著者
松嶋 秀明
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.165-185, 2005 (Released:2020-07-05)

本論では,中学校教師たち,なかでも生徒指導にかかわった教師たちは,生徒をいかなる存在としてとらえ,自らの関わりをどのように意味づけているのだろうか,この問いに答えるべく,教師へのインタビューの解釈的な探求を試みた。語りの内容を総合すると,(1)生徒を集団の一部として/個人としてとらえる視点軸,(2)生徒を教師に比べて未熟な存在として/生徒を教師と対等な存在としてとらえる視点軸という,2 つの相矛盾するような視点対によって構成される軸に言及していた。なかでも教師がそれぞれの生徒とのかかわりのなかで重視しているのは,「人間的なつきあい」と称される,生徒への半ば対等な関わりである。そのことは教師に葛藤を感じさせることもあれば,重要な思い出として本人の指導観を大きく左右することもある。また,この軸は明確な境界というよりも,教師の実践のなかでその都度,揺れ動くものである。揺らぎをふくみつつ,教師が対話的に生徒にかかわることで,生徒からは次第に教師が「動かない/不変の」対象として存在するように体験されること,それが生徒にとっては肯定的に評価され得ることが仮説として示された。