著者
大対 香奈子 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.43-55, 2010-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
7

本研究の目的は、小学3年生の学級を対象に感情理解・感情統制の訓練を含めた学級単位の社会的スキル訓練(SocialSkillsTraining;SST)を実施し、その結果、標的スキル、仲間からの受容度、および主観的な学校適応感に向上がみられたかを検討することであった。対象は3年生の2学級であり、学級Aを介入群(η=37)、学級Bを対照群@=35)とした。学級Bの児童は通常の授業を受けた。学級Aの担任教師から報告された仲間関係の問題を行動分析した結果、「感情理解スキル(感情読み取り・感情統制)」「頼むスキル」「断るスキル」を標的スキルとした。SSTの結果、介入群では標的スキルの獲得が確認され、学級全体の仲間関係にも改善がみられた。また、特に介入前に学校適応感が低かった児童について、対照群では学校適応感に有意な変化がみられなかったのに対し、介入群では介入から3か月後のフォローアップにかけて学校適応感に向上がみられた。
著者
大対 香奈子 田中 善大 庭山 和貴 松山 康成
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.310-322, 2022 (Released:2022-11-26)
参考文献数
27

学校での児童の問題行動に対し,叱責などの嫌悪的な対応ではなく,望ましい行動を積極的に教え,承認することで増やし,問題行動を予防する実践であるポジティブ行動支援(positive behavior support: PBS)が最近注目されている。本研究ではPBSを学校規模で実践する学校規模ポジティブ行動支援(school-wide positive behavior support: SWPBS)を公立小学校1校で実施し,児童と教師への効果を検討した。結果,SWPBS実施後に児童の授業参加行動の増加が見られ,また主観的な友人関係に関わる適応感が改善したことが示された。教師への効果としては,SWPBS実施後に教師の称賛の回数は変化しなかったものの,叱責については減少が見られた。以上より,本研究のSWPBSの実践は児童および教師に一定の効果が認められた。今後は対象校を増やした検討が望まれる。
著者
大対香奈子 田中善大 庭山和貴 月本彈# 小泉令三
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

企画趣旨大対香奈子 この20年間で教育に関わる行政や法制度はめまぐるしく変化し,特に最近の動向としてはインクルーシブ教育,合理的配慮,予防的支援,チーム学校というキーワードが特徴的である(石隈, 2017)。これまでの,発達障がいや不登校といった支援を必要とする児童生徒に個別に支援を行うという考え方から,全ての児童生徒を対象とした予防的観点からのアプローチ,そして教員と専門家がチームとして取り組むという支援体制が強く求められるようになってきている。 このような社会的要請に応じるための一つの学校支援のあり方として,スクールワイドのポジティブな行動支援(School-wide Positive Behavior Support; SW-PBSまたはSchool-wide Positive Behavioral Interventions and Supports; SW-PBIS)がある。SW-PBSはアメリカではすでに25,000校以上で導入されており,問題行動の減少,学力や授業参加行動の向上,学校風土の改善等の効果があることが実証されている。近年,日本においてもSW-PBSが注目され,少しずつではあるがその導入が進められている。本シンポジウムでは,日本におけるSW-PBSの実践例を話題提供者から紹介していただき,日本において導入する上での課題について議論をしたい。また,その普及における導入の忠実性をどのように保ち,効果のエビデンスをどう示していくかということについても検討していきたい。指定討論者には社会性と情動の学習(Social and Emotional Learning; SEL)の導入実践の日本における第一人者である小泉令三先生にお越しいただき,SELの導入を進めてこられた経験から指定討論をしていただく。小学校のSW-PBSにおける第1層支援の効果検討月本 彈 近年SW-PBSは,日本において導入が進められつつあるが,依然効果検討がほとんどなされていない。また,日本に導入する際に必要となる人材やコストや課題なども明らかでない。 話題提供では,徳島県の公立小学校へ導入したSW-PBSの全学級・全児童を対象とした第1層支援の実践について紹介する。本実践では,応用行動分析学の専門家が,研修や助言を行った。対象校の教職員は,コーディネーターを中心とし,学校目標マトリックス図を作成し,その中の優先度が高い行動目標について,行動指導計画を作成し,それに従って児童に対して行動目標の指導が行われた。具体的には,きまりを守るための行動(授業に必要なものを準備するなど), 自分と友達を大事にするための行動(あったか言葉を使うなど),すてきな言葉をつかう(あいさつをするなど)の3つに関わる行動が指導された。 行動の指導の方法は,主に教職員による教示,モデリングとロールプレイ,賞賛やグラフフィードバックによる強化であった。本実践の効果について,行動指標(指導された行動に関する行動変容の記録)と評価尺度のデータ(日本語版School Liking and Avoidance Questionnaire(SLAQ)と日本語版Strengths and Difficulties Questionnaire(SDQ)を修正したもの)から検討した。さらに,教職員への今回の取り組みについての重要性や負担感,成果などを尋ねるアンケートから,社会的妥当性を検討するとともに,管理職へ今回の取り組みに関する付加的な予算の使い道などをアンケートで尋ねることでSW-PBSを導入する際に必要な人材やコストと課題についても検討する。中学校の学年ワイドのPBISが生徒指導件数に及ぼす効果―日本の学校教育現場におけるデータに基づく意思決定システムの可能性―庭山和貴 SW-PBISの要素として,子どもの行動に対するポジティブな行動支援の“実践”,それを実施する教職員の行動を支援するための“システム”,そしてこれらが上手く機能しているかどうかを確認・改善するための“データ”に基づく意思決定,が挙げられる (Horner & Sugai, 2015)。これらの要素のうち,日本の学校教育現場への普及を考えた際に最も導入困難なのは“データ”である。米国では,Office Discipline Referral (ODR) と呼ばれる問題行動の記録が,SW-PBISの効果指標として広く使われており,どの子どもにより集中的な支援が必要なのか,どの場面・時間帯の問題行動を重点的に予防すべきか,などの意思決定のために活用されている。 日本の教育現場においても,特に中学校・高校では生徒指導の記録(生徒指導担当教諭に報告するレベルの問題行動の記録)を記述的に残している場合がある。米国のODRを参考にして,このような生徒指導の記録を,教育現場におけるより良い意思決定や,支援の効果検証に活用可能な形にすることは可能である。 本話題提供では,関西圏の公立中学校において,学年規模のPBISを実施し,その効果検証に生徒指導の記録を用いた実践研究について紹介する。介入の効果指標として,記述的に残されていた生徒指導の記録を,ODRの記録フォーマットを参考に,件数として把握できる形に整えた。そして,この生徒指導件数を各月の授業日数で割り,一日当たりの生徒指導件数の月毎の推移をグラフ化した。介入として,庭山・松見(2016)をもとに,生徒の望ましい行動を担任教師らが積極的に言語賞賛する取り組みを実施した。さらに生徒指導担当教諭が,担任教師らの取り組みが持続しやすいように教師支援を行った。その結果,担任教師らの授業中の言語賞賛回数が増え,子ども達の望ましい行動が増加した。そして,問題行動は相対的に減少したことが,生徒指導件数の減少により確かめられた。本話題提供では,この実践研究の過程において,生徒指導件数の記録がどのように支援の継続や改善の意思決定のために活用されたのかについて述べ,日本の教育現場におけるデータに基づく意思決定システムの可能性について検討する。小学校における学級を基礎としたSW-PBSの展開田中善大 学級は,日本の学校における基礎的な単位であり,児童生徒への支援を考える上で重要なものである。SW-PBSでは,学校全体(第1層)から小集団(第2層),個人(第3層)へと階層的で連続的な支援を実施する。学級という単位はどの層の支援にも関連するため,SW-PBSの実践において重要なものとなる。 SW-PBSにおいておける学校規模での1層支援は,日本においても学級単位(Class-wide: CW)であれば多くの実践が効果的に実施されている。学級において効果が確認されたポジティブな行動支援の方法を学校全体で共有し,実施すればSW-PBSにおける1層支援となる。また,必要な児童に対しては,学級集団に対する介入と合わせて,より個別的な支援を実施している場合も多い。これは学級単位での多層支援であり,1層支援と同様に効果的なものを学校全体で共有することで効果的にSW-PBSを進めることができる。 話題提供では,SW-PBSの導入校(話題提供1と同様の学校)の4年生2学級において実施した学級単位の介入及びその後実施された学校規模の取り組みについて紹介する。学級単位での介入では,多層支援として,学級全体に対する介入とより個別的な介入を実施し,その効果を確認した。学級全体の介入で対象とした行動は,学校全体で作成した学校目標マトリックス図をもとに決定した(「おへそを向けて話を聞く」「うなずきながら話を聞く」など)。介入では,学級単位のSSTの実施,適切行動を引き出す声掛け及び適切行動に対する言語称賛,集団随伴性に基づく介入などを実施した。また,学級全体に対する介入に加えて一部の児童に対してはより個別的な支援を実施した。教員による行動観察の結果から,学級介入の効果(適切行動の増加)が確認された。効果が確認された学級(CW)に対する介入は,より簡易な形に変更して学校全体(SW)でも実施された。話題提供では,これらの実践の報告から,学級を基礎としたSW-PBSの展開について検討する。小学校のSW-PBSの導入による教師の行動変化大対香奈子 実践の忠実性とは,その実践が理論的モデルやマニュアルに沿って意図されたように実践された程度と定義され(Schulte, Easton, & Parker, 2009),忠実性の高いSW-PBSほど効果的であることは様々な成果のデータから示されている(Horner et al., 2009; Kelm & McIntosh, 2012)。つまり,しかるべき手続きがどの程度忠実に実践されているかということが,高い効果を生むかどうかを左右するのである。SW-PBSは学校規模での実践であるため,その実践者は全教師である。 SW-PBSでは,問題行動に注目するのではなく,より適応的な行動を児童生徒に明確に呈示し,教え,その行動が見られた時には承認するという手続きが重要な要素として含まれる。したがって,教師が児童生徒の望ましい行動を効果的に賞賛したり承認したりすることが大きなポイントとなる。教師の賞賛は,適切な行動や学業従事行動を増加させるという実証研究は数多くあるが(Chalk & Bizo, 2004; 庭山・松見, 2016),SW-PBSの導入により実際に教師の賞賛行動が増えるのかについて検討したものはほとんど見当たらない。 そこで,本話題提供では,大阪府の公立小学校へのSW-PBSの導入により,教師の児童に対する賞賛および叱責の回数がどのように変化したのかという実践例のデータを示しながら,SW-PBSの導入が教師のどのような行動変化を生むのかについて,検討したい。また,SW-PBSの効果につながるような教師の行動変化を生むためには,どのような導入の手続きが必要と考えられるかについても議論し,今後の日本におけるSW-PBSの普及と効果的な導入のために,教師や校内のリーダー的役割を果たす教師への研修に含めるべき内容や必要な導入の手続きについて検討する。また,SW-PBSのゴールとしては関係するすべての人のQOLを高めることであるため,SW-PBSの導入により起こった教師の行動変化が,児童生徒や教師自身のQOLの向上にどのようにつながり得るのかについても今後の展望として検討したい。
著者
大対 香奈子 松見 淳子
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.223-233, 2007

The purpose of this study was to examine the relationship between teacher ratings of preschoolers' social skills and their level of competence in perspective taking, regulation of emotion, and interpersonal problem solving. The participants were 84 preschool children whose ages ranged from 3 to 5 years. The experiment was conducted individually using puppets. The results indicated that the developmental changes in the three areas of competence being studied were consistent with the findings of previous studies. We also found that children's regulation of emotion was related to perspective taking and interpersonal problem solving. Furthermore, the level of competence in interpersonal problem solving predicted teacher ratings of children's social skills. These results suggested that regulation of emotion and interpersonal problem solving are important elements of effective social skills training.
著者
大久保 賢一 月本 彈 大対 香奈子 田中 善大 野田 航 庭山 和貴
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.244-257, 2020-03-20 (Released:2021-03-20)
参考文献数
16

研究の目的 本研究では、SWPBSの第1層支援を実施し、その効果と社会的妥当性を検討することを目的とした。研究計画 ABデザインを用いた。評価尺度については3つの時期に測定し、それぞれの時期の全校児童のスコアの平均を比較した。場面 公立小学校1校において実施した。参加者 対象校の全ての児童と教職員が本研究に参加した。介入 ポジティブ行動マトリクスを作成し、各目標行動の行動支援計画を立案し実行した。行動の指標 目標行動に従事している人数をカウントして得られたデータ、あるいはインターバル・レコーディング法を用いて得られたデータを指標とした。他に質問紙法によって評価尺度のデータや社会的妥当性に関するデータも収集した。結果 介入後に目標行動が増加し、評価尺度のスコアに改善がみられた。また一定の社会的妥当性が示された。結論 本研究において実施したSWPBS第1層支援の効果と社会的妥当性が確認できた。しかし、チームマネジメント、データに基づく第2層支援や第3層支援への移行、データの信頼性など、いくつかの課題が示された。
著者
本岡 寛子 植田 恵未 大対 香奈子 堀田 美保 直井 愛里
出版者
近畿大学総合社会学部
雑誌
近畿大学総合社会学部紀要 = Applied Sociology Research Review KINDAI UNIVERSITY (ISSN:21866260)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1-11, 2019-09-30

[Abstract]In recent years, while the number of students entering to universities has continuously increased, 20 to 30% of those have dropped out before graduation (Japanese Ministry of Education, Culture, Sports, Science, 2014). Unwilling admission tends to cause maladaptation to university life. Nevertheless, some of those with unwillingness seem to improve their expectations and images about their own universities, leading to complete their courses and feeling high satisfaction. The purpose of this study was to examine the changes in the students, concerning their images and expectations about their universities, their group identity, and their adaptation levels to university life, and to clarify the relationships among these factors. We conducted a series of survey for the first-year students at three times during their first semester. Results shows that the students with high willingness to enter the university were likely to have positive images and high expectations about their university, and to show high group identity and good adaptation to university life. By the end of the semester, their enlarged social network had strong influences on their adaptations to university life through their attachment to the other university members.
著者
大対 香奈子 大竹 恵子 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.135-151, 2007-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
99
被引用文献数
3 3 6

不登校やいじめなど, 子どもの学校不適応問題が深刻化し続けている中, 子どもの学校不適応に関する研究や不適応改善のための取り組みが盛んに実施されている。しかし, 学校適応の定義が一貫していないために, 学校適応の測定に用いる指標や介入の効果検証の仕方は研究間で様々である。特に現在注目を集めているのは不適応の予防であり, 効果的な予防介入を実施するためには, 子どもの学校適応の正確かつ妥当なアセスメントが必要になる。本論文では, 先行研究の展望により学校適応の概念をまとめ, 学校適応アセスメントの理論的基盤となる三水準モデルを提唱した。このモデルでは, 水準1として感情や認知を含めた子どもの行動的機能, 水準2として子どもの行動が学校環境の中でどのように強化され形成されるのかという環境の効果に注目した学業的・社会的機能, 水準3として個人の行動と環境との相互作用の結果として生じる子どもの学校適応感という3つの水準から子どもの学校適応状態を把握する。また, これまでに実施されている予防介入の限界と課題から, より効果的な予防介入に必要なアセスメントについて三水準モデルをもとに検討する。