- 著者
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李 剣
木村 留美子
津田 朗子
- 出版者
- 金沢大学つるま保健学会 = Tsuruma Health Science Society, Kanazawa University
- 雑誌
- 金沢大学つるま保健学会誌 = Journal of the Tsuruma Health Science Society (ISSN:13468502)
- 巻号頁・発行日
- vol.39, no.2, pp.171-179, 2015
本研究の目的は、在日中国人母親が妊娠や出産、子育てを行う際に経験した困難感や支援の実態及びそれに対する母親の思いを調査し、今後の在日外国人母親の支援のあり方を検討することである。対象は就学前の乳幼児を持つ母親20名であり、インタビューガイドに基づく聞き取り調査を実施した。調査内容は、在日中国人母親が妊娠や出産、子育て期に関連機関を利用した際の困難な経験や文化的背景の相違から生じた問題など母親の体験談である。結果として、中国人母親は日本の病院は中国の病院より患者数が少なく、環境面が清潔であり、日本政府は外国人の母子に対しても差別なく出産一時金、児童手当、子どもの医療費の補助を行っていることに対して非常に良い社会福祉制度であると認識していた。しかし、その反面、≪言葉・風習の相違による困惑≫、≪家族からの子育て支援のバリア≫、≪母親への精神的な影響≫などの問題が挙げられた。母親が様々な施設を利用する時、言葉の問題だけではなく、文化や習慣の相違からストレスを抱いていた。このような問題は在日中国人母親だけの問題ではなく、異文化の中で育った他の外国人母親にとっても同様のことであり、国籍の異なる人々と関わる際の専門家は異文化に対する認識を前題とした関わり方や母親の心理面の支援を考慮した支援の必要性が示唆された。また、出産や子育て支援を目的に、本国から両親が訪問する際には国によってはビザ申請条件が厳しく、夫の育児休暇も確実に取れない状況にあるため、各自治体が外国人母親向けに利用可能な子育て支援情報を提供する必要性が示唆された。