著者
三宅 康史 有賀 徹 井上 健一郎 奥寺 敬 北原 孝雄 島崎 修次 鶴田 良介 前川 剛志 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.309-321, 2008-06-15 (Released:2009-07-25)
参考文献数
9
被引用文献数
7 10

目的:日本救急医学会熱中症検討特別委員会は,全国の救命救急センター及び指導医指定施設に対し平成18年6-8月に診療した熱中症患者に関する調査を依頼し,66施設から収集された528症例につき分析を行った。結果:平均年齢は41.5歳(3-93歳),男女比413:113(不明2),日本神経救急学会の提唱する新分類でI° 62%,II° 18%,III° 20%であった。発生状況で,スポーツの若年男女(平均年齢25歳),肉体労働の中年男性(同47歳),日常生活中の高齢女性(同59歳)の 3 つのピークがあった。 7 月中旬と 8 月上旬に多く発生し,高い平均気温の時期と同期していた。 1 日の中では11時前後と15時頃に多かった。意識障害(Japan coma scale: JCS)の変化では現場0/JCS:43%(=I°),1/JCS:15%(=II°),2-300/JCS:42%(=III°)に対し,来院時では61%,12%,27%と応急処置による改善がみられた。外来診療のみで帰宅したのは285例(平均年齢38歳),入院は221例(同51歳)あり,収縮期血圧≤90mmHg,心拍数≥120/min,体温≥39°Cを示す症例は入院例で有意に多かった。入院例のALT平均値は240 IU/l(帰宅例は98 IU/l),DIC基準を満たすものは13例(5.9%)であった。入院例における最重症化は死亡例を除きほぼ入院当日に起こり,入院日数は重症度にかかわらず 2 日間が最も多かった。死亡例は13例(全症例の2.5%)あり,III° 生存例との比較では,深昏睡,収縮期血圧≤90mmHg,心拍数≥120/min,体温≥40°C,pH<7.35の症例数に有意差がみられた。日常生活,とくに屋内発症は屋外発症に比べ高齢かつ重症例が多く,既往歴に精神疾患,高血圧,糖尿病などを認め,死亡 8 例は全死亡の62%を占めた。考察:予後不良例では昏睡,ショック,高体温,代謝性アシドーシスが初期から存在し,多臓器不全で死亡する。高齢者,既往疾患のある場合には,日常から周囲の見守りが必要である。後遺症は中枢神経障害が主体である。重症化の回避は医療経済上も有利である。結語:熱中症は予防と早い認識が最も重要である。
著者
奥寺 敬
雑誌
第21回日本救急看護学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-09-03

オリンピックのような大規模イベントにおける医療体制は、救急医学の大分類では、病院前救急医療の一分野として定義される。これは、病院前救急医療体制の特殊形としてして、医療供給体制を超えた群衆が存在しており、そのための医療体制を構築する必要がある、という考え方による。紛争や災害による群衆と決定的に異なることは、開催期間があらかじめ設定されており準備期間が十分にあること、周辺地域のインフラは通常通り機能していることである。従来より、オリンピックの医療はボランティアベースであったが、オリンピックの国際化に伴う社会現象化により、徐々に内在するリスクが高まってきたため、医療体制の構築も高度化しつつある。 長野冬季オリンピックの救護を担当するため、現地調査を行なった1996年アトランタ大会は、大会規模の増大により、大規模かつ現在に通じる本格的な医療体制が構築された大会であった。訪問調査を行なった全ての運営・競技エリアにおいて、救護の主たるスタッフは看護師であり、参加するための資格要件が活動を保障するために厳格に定められていた。医師は、各セクションのディレクターであり、事務担当の専任者が取りまとめを行なっていた。長野においても同様なシステムの構築を目指したが、アメリカと日本の医療状況が大きく異なり、国際オリンピック委員会(IOC)との調整は、大会直前まで続いた。例えば、アトランタでは、医療スタッフはカテゴリーによってBLS(Basic Life Support)またはALS(Adbanced Life Support)のライセンスが必須であったが、1996年の日本ではどちらも普及の緒に就いた段階であった。そのような環境において、長野オリンピックの救護の主力は、アトランタ同様に看護師であったことは確かである。オリンピック医療の範囲は来場者の軽症の外傷や凍傷、体調不良であり、選手レベルの高度な外傷は極めて稀である。ましてテロは医療のみならず警察力など大きなシステムで対応する。多くの来場者、選手、関係者などをケアするために看護師が主力であることを共有したい。
著者
鶴田 良介 有賀 徹 井上 健一郎 奥寺 敬 北原 孝雄 島崎 修次 三宅 康史 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.9, pp.786-791, 2010-09-15 (Released:2010-11-09)
参考文献数
9

目的:熱中症患者のバイタルサインや重症度に関する疫学データは少ない。人工呼吸管理を要した熱中症患者の予後に関わる因子を解析する。方法:2008年6月1日から9月30日の間に全国82ヶ所の救命救急センターおよび日本救急医学会指導医指定施設を受診した熱中症患者913名のデータのうち,人工呼吸管理下におかれた患者77名を抽出し,更に来院時心肺停止1名,最終診断脳梗塞1名,予後不明の2名を除く73名を対象とした。対象を死亡あるいは後遺症を残した予後不良群と後遺症なく生存した予後良好群に分けて解析した。結果:予後良好群47名,予後不良群26名(死亡12名を含む)であった。2群間に年齢,性別,活動強度,現場の意識レベル・脈拍数・呼吸数・体温に有意差を認めなかった。現場の収縮期血圧とSpO2,発症から病院着までの時間に有意差を認めた。更に来院後の動脈血BE(-9.5±5.9 vs. -3.9±5.9 mmol/l,p<0.001),血清Cr値(2.8±3.2 vs. 1.8±1.4 mg/dl,p=0.02),血清ALT値[72(32-197)vs. 30(21-43)IU/l, p<0.001],急性期DICスコア(6±2 vs. 3±3,p=0.001)に予後不良群と予後良好群の間で有意差を認めた。しかし,来院から冷却開始まで,来院から38℃までの時間の何れにも有意差を認めなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果,予後不良に関わる因子は現場の収縮期血圧,現場のSpO2,来院時の動脈血BEであった。結語:人工呼吸管理を要した熱中症患者の予後は来院後の治療の影響を受けず,現場ならびに来院時の生理学的因子により決定される。
著者
髙橋 千晶 奥寺 敬
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.3-8, 2017 (Released:2018-03-01)
参考文献数
11

目的:交通事故の傷病者の救護を含めた日本の救急医療の現場では、迅速に患者の状態を伝達する方法の一つとしてコーマスケールが使用されてきた。Japan Coma Scale(JCS)が国内で最も普及されているが、評価者間のばらつきなどの問題が指摘されており、新たなコーマスケールの開発が望まれていた。2003年に、これらの問題点を改善したEmergency Coma Scale(ECS)が開発され、普及されつつあるが、そのスケールがJCSの問題点を解決できているのか、多施設合同比較研究を行い検証を行った。方法:研究では評価者間のスコアの一致性(STEP I)と、評価スコアの正確性(STEP Ⅱ)の2つの側面から検証を行った。STEP Iでは救急外来での実際の患者の意識レベルの評価を3つのコーマスケール〔ECS、JCS、Glasgow Coma Scale(GCS)〕を用いて複数の評価者で行いそのスコアの一致率を解析した。STEP Ⅱでは意識障害のある模擬患者の動画を視聴して、参加者が3つのコーマスケールを用いて評価し、その正解率を検証した。結果:STEP Iでは評価者全体でECSにおいて評価者間一致率が高かった。STEP ⅡではECSにおいて正解率が最も高い結果を示したが、コーマスケールの使用経験のない医学部4年生で評価法の複雑なGCSで正解率が著明に低かった。考察:両研究の結果を総合すると、ECSはさまざまな職種の医療スタッフだけでなく一般人にも簡潔で、解釈しやすいスケールであり、救急診療の現場によく適合し、非常に有用な評価手段であると考える。
著者
大坪 幸代 奥寺 敬 若杉 雅浩
出版者
富山救急医療学会
雑誌
富山救急医療学会 (ISSN:21854424)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.15-16, 2019-08-31 (Released:2019-10-07)
参考文献数
4

富山県において開発されたGF13001は、経口補水液として海洋深層水由来の水に電解質を配合しており、組成は一般的に提唱されている経口補水液に適合している。今回Ⅰ度〜Ⅱ度の脱水症モデルにおいて、GF13001が個別評価型病者用食品に求められる効果を示すかとして適しているか評価をし、先行品であるOS-1と同等の有用性を認めた。
著者
奥寺 敬 若杉 雅浩
出版者
富山救急医療学会
雑誌
富山救急医療学会 (ISSN:21854424)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.17-19, 2019-08-31 (Released:2019-10-07)

最近の国内外の自然災害の動向としては、「異常気象」に起因する様々な事象が散見される。特に夏季になって、アメリカやヨーロッパ、国内でも明らかに「熱波」による気象災害が頻発している。また、自国第一主義の蔓延による国際情勢の不安定化による暴力行為や難民問題などが顕在化している点にも今後とも注意が必要である。国内では、依然として福島第一原発の廃炉作業は困難な状況が続いており、各地の災害の復興も順調とは言えない。その一方で、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックの準備は、総力をあげて進められており、復興災害とのミスマッチが懸念される。このような複雑な状況下において、これまでのSociety 5.0から国連が提唱する「持続可能な開発目標 SDGs」(Susteinable Development Goals)を我が国のゴールとする指針が示され対応が喫緊の課題である。
著者
本多 満 一林 亮 鈴木 銀河 杉山 邦男 坂元 美重 奥寺 敬
出版者
一般社団法人 日本神経救急学会
雑誌
Journal of Japan Society of Neurological Emergencies & Critical Care (ISSN:24330485)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.27-32, 2019-08-23 (Released:2019-08-24)
参考文献数
7

〔背景〕神経救急・集中治療におけるモニタリングである脳波を,時間外あるいは休日に意識障害患者が来院しても医師あるいは看護師により容易に施行することを可能とする簡易的脳波測定デバイスの開発を,2013年より日本臨床救急医学会ACEC委員会と日本光電社との共同研究により開始した。〔経過および現況〕開発に際して,ERにおける意識障害患者に対して脳波測定に不慣れな医療従事者においても簡単かつ迅速に脳波測定ができることを目標とした。これらをみたすデバイスを作製して脳波データをBluetoothⓇでモニターに電送してモニタリングすることが可能となった。〔今後の展望〕現在当施設において完成機が導入されているが,脳波の評価の難しさなどにより脳波に不慣れな医療従事者が十分使いこなしている状況ではない。しかし,このデバイスを用いて脳波測定中に脳波室に院内LANを用いて遠隔監視できるシステムを構築して問題点に対する対応を行っている。
著者
三宅 康史 有賀 徹 井上 健一郎 奥寺 敬 北原 孝雄 島崎 修次 鶴田 良介 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.230-244, 2010-05-15 (Released:2010-07-02)
参考文献数
5
被引用文献数
5 12

目的:2006年調査に続き,さらに大規模な熱中症に関する全国調査を行い,本邦における熱中症の実態につきより詳細に検討した。方法:日本救急医学会熱中症検討特別委員会(現 熱中症に関する委員会)から,全国の救命救急センター,指導医指定施設,大学病院および市中病院の救急部または救急科(ER)宛てに,2008年用として新規に作成した調査用紙を配布し,2008年6~9月に各施設に来院し熱中症と診断された患者の,年齢,性別,発症状況,発症日時,主訴,バイタルサイン,日常生活動作,現場と来院時の重症度,来院時の採血結果,採血結果の最悪化日とその数値,既往歴,外来/入院の別,入院日数,合併症,予後などについての記載を要請し,返送された症例データを分析した。結果:82施設より913例の症例が収集された。平均年齢44.6歳,男性:女性は670:236,I度:II度:III度は437:203:198,スポーツ:労働:日常生活は236:347:244,外来帰宅:入院は544:332で,高齢者でとくに日常生活中の発症例に重症が多かった。スポーツ群では,陸上競技,ジョギング,サイクリングに,労働群では農林作業や土木作業に重症例が多くみられた。日常生活群では,エアコン/扇風機の不使用例,活動制限のある場合に重症例がみられた。ただ,重症度にかかわらず入院日数は2日間が多く,採血結果についても初日~2日目までに最も悪化する症例が大多数であった。後遺症は21例(2.3%)にみられ,中枢神経障害が主であった。熱中症を原因とする死亡は15例(1.6%)で,2例を除き4日以内に死亡した。考察:2006年調査とほぼ同様の傾向であったが,重症例の割合が増加し,活動制限のある日常生活中の老人がその標的となっていた。最重症例は集中治療によっても死亡は免れず,熱中症では早期発見と早期治療がとくに重要であるということができる。