- 著者
-
石綿 寛
- 雑誌
- 総合福祉研究 = Social welfare research bulletin (ISSN:18818315)
- 巻号頁・発行日
- vol.22, pp.115-128, 2018-03-31
本論は,人文学不要言説の分析を実施した.既存の人文学を擁護する人文学擁護言説は,人文学の危機を人文学を聴く人々の無理解を巡る問題として議論していた.これに対し本論は,人文学の危機を人々の人文学からの撤退として議論する.この立場を取るならば,人文学の危機は,人々に人文学の意義を語ることでは解決されない.取り組むべきは,人々がなぜ人文学から撤退することが可能なのかという人文学と人々の距離を問うことである.このような問題意識にもとづき,本論は,人文学から距離を取り既存の人文学を不要とする冨山和彦の議論を分析した.冨山の論考から明確になったことは,社会構造を巡る理解の違いである.冨山にとって,技術革新などによって実現される社会構造は所与であり,その中でいかに効率的に政策を実施するかが重要な課題になっている.この理解の枠組みの中では,人間が社会構造を変えていくことを所与とする人文学は必要がないものとなる.