著者
服部 幹 前田 幸嗣 外園 智史 高橋 昂也
出版者
食農資源経済学会
雑誌
食農資源経済論集 (ISSN:03888363)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.11-19, 2013-10

わが国では現在,環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加の是非が議論されている。TPPは全ての品目の関税を撤廃することを原則としているため,特に大きな影響を受けると予想される農業分野では,議論が活発に行われている。農業分野について,TPP参加に賛成する立場からは,TPP参加による農業保護の削減が,生産性の向上をもたらすという主張がなされている。たとえば,星・カシャップ[6]は,「農業分野の生産性低下を止めるためには農業保護を削減していく必要がある」と述べ,農業の生産性低迷の理由として,保護措置を挙げている。また,日本経済新聞[8]によると,アンケート調査を行った農業法人のうち33.5%がTPP参加に「賛成」もしくは「どちらかといえば賛成」と回答し,その理由の一つとして「生産性の向上」を挙げている。しかし,このような農業保護の削減が生産性の向上をもたらすという主張や期待は,計量的に裏付けられているわけではない。本稿の課題は,農業保護水準と全要素生産性の関係性について計量的に分析することである。分析にあたっては,世界的な傾向を捉えるため,クロスカントリー・データを用いて分析を行う。また,全要素生産性の指標としてはMalmquist指数を,農業保護水準の指標としてはパーセンテージ生産者支持推定量(Percentage Producer Support Estimate,以下%PSE)を用いる。そして,農業保護水準と全要素生産性に関するこれらの指標について,統計的な分析を行うことにより,その関係性を計量的に明らかにする。本稿の以下の構成は次の通りである。まず第2節において,分析の概要,および包絡分析法(Data Envelopment Analysis,以下DEA)を基にしたMalmquist指数の計測方法について説明する。第3節でMalmquist指数の計測に使用したデータ,および%PSEのデータについて述べる。第4節では各指標の計測結果について述べ,第5節において農業保護水準と全要素生産性の関係性について,計量的に明らかにする。最後に,第6節で本稿のまとめと残された課題を述べる。
著者
井上 憲一 竹山 孝治 藤栄 剛 八木 洋憲
出版者
食農資源経済学会
雑誌
食農資源経済論集 (ISSN:03888363)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.1-11, 2014-10

近年わが国では,持続可能な農業を実現する手段としての環境保全型農法への転換に向けた政策的な支援が国や地方自治体で進められている。2015年から実施予定の日本型直接支払制度においても,こうした支援策として環境保全型農業直接支援対策の継続が見込まれている。環境保全型農法の実施に関しては,収量の減少や労働時間の増加に直面しやすく,その農家間の差異も大きい一方で,独自のマーケティングによる販売価格の向上により,収益性を確保している実態が明らかにされている(胡[1],藤栄[2],藤栄他[3])。環境保全型農法の実施主体は,従来の家族農業経営に加えて,集落営農組織や農外参入企業など,近年多岐にわたる。なかでも集落営農組織は,立地集落に対する地域貢献の役割も果たしており,特に中山間地域に立地する集落営農組織では,その役割が一層大きいことが指摘されている(竹山・山本[11],今井[6])。このような集落営農組織では,収益性の確保に加えて,集落の自然環境と生活環境の保全を実現するという形での地域貢献に対する志向も,環境保全型農法の導入に関係しているものと推察される。