著者
石綿 寛
雑誌
総合福祉研究 = Social welfare research bulletin (ISSN:18818315)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.115-128, 2018-03-31

本論は,人文学不要言説の分析を実施した.既存の人文学を擁護する人文学擁護言説は,人文学の危機を人文学を聴く人々の無理解を巡る問題として議論していた.これに対し本論は,人文学の危機を人々の人文学からの撤退として議論する.この立場を取るならば,人文学の危機は,人々に人文学の意義を語ることでは解決されない.取り組むべきは,人々がなぜ人文学から撤退することが可能なのかという人文学と人々の距離を問うことである.このような問題意識にもとづき,本論は,人文学から距離を取り既存の人文学を不要とする冨山和彦の議論を分析した.冨山の論考から明確になったことは,社会構造を巡る理解の違いである.冨山にとって,技術革新などによって実現される社会構造は所与であり,その中でいかに効率的に政策を実施するかが重要な課題になっている.この理解の枠組みの中では,人間が社会構造を変えていくことを所与とする人文学は必要がないものとなる.
著者
山下 興一郎
雑誌
総合福祉研究 = Social welfare research bulletin (ISSN:18818315)
巻号頁・発行日
no.23, pp.129-141, 2019-03-31

平成26年の介護保険制度の改正では,介護予防・日常生活支援総合事業が創設された.この事業では,予防給付のうち,地域支援事業として再設定された訪問介護,通所介護,生活支援体制整備事業がある.本稿は,そのなかで,生活支援体制整備事業に着目し,その概観とともに,住民互助の先駆的取り組みの一例として,1990年代以降の住民互助の実際を取りあげながら,地域福祉推進における諸課題を考察した.
著者
小松 仁美
雑誌
総合福祉研究 = Social welfare research bulletin (ISSN:18818315)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.143-155, 2019-03-31

メキシコ市ではホームレスが貧困問題の一つとして喫緊の課題となっている.2011-2012年に全体の半数以上を占めた18-40歳の若中年層ホームレスに着目すると,彼・彼女らは1990年代に大量のストリートチルドレンとなった層と重なる.新たにストリートチルドレンとなる子どもが大幅に減少した一方で,路上において成人年齢に達し,その後も路上生活を継続する元ストリートチルドレンのホームレスが相当数に達している.彼・彼女らは,支援の不十分さと成人年齢を境にした打ち切り,麻薬の蔓延,成人後の限定的な支援など複合的要因により路上に居続けることとなった.また,彼・彼女らは初等教育開始前後にストリートチルドレンとなったために低学歴であり,そのために社会復帰がより困難となっている.本稿では,ストリートチルドレンから若中年層ホームレスになった層への支援においては,長期の定住・就学支援が重要となる点を示唆した.
著者
松浦 俊弥
出版者
淑徳大学
雑誌
総合福祉研究 (ISSN:18818315)
巻号頁・発行日
no.22, pp.81-93, 2017

障害があったりグレーゾーンにあったりする子どもたち(障害児等)の放課後支援の在り方が注目されている.中でも小学生が利用する放課後児童クラブでは,制度上の壁もあり,障害児等に対する適切なケアが行われているとは言い難い状況にある.子ども同士のトラブルや事故につながっている例も多い.放課後児童クラブで障害児等への適切なケアが実施できない背景には,主として学校が作成することとなっている個別の教育支援計画を軸とした教育との情報共有等連携が有効に機能していない現状があるのではないか.先行研究や各種調査における資料や実際の放課後支援の現場の声などから,教育現場との連携に関する現状と課題を明らかにし,限られた環境の中で放課後支援,特に放課後児童クラブが障害児等へのケアの質を高めていくにはどうしたらよいか,を考察する.
著者
村上 玲
出版者
淑徳大学
雑誌
総合福祉研究 (ISSN:18818315)
巻号頁・発行日
no.22, pp.197-209, 2017

イギリスにおける同性愛者に関する法状況として,同性愛行為の合法化,シヴィル・パートナーシップなど異性愛者と同等の法的地位の獲得,雇用関係から始まった性的指向による差別の禁止といった大きな動きが存在している.この一連の過程においては国内の社会情勢の変化だけでなく,EU法,欧州人権条約及び欧州人権裁判所判決が大きな影響を与えている.性的指向に基づく憎悪扇動罪はこのような流れの中で,同性愛者を中心とした性的少数者を威嚇的な表現から保護するために制定されている.この性的指向に基づく憎悪扇動罪創設に関する議論において重要な論点となったのが,いかにして同性愛者等への保護を図りつつ,同性愛等に関する信仰に基づく信念の表明や議論等の保護とのバランスをとっていくかということであった.この問題においてイギリスが採用した方策は,訴追可能性を限定するとともに,自由な言論条項によって同性愛に関する表現の自由を確保するというものであった.