著者
卒田 卓也
出版者
近畿大学 心理臨床・教育相談センター
雑誌
近畿大学 心理臨床・教育相談センター紀要 (ISSN:24349933)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.25-33, 2018-03-15

[要旨]自らの声を取り戻し,自らが選択しているという感覚はエイジェンシー(国重,2013)と呼ばれている。ナラティヴ・セラピーでは,カウンセラーが問題に対する方向性を定めるのではなく,当事者の選択を重視することにより,エイジェンシーを発揮できるように支援するスタンスをとる。本事例では,計5回の面接過程を①「母子が何に困らされているかを知り母子で共闘できる問題設定を模索する」,②「問題(“イライラ”)の外在化,問題からの影響を探る」,③「問題をコントロールできる,エイジェンシーの発揮」の3期に分けて整理をし,エイジェンシーを発揮していく変遷について報告する。ナラティヴ・セラピーの姿勢は,人が内在化した問題に振り回されていた状態から,外在化された問題として扱えるようになることを支持する。そして,外在化した問題に対抗でき,その実感をもつことで,主体的に問題に対抗する気持ちが増幅し,エイジェンシーを発揮することで事態は大きく変化していくといえるだろう。
著者
本岡 寛子 赤羽 紗季
出版者
近畿大学 心理臨床・教育相談センター
雑誌
近畿大学心理臨床・教育相談センター紀要 (ISSN:24349933)
巻号頁・発行日
no.5, pp.23-33, 2021-03-15

[要旨]ウィズコロナ・アフターコロナ時代において心身の健康を保ちながらテレワークを定着させるためには,心理的ディタッチメントを保つことが必要だと考えられる。本研究は勤務時間外の連絡に対する意識尺度を作成し,意識による心理的ディタッチメントと職業性ストレスの差異を検討することを目的に20代から60代の男女93名を対象に調査研究を行った。探索的因子分析の結果,勤務時間外の連絡に対する意識尺度において「業務遅延/迷惑懸念因子」「評価懸念因子」「返信不急因子」の3因子が抽出された。3 因子を基にクラスター分析を行った結果,「不急意識優位型」,「葛藤型」,「返信懸念優位型」に分類された。このことから,勤務時間外は,「返信を保留する意識」を有している者が一部存在するといえる。一方,「返信懸念優位型」のように周りとの調和が乱れたり,迷惑がかかる可能性を懸念する傾向が強い者も存在した。「葛藤型」は周りとの調和を乱れることや迷惑がかかることを懸念しつつも連絡に応じないタイプであり,3型の中で最も活気が低く,イライラ,疲労,抑うつ,身体愁訴の得点が高いことからも,「葛藤型」はストレスを蓄積しやすいと考えられる。
著者
長田 道
出版者
近畿大学 心理臨床・教育相談センター
雑誌
近畿大学心理臨床・教育相談センター紀要 (ISSN:24349933)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.43-50, 2019-03-15

[要旨]本稿は,不登校の小学生女児をスクールカウンセラーとして家庭訪問を行った2年間の過程を報告したものである。本児童は幼少期より消極的,受け身的な適応姿勢を続けていたが,周囲の子ども達が前思春期を迎え,密接な仲間関係を築き始めたことからその在り方が行き詰り,学校生活から退避したと考えられた。その背景要因として,本児の家族が社会との交流を避け,殻に閉じこもったような生活をしていた一方で,家族間には境界がなく未分化な状態であったため,本児の前思春期の歩みを支えるには脆弱であったことが考えられた。本児の家族のように閉塞した家庭には,家族以外の他者の存在が大きな意味を持ち,スクールカウンセラーは重要な役割を果たしうる。また,不登校の子どもや家族は積極的に支援を模索する力が不足している場合が多く,支援者が家庭に出向くことが有効である。その際には,明確な面接構造を保つことが,「安定した他者」として機能することを可能にする。この事例でも,スクールカウンセラーが安定した面接構造を設定したことで,本児にとっての「安定した他者」として存在することを可能にし,本児が家族と分離し,自己の確立に向かう前思春期の成長の過程を支えた。
著者
赤松 大輔 小泉 隆平
出版者
近畿大学 心理臨床・教育相談センター
雑誌
近畿大学心理臨床・教育相談センター紀要 (ISSN:24349933)
巻号頁・発行日
no.5, pp.1-12, 2021-03-15

[要旨]本研究では,昼間定時制高校の新入生を対象として,彼らの自尊感情の高さと変動性に関する検討を行った。118名の生徒に4月,7月,11月にわたる3時点の縦断調査を行った。相関分析の結果,自尊感情のレベル(3時点を通した自尊感情の平均的な高さ)と変動性(3時点にわたる自尊感情の個人内の変化の大きさ)の間には,統計的に有意ではなかったものの,理論的に妥当な負の相関(r = -.14)が示された。また,自他の情動を適切に認識し,調整する能力である情動知能との関連も検討した。その結果,状況対処や感情制御にかかわる情動知能は,自尊感情のレベルと有意な正の相関(r = .58)を,自尊感情の変動性と有意な負の相関(r = -.30)を示した。この結果から,状況対処や感情制御にかかわる情動知能が,自尊感情の高さと安定性に寄与する可能性が示唆された。考察では,教育場面において子どもの自尊感情のレベルと変動性の双方を支えるうえで,情動知能に着目した教育的支援の在り方の重要性について議論した。