著者
戸次 加奈江 稲葉 洋平 内山 茂久 欅田 尚樹
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH = 産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.201-207, 2017
被引用文献数
154

受動喫煙による健康影響が懸念される中,たばこ規制枠組条約(FCTC)締約国として我が国でもその対策が推進され,現在,2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて,受動喫煙防止のための効果的な法の整備が国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機関(WHO)の要請のもと進められている.一方,Philip Morrisは新型タバコとして,加熱式タバコiQOSの販売を開始した.iQOSは,副流煙が低減化された新型タバコとして販売されているものの,受動喫煙や毒性に関しては限られた情報しかない.本研究では,科学的な観点からiQOSを評価するため,タバコ葉およびタバコ主流煙中の主成分であるタール,ニコチン,一酸化炭素およびタバコ特異的ニトロソアミン(TSNAs)の濃度レベルを従来の燃焼式タバコ(標準タバコ)と比較した.iQOS専用のタバコ葉および主流煙からは,標準タバコと同程度のニコチンが検出されたのに対して,TSNAsは,タバコ葉および主流煙のいずれも標準タバコの5分の1程度にまで濃度が低減され,燃焼マーカーとしても知られる一酸化炭素(CO)は,標準タバコの100分の1程度の濃度であった.しかしながら,この様な有害成分は完全に除去されているわけではなく,少なからず主流煙に含まれていた.今後,iQOSの使用規制には,有害成分の情報に加え,受動喫煙や毒性などの情報から,総合的に判断していく必要がある.
著者
樫山 国宣 園田 信成 尾辻 豊
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH = 産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.11-24, 2017
被引用文献数
2

心筋梗塞をはじめとする虚血性心疾患は,主に粥状動脈硬化を基盤に発生し,その主な危険因子は,高血圧,脂質異常,糖尿病,肥満,喫煙である.これまで,我が国の虚血性心疾患の発症率は,生活習慣や冠動脈の解剖学的な違いから,欧米(男性7.2,女性4.2人/1,000人・年)に比べ日本は(男性1.6,女性0.7人/1,000人・年)と低かったが,近年,生活習慣の欧米化によって状況は変化し,現在では心血管病による死亡は我が国の死因の2位,虚血性心疾患による死亡は全心血管病による死亡の4割を占めるようになった.特に心筋梗塞の既往のある患者では,心筋梗塞再発のリスクが2.5%と高く,心筋梗塞の2次予防のために冠危険因子の厳格な管理が必要であり,冠危険因子の管理実行について多くの治療指針やガイドラインが整備されているが,いまだ問題も多い.脂質管理について,low density lipoprotein(LDL)低下療法による虚血性心疾患の予防効果が証明され,動脈硬化疾患予防ガイドラインが策定されたが,2次予防を行っている患者の中でLDL目標値100 mg/d<i>l</i> を達成しているのは3分の1にとどまるという報告もある.また,虚血性心疾患の高リスク患者にさらに低いレベルの目標値が必要か否かは明らかではない.糖尿病も,厳格な血糖コントロール群で死亡率が5.0%と上昇(標準治療では4.0%)を認め,血糖コントロールの開始時期(早期の治療開始)や,評価指標(HbA1cや食後血糖),治療薬剤選択(ビグアナイド系薬剤やDPP-4阻害薬)についてもまだ議論の余地がある.現行の治療ガイドラインに従い,血圧では家庭血圧135/85 mmHg未満,脂質ではLDL-C 100 mg/d<i>l</i> 未満,high density lipoprotein(HDL) 40 mg/d<i>l</i> 以上,TG 150 mg/d<i>l</i> 未満,糖尿病では,HbA1c(NGSP)7.0%未満を目標に厳格な管理を行うことが,虚血性心疾患の2次予防として有効である.
著者
田中 公介
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH = 産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.279-289, 2016
被引用文献数
1

<p>統語派生が言語表現の音声具現化と意味解釈への最適解を提供するという基本理念のもとで,近年のミニマリスト統語派生理論では,その派生単位がフェイズと呼ばれる統語的命題要素であると主張されている.この分析では,補文標識句(Complementizer Phrase: CP)を含むフェイズ投射をもとに統語派生が進むが,CP領域内で複数の談話関連要素が生起可能な事実を説明できない問題が指摘されている.この問題は,近年のミニマリスト統語論においてもう一つの影響力のある分析であるカートグラフィックCP分析を採用することによって克服されるが,文タイプ・発話効力関連句(Force Phrase: ForceP),定性関連句(Finite Phrase: FinP),話題句(Topic Phrase: TopP),焦点句 (Focus Phrase: FocP)という4種の機能投射とそのフェイズ性に関する理論的問題を呈する可能性がある.本論文では,統語派生上必要不可欠なForcePとFinPがフェイズとしてそれぞれに関連した主要部とフェイズ関係を形成する融合分析を提案する.この結果,英語の話題化構文の基本特性が説明される.また,近年の他のミニマリスト研究における観察と仮定を踏まえることにより,時・条件の副詞節中や命令文中における話題化構文の固有特性を説明できることも示す.</p>