓄積されている.しかし,機密解除された写真フィルムはアーカイブ化が進んでおらず,近年当該写真を紹介する先行研究がいくつか発表されているものの(Sato et al. 2016; Hammer and Ur 2019),経路,頻度の全容解明は道半ばである.本研究では U-2に関する米国中央情報局(CIA)の機密解除文書を用い,東アジア,中央アジアにおける偵察飛行の地理的特徴の解明を試みた. 2. 対象地域と調査資料,研究方法 主な対象は日本,中国,朝鮮半島,ヒマラヤ山岳地域,中央アジア(ソ連領)である.調査資料は米国情報公開法により開示されたCIA機密文書で,当局の電子データベースにミッション名等を入力して網羅的に収集した.なお開示資料には現在も白塗りの非公開情報が多数含まれる.また一部飛行経路は米国立公文書館Ⅱで収集した.得られた経路情報はArcGISで線データに変換し密度解析を行った. 3. CIAによる世界でのU-2偵察回数(国・大地域別) まず,CIAによる偵察飛行の実施回数を示すとみられる一覧表を発見した.当該表では「ソ連」「衛星国(東欧)」「中東」「インドネシア」「ラオス・ベトナム・カンボジア」「NEFA・ネパール・チベット・中国」「北朝鮮・マンチュリア」「キューバ」「南米」の9地域に区分されていた. 最多の偵察は1950年代後半の中東で,次に1958年のインドネシア,さらに1960年代のキューバと中国の順であった.ヒマラヤ~中国は1958~1960年と1962年以降に偵察され,1962年以降は継続的に20回/年近く偵察されたとみられる. 4.国未満の空間スケールでの飛行経路と頻度の傾向 1957~1963年の期間,上記偵察回数に対して実際に飛行経路を把握できたミッションは,中国~ヒマラヤ~朝鮮半島が93.1%(53/58),ソ連領が76.2%(16/21)であった. 重要な発見として,偵察頻度の高い地域が,台湾海峡周辺(>10回)の他に内陸部でも複数抽出された.具体的には,甘粛省中部,チベット自治区東部,ヒマラヤ山岳地域が最も高く(>6回), 次に四川盆地,東南アジア諸国と中国の国境地帯,カシミール~新疆西部等が挙げられた(>4回). また,対ソ連ミッションに関して,大地域別のリストでは記載のないモンゴル領内でも偵察飛行が実施されたこと,対ソ連ミッションのなかで偵察機が新疆やチベットにも飛行していたこと,アラル海やシルダリア川沿い,キルギス等でも複数回にわたり飛行が試みられたこと等を確認した. 以上は,U-2偵察写真の利用可能性を,国未満の空間分解能で議論,検討することをはじめて可能にする成果である. 文献 Hammer, E. and Ur, J. 2019. Advances in Archaeological Practice 7(2):1-20. Sato, R., Kobayashi, S., and Jia, R. 2016. Teledetekcja Środowiska Tom 54: 61-73.
著者
原 裕太
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.83-89, 2022-12-28 (Released:2023-05-29)
参考文献数
18

本研究では中国水稲研究所データベースの登録情報に対する分析を通じて,黄河上流の一大灌漑稲作地域・寧夏回族自治区におけるイネ品種開発の傾向を明らかにした。その結果,品種のタイプとルーツの傾向等が把握できた。とくに1979 年から2020 年にかけて,低アミロース化,高株高化,多産化,生育期間の長期化,必要な施肥量の増加が進んでおり,生育期間の長期化は中国全土の目標とは一致しなかった。低アミロース化は主要消費者である寧夏や黄土高原の人々の嗜好を表象する可能性,温暖化の影響等が考えられた。また黄河中上流域では断流や水質汚染が課題である一方,生育期間と必要な施肥量の傾向は必ずしも環境負荷を低減する方向には進んでおらず,気候変動適応の観点でも課題があると示唆された。
著者
原 裕太 淺野 悟史 西前 出
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.4, pp.363-375, 2017-07-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
28

中国の条件不利地域農村では環境保全と住民生活の改善の両立を目標に,耕地の緑化,実施者への有期の食糧・現金支給,農業の構造調整が実施されている(退耕還林).黄土高原ではこれまで行政村を単位とした郷鎮スケールの空間的な現状や問題点の検証は行われていなかったため,退耕還林による成果が均一に波及していない場所の特徴把握や,要因の推定,効率的な対処等が困難であった.本稿では,陝西省呉起県の一地域を事例に,各種社会経済データを用いたクラスタ分析を行った.行政村の空間立地に着目することで,河岸地域の経済的優位性が見出され,その要因として,現地での土地利用調査からトウモロコシ栽培やビニルハウスの導入などが推察された.一方で丘陵奥地の行政村では退耕還林による農業の構造調整後も,低い平均収入や高い生活保護世帯率などが課題として存在していた.