著者
卒田 卓也
出版者
近畿大学 心理臨床・教育相談センター
雑誌
近畿大学 心理臨床・教育相談センター紀要 (ISSN:24349933)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.25-33, 2018-03-15

[要旨]自らの声を取り戻し,自らが選択しているという感覚はエイジェンシー(国重,2013)と呼ばれている。ナラティヴ・セラピーでは,カウンセラーが問題に対する方向性を定めるのではなく,当事者の選択を重視することにより,エイジェンシーを発揮できるように支援するスタンスをとる。本事例では,計5回の面接過程を①「母子が何に困らされているかを知り母子で共闘できる問題設定を模索する」,②「問題(“イライラ”)の外在化,問題からの影響を探る」,③「問題をコントロールできる,エイジェンシーの発揮」の3期に分けて整理をし,エイジェンシーを発揮していく変遷について報告する。ナラティヴ・セラピーの姿勢は,人が内在化した問題に振り回されていた状態から,外在化された問題として扱えるようになることを支持する。そして,外在化した問題に対抗でき,その実感をもつことで,主体的に問題に対抗する気持ちが増幅し,エイジェンシーを発揮することで事態は大きく変化していくといえるだろう。