著者
髙橋 淑郎
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第88集 公共性と効率性のマネジメント─これからの経営学─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.6-15, 2018 (Released:2019-06-17)
被引用文献数
1

本稿は,わが国で非営利組織としての病院経営を,私的病院の経営を中心にして,これまでの先達の研究成果を踏まえ,わが国の医療制度の特徴を確認し,さらに先進諸国の医療における患者や医療サービス提供者の変化を明らかにした。その上で,医療における医療価値研究から病院価値研究への動きを把握し,現在および将来に向けて医療経営で,バランスト・スコアカード(BSC)およびその発展形であるSustainable BSC(SBSC)の有用性を論理的に示した。すなわち,SBSCは,持続可能性コンセプトの3つの次元すべてを,その戦略的重要度に応じて統合するBSCであることを示したことで,BSCからSBSCへの病院経営の方向を示した。これらの議論より,本稿で議論した病院価値を理解し把握した病院経営者が医師であれ,非医師であれ,払底している現状を確認し,戦略経営実践の枠組みが作れる,リーダーシップを持った人材の育成が急務であることを示した。
著者
三戸 浩
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第88集 公共性と効率性のマネジメント─これからの経営学─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.65-71, 2018 (Released:2019-06-17)

CSR活動を考慮した経営・企業活動は当然のものとなってきている。また同時に,バブル崩壊後の日本経済が復調せず,「資本主義の行き詰まり」が世界的に見られるようになり,新しい成長分野,新しい事業が要請されている。そのような背景の中でCSVが生まれてきたと理解できよう。CSR(社会的課題)と利潤獲得,すなわち「公共性と効率性」の関係は,相反するものではなくなり,企業は積極的にCSRをわが責務として受け入れ,実行してゆくことが当然となる。「公共性」を「私企業」が担うという動向は,公企業の民営化,そしてsocial enterpriseやsocial businessなどさまざまな領域で見受けられるようになっている。現代社会を健康に維持・繁栄させる役割・機能を持つ「社会的器官」となった現代大企業の目的がCSRであるとするなら,その「社会性(公共性)」をチェック&コントロールするのがコーポレート・ガバナンス,「組織存続=効率性」を担うのがマネジメントであり,両者相まって企業は社会的器官として維持発展が可能になるであろう。
著者
黒川 秀子
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第88集 公共性と効率性のマネジメント─これからの経営学─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F27-1-F27-7, 2018 (Released:2019-06-17)

CSRについては1990年代から活発な議論が展開され,2000年代以降,理論面,実務面ともさらに進化,深化し続けている。第91回日本経営学会大会のキーワードは統一論題とサブテーマに示されている通り,公共性と効率性であり,CSRはまさに現代企業の持つ公共性と効率性の二面性を照射する。ところで,「企業の社会的責任」という問題は,1960年代から70年代にも大きく取り上げられ,そのブームはしばらく続いたとされる。 本稿では,1970年代の「企業の社会的責任」論の展開と2000年代以降の「CSR」論の展開を比較し,CSRに対する意識の変遷を辿るとともに,CSRの本質を探ろうとした。 谷本,宮坂の論考から,前者は「経営者の社会的責任」が,後者はビジネスエシックスとステイクホルダーセオリーを契機として「企業自体の社会的責任」が問われ,そのことが前者がブームで終わった理由であり,前者と後者の相違点であることが理解された。 また,現在のCSRを取り巻く問題点として,制度と実態の乖離,各種機関,機関投資家,アドバイザーの存在とCSRの宣伝広告性,「CSR=社会的責任」における「責任」の理解,の3点が考えられた。