著者
伴野 豊
出版者
日本蚕糸学会
雑誌
蚕糸・昆虫バイオテック = Sanshi-konchu biotec (ISSN:18810551)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.87-95, 2010-08-01
参考文献数
74

クワコに関する研究は多数に上るが,昆虫学者を中心に行われた分類学的研究と養蚕学や遺伝学に関わる研究者を中心に行われたカイコを比較対象とした生物学的研究とに大きく分けることが出来る.前者に関しては上田(1998)による詳しい記述がある.ここではクワコの生物学的特性についてカイコの特性と比較しつつ行われた研究を中心に述べる.クワコはご存知のようにカイコの祖先昆虫として考えられている.従って,多くの研究でカイコの起源や分化についても論じられている.両種が近縁な関係にあることが認識された研究を先ず取り上げ,その後分野別に紹介する.
著者
梶浦 善太
出版者
日本蚕糸学会
雑誌
蚕糸・昆虫バイオテック = Sanshi-konchu biotec (ISSN:18810551)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.13-16, 2009-04-01
被引用文献数
1

ヤママユガは重さ5〜7mgの卵を150〜200個を産卵します。この重さはカイコ卵0.5mgの10倍以上で、鱗翅目ではヨナグニサンの卵に次いで大きな卵です。私は、このような大きな卵がどのようにして作られてくるか興味がありました。卵のタンパク質はビテリン(Vn)とその他の未同定なタンパク質からなっています。ヤママユガ科ではVnは卵全タンパク質の70〜80%を占めています。Vnの前駆体タンパク質ビテロジェニン(Vg)のmRNAは5齢(終齢)の末期から蛹初期の限られた時期に雌脂肪体で発現し、そこでVgを大量に合成します。合成されたVgは血液中に蓄積された後、発達し始めた卵母細胞へ受容体を介して取り込まれ(エンドサイトーシス)、顆粒として貯蔵されます。卵母細胞に蓄積したVgがVnで、胚子の栄養源として利用されます。私はこのような胚発育に重要な役割を持つVgの、雌、時期、さらには組織特異的な遺伝子発現調節機構を解明することを目標にしてきました。
著者
齊藤 準
出版者
日本蚕糸学会
雑誌
蚕糸・昆虫バイオテック = Sanshi-konchu biotec (ISSN:18810551)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.153-158, 2011-12-01

チョウ目幼虫で共通してみられる色彩的特徴の一つは,緑色の体色が多いということである。アオムシなどという呼び方もあるように,彼らの多くはなぜか緑色をしている。幼虫は主に植物の葉を食べて成長することから,緑色は彼らの生息環境の中で保護色として天敵から逃れるために役立つものと考えられる。では,緑色の色彩発現はどのようなメカニズムによっておこるのか? 本稿では,大型絹糸昆虫の野蚕類でみられる緑色発現に重要な役割をはたす青色色素のピリンとその結合タンパク質の性質と生理機能について紹介する。