著者
望月 桂
雑誌
第21回日本救急看護学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-09-03

【はじめに】救急外来を受診する小児患者の最も多い症候は発熱であり、稀に致死的な疾患が隠れている。発熱に伴う潜在的リスクが後々小児患者を重篤化させることもある。トリアージ看護師がこれらを的確に評価し、早期の医療介入に繋げることにより小児患者の生命予後や機能予後の改善を図ることができると考える。【目的】発熱を呈し来院した乳児患者に対する院内トリアージについて検討する。【対象および方法】発熱を呈し来院した生後5ヶ月の男児(以下、児)に対する院内トリアージの結果から、意図的な問診やフィジカルアセスメントについて、文献的考察を加えて検討する。【倫理的配慮】個人情報の保護に充分配慮し、データ管理はロック付USBを使用した。【結果】児を観察した結果、発熱による不感蒸泄量の上昇に伴う脱水の潜在性を認めた。さらに乳幼児の発熱における一般的な疾患と致死的な疾患を考慮し、問診やフィジカルアセスメントを行い、致死的な疾患を積極的に疑うような所見は認めなかった。児は、何らかの一般的な感染性疾患、もしくは前日に受けていた予防接種後の副反応を呈している可能性が考えられた。以上のアセスメントから、児の緊急度をJTAS 3と判断した。【考察】McCarthyらが開発した急性疾患観察尺度(最良6点、最悪30点)は発熱児における重篤な疾患を特定する際に信頼性が高く、有効とされる。尺度のスコアが10点以上の発熱児に対して、菌血症を予測するための感度は87.9%、特異度は83.8%、陽性尤度比は5.4であったと報告される。児に当てはめるとスコアは最良の6点となり、第一印象から高い確率で菌血症を除外することができる。一見、明らかな重症感のない発熱児も、急性疾患観察尺度の中等度障害項目を2つ以上有することにより菌血症の可能性が高まり、緊急度を上げた早期の対応が必要である。 小児は相対的に不感蒸泄量が多く、体温が1℃上がるごとに10~15%増えるとされる。Steinerらは小児における5%超の脱水を予測する徴候として、「CRT遷延」は感度65%、特異度85%、陽性尤度比4.1、「ツルゴール低下」は58%、76%、2.5、「呼吸異常」は43%、79%、2.0であり、脱水を鑑別する所見として有用であったと報告している。児には、これらの徴候は認められず脱水の顕在化は否定的であった。脱水の3 徴候を統合した評価と共に、体液喪失についての病歴聴取が適切な緊急度判定に有用であると考える。同じ症候であっても予測される疾患や病態に応じて緊急度は変化するため、トリアージ看護師は、患者の健康問題について大まかな仮説を立てる。しかし小児が示す症候は特定の疾患との結びつきが弱く、乳児においては疾患に特徴的な症候が見られないこともある。Vanらは、臨床的には軽症に見える小児患者に対して、医師が深刻な疾患を診断するにあたり、「何かよくない」という第六感が感度61.9%、特異度97.2%の確率で有用であり、両親の「いつもと何かが違う」という発言がその第六感に寄与していたと報告している。保護者が感じる小児患者の違和感は、緊急性の高い疾患の想起に繋がる重要な情報であると考える。 Crocettiらの報告によると、保護者の56%は発熱が子どもに与える潜在的リスクについて心配し、94%は発熱が何らかの有害な影響を引き起こす可能性があると考えていた。トリアージ看護師は、保護者との関係構築に努め、待機時や帰宅後の注意点や対応を指導することにより、長期的視点に立った健全育成への支援に繋げることができるのではないか考える。
著者
奥寺 敬
雑誌
第21回日本救急看護学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-09-03

オリンピックのような大規模イベントにおける医療体制は、救急医学の大分類では、病院前救急医療の一分野として定義される。これは、病院前救急医療体制の特殊形としてして、医療供給体制を超えた群衆が存在しており、そのための医療体制を構築する必要がある、という考え方による。紛争や災害による群衆と決定的に異なることは、開催期間があらかじめ設定されており準備期間が十分にあること、周辺地域のインフラは通常通り機能していることである。従来より、オリンピックの医療はボランティアベースであったが、オリンピックの国際化に伴う社会現象化により、徐々に内在するリスクが高まってきたため、医療体制の構築も高度化しつつある。 長野冬季オリンピックの救護を担当するため、現地調査を行なった1996年アトランタ大会は、大会規模の増大により、大規模かつ現在に通じる本格的な医療体制が構築された大会であった。訪問調査を行なった全ての運営・競技エリアにおいて、救護の主たるスタッフは看護師であり、参加するための資格要件が活動を保障するために厳格に定められていた。医師は、各セクションのディレクターであり、事務担当の専任者が取りまとめを行なっていた。長野においても同様なシステムの構築を目指したが、アメリカと日本の医療状況が大きく異なり、国際オリンピック委員会(IOC)との調整は、大会直前まで続いた。例えば、アトランタでは、医療スタッフはカテゴリーによってBLS(Basic Life Support)またはALS(Adbanced Life Support)のライセンスが必須であったが、1996年の日本ではどちらも普及の緒に就いた段階であった。そのような環境において、長野オリンピックの救護の主力は、アトランタ同様に看護師であったことは確かである。オリンピック医療の範囲は来場者の軽症の外傷や凍傷、体調不良であり、選手レベルの高度な外傷は極めて稀である。ましてテロは医療のみならず警察力など大きなシステムで対応する。多くの来場者、選手、関係者などをケアするために看護師が主力であることを共有したい。
著者
炭家 千尋 大川 貴治 男乕 夏実 川合 いずみ 浅香 えみ子
雑誌
第21回日本救急看護学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-09-03

【背景・目的】 Rapid Response System(RRS)は予期せぬ院内心肺停止率、死亡率の低下や入院日数を削減する可能性が示唆され、国内外の医療安全指針に採用されている。RRSの第1コンポーネントである求心的視点(患者のバイタルサイン等の異常への気づきとRRSの起動)は、看護師の状況認識力のひとつであるため、能力差により状態変化を見逃される可能性があることから、モニタリングの重要性が強調されている。しかし、全患者に生体情報モニターによる観察を行うことは、物理的に不可能である。これらの現状から、看護師の能力差によらず、患者への負担が最少で状態変化の把握ができ、適切なタイミングでの訪室と観察に繋がるシステムが望まれる。そこで、介護施設において、「見守りシステム」として利用されているパラマウント製品の「眠りSCAN®」が急変の前兆を早期に確認する患者安全のデバイスとして活用可能性があるのではないかと着眼した。しかし、眠りSCAN®は生体情報モニターではないため、患者の病態を正確に反映するものではない。ただし、患者の状態変化を示す呼吸数と心拍数が眠りSCAN®により得られる指標として含まれる。そこで、眠りSCAN®の指標が患者の病態変化を捉える看護師の感覚を裏付けることができるかを検証することとした。【方法】 ベッドサイドで呼吸・循環を持続モニタリングする必要のない救命病棟入院患者に対して、眠りSCAN®を退院まで使用した。人工呼吸器装着中の患者と15歳未満の小児患者は対象から除外した。眠りSCAN®で得られる指標(呼吸回数、心拍数、活動量)のうち、急変前兆候を示す呼吸と心拍数に焦点をあて、設定数を逸脱した場合には訪室し、患者の迅速評価、一次評価を行った。但し、眠りSCAN®によるデータに変化がない場合も看護師の懸念が生じた場合は訪室することを前提としている。【倫理的配慮】 得られたデータは匿名化を図り、機密性確保に努めた。また、研究発表後は再現不可能なかたちでデータは破棄をする。【結果】 対象患者は28名であった。看護師が訪室しようと思うレベルの数値が眠りSCAN®で示された患者に迅速評価・一次評価を実施した結果、眠りSCAN®の数値は、実測の呼吸数や心拍数、と差異がなかった。一時的に眠りSCAN®で逸脱した値を示した症例は、体動や咳嗽反射によって現れた生体反応であった。持続的に眠りSCAN®で逸脱した値を示した症例は、疼痛や喘息発作、発熱による生体反応であった。【考察】 看護師が「何かおかしい」と感じて観察する状態のバイタルサインと眠りSCAN®が表すシグナルは差異が無く反映していることが明らかとなった。よって、眠りSCAN®の指標は患者の病態変化を捉える看護師の感覚を裏付ける可能性が高いことが示唆された。 しかしながら、本研究で対応した看護師は中堅以上であったため、経験値などによって差が見られないかという点においては追研究が必要である。さらに、眠りSCAN®は医療機器や耐圧分散式エアマットレスの振動を読み取るという特性を踏まえた対象患者の選定と、同時にサンプル数を増やして追研究することで、この先、急変の前兆を早期に確認する患者安全に役立つデバイスとして医療現場で使用できる可能性が高まると考えられる。
著者
大瀧 友紀
雑誌
第21回日本救急看護学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-09-03

はじめに外傷において、アシドーシス・凝固異常・低体温は死の三徴と言われている。低体温時、生体はシバリングを発動させ熱産生を行うが、シバリングによる熱産生は酸素消費の増大、臓器への酸素供給低下、二酸化炭素増加、嫌気性代謝の促進に繋がる。死の三徴が予後に影響するとしながら、外傷患者の保温に関する看護研究はされておらず、外傷の死亡例に低体温が存在した報告、死の三徴を呈した事例の死亡率は急増するという医師の報告のみがある。今回、外傷による出血性ショックを呈した患者に対し、体温放散のメカニズムを捉えた選択的保温を行う事が、低体温予防とシバリングの抑制を可能とするのか試みた。目的外傷による出血性ショックを呈した患者の低体温予防とシバリング抑制における、積極的四肢末梢保温と選択的保温の効果を明らかにする対象及び方法出血性ショックを呈した転落外傷患者に対し、①末梢保温として、両手・両足を不織布で覆い常時保温し、②選択的保温として、顔面・胸部の発汗の拭き取りを行った。測定する体温は、①深部温の指標として鼓膜温の測定②外殻温の指標として腋窩温の測定を、共に15~30分間隔で測定とした。 分析は、測定した核心温・四肢末梢温の差とシバリング発生の有無、受傷後の時間経過と共に、バイタルサインと交感神経症状を収集した上で、生体反応と体温の関係を分析する。結果患者は病院搬入時から冷汗が著明で、多発骨折により1700~2700ml程の出血が推定された。輸液・輸血の急速投与によって循環動態は維持されたが、救急外来搬入30分後の介入開始時、腋窩温は35.8℃、鼓膜温は35.9℃まで低下している状態であった。介入開始後経過は、左胸腔ドレーンの挿入(冷汗+)→挿管(プロポフォール使用)→CT検査30分間→X-P検査15分間(下半身露呈)→初療室に戻り持続プロポフォール開始→下肢創部の洗浄・シーネ固定→右胸腔ドレーン挿入(→冷汗+)→MRI→ope出棟、と経過した。四肢末梢保温を開始し30分が経過したCT前の時点で、鼓膜温・末梢温とも36.2℃まで上昇し、CT・X-P検査中も体温は維持できた。下肢洗浄の実施によっても体温低下を見ず、36.7℃まで上昇し「暑い」と訴えたため、四肢末梢保温を終了した。四肢末梢保温終了後、36.4℃まで低下した。核心温・末梢温は終始0.3℃以上の格差を認めなかった。考察四肢末梢保温の実施によって、低体温とシバリングの抑制を可能とした要因を検討した。熱放散に対する四肢末梢保温の効果:四肢末梢保温は、体温移動の血流依存特性と熱放散の放射の特性に対する介入であったと考える。これは、鎮静剤や生体反応による動静脈吻合の拡張作用によって促進された熱放散と、低下した四肢末梢を通過した際の冷却された血液の潅流による核心温低下を防いだためと考える。蒸発に対する選択的保温の効果:蒸発の特性から、四肢末梢保温が加湿による熱放散の抑制と、気化熱・凝縮熱による加温効果を発揮したと考える。また、体幹部・頭部の汗の拭き取りが、生体の汗腺数・発汗量・皮膚血流量を捉えた介入となり、蒸発による熱の放散を減少させることに繋がったと考える。冷覚に対する四肢末梢保温の効果:体温喪失・体温冷却が著しい状態の中、処置・検査によって低温環境に長時間さらされたが、体温低下、特に末梢温低下を見ずシバリング発生も抑制した。これは、手足には冷線維(冷受容器)が多く存在しており、これらが感知する寒冷情報や皮膚温低下情報が、四肢末梢保温により減少し、体温低下を予防するための予測制御機能を抑制したと考える。