著者
戸次 加奈江 稲葉 洋平 内山 茂久 欅田 尚樹
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.201-207, 2017-09-01 (Released:2017-09-14)
参考文献数
17
被引用文献数
72 150

受動喫煙による健康影響が懸念される中,たばこ規制枠組条約(FCTC)締約国として我が国でもその対策が推進され,現在,2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて,受動喫煙防止のための効果的な法の整備が国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機関(WHO)の要請のもと進められている.一方,Philip Morrisは新型タバコとして,加熱式タバコiQOSの販売を開始した.iQOSは,副流煙が低減化された新型タバコとして販売されているものの,受動喫煙や毒性に関しては限られた情報しかない.本研究では,科学的な観点からiQOSを評価するため,タバコ葉およびタバコ主流煙中の主成分であるタール,ニコチン,一酸化炭素およびタバコ特異的ニトロソアミン(TSNAs)の濃度レベルを従来の燃焼式タバコ(標準タバコ)と比較した.iQOS専用のタバコ葉および主流煙からは,標準タバコと同程度のニコチンが検出されたのに対して,TSNAsは,タバコ葉および主流煙のいずれも標準タバコの5分の1程度にまで濃度が低減され,燃焼マーカーとしても知られる一酸化炭素(CO)は,標準タバコの100分の1程度の濃度であった.しかしながら,この様な有害成分は完全に除去されているわけではなく,少なからず主流煙に含まれていた.今後,iQOSの使用規制には,有害成分の情報に加え,受動喫煙や毒性などの情報から,総合的に判断していく必要がある.
著者
戸次 加奈江
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では、室内外の環境中で有害性が指摘されるイソシアネートについて、フィルターと個体捕集の組み合わせにより粒子及びガス状成分を対象とした新たな測定方法(GFF_SCX-DBAカートリッジ)を確立した。本手法について、イソシアネートの発生源を有する作業環境中での妥当性評価と,一般住宅での汚染実態調査を行ったところ、測定手法の精度及び安定性が確認され、一般住宅からは、イソシアン酸(ICA)、メチルイソシアネート(MIC)、プロピルイソシアネート(PIC)など揮発性の高い数種類のイソシアネートが検出された。
著者
戸次 加奈江 山口 一郎
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.186-190, 2023-08-31 (Released:2023-09-21)
参考文献数
10

利便性の高い豊かな生活へとライフスタイルが変化し続ける中,生活用品や住環境において,未規制の化合物の利用が増加していることや,原子力発電所の事故による放射性物質の環境への放出,5Gシステムの普及など電波による健康リスク,細菌やウイルスによる食中毒事故の発生など,我々は多くのハザードと隣り合わせにありながら日々生活している状況にある.また近年,有害性の高い既知物質の使用が禁止または規制を受ける一方で,大気汚染や異常気象に絡んだ自然災害,新型コロナウイルス感染症など,これまで想定されていなかった多様なリスクが身の回りに存在している.このようなリスク因子の主な疾病への寄与は,世界保健機関によりDALY(障害調整生存年数)を指標に示されており,さらに疾病予防の指標となる環境リスクが提示されているが,これらに対し,我が国ではレギュラトリーサイエンスの理念のもと,環境調査による科学的知見に基づくリスク評価や,人を対象とした環境疫学調査,さらに規制・施策の実施による安全管理の取組がより一層必要とされているところである.さらに,世の中の環境リスクは,産業や工業活動などの人為由来のものから,地震や火山の噴火などの自然災害,さらには,越境汚染や海洋汚染などによる国境をまたいだ問題に至るまで,時代と共に,複雑かつ不確実性を持ち合わせた対応困難な問題も次々と浮上している.そのため,日本は,これまでの自然災害への対応などの経験と共に,先進国として国際的な共通認識の中で,環境リスク低減に向けた対策に貢献していく必要があり,将来的な課題解決に対応していく上では,化学,物理学,生物学,医学など自然科学だけでなく社会科学も含めた分野横断的な研究の推進と,産学官の専門家による連携がますます必要になるであろう.
著者
戸次 加奈江 稲葉 洋平 内山 茂久 欅田 尚樹
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH = 産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.201-207, 2017
被引用文献数
150

受動喫煙による健康影響が懸念される中,たばこ規制枠組条約(FCTC)締約国として我が国でもその対策が推進され,現在,2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて,受動喫煙防止のための効果的な法の整備が国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機関(WHO)の要請のもと進められている.一方,Philip Morrisは新型タバコとして,加熱式タバコiQOSの販売を開始した.iQOSは,副流煙が低減化された新型タバコとして販売されているものの,受動喫煙や毒性に関しては限られた情報しかない.本研究では,科学的な観点からiQOSを評価するため,タバコ葉およびタバコ主流煙中の主成分であるタール,ニコチン,一酸化炭素およびタバコ特異的ニトロソアミン(TSNAs)の濃度レベルを従来の燃焼式タバコ(標準タバコ)と比較した.iQOS専用のタバコ葉および主流煙からは,標準タバコと同程度のニコチンが検出されたのに対して,TSNAsは,タバコ葉および主流煙のいずれも標準タバコの5分の1程度にまで濃度が低減され,燃焼マーカーとしても知られる一酸化炭素(CO)は,標準タバコの100分の1程度の濃度であった.しかしながら,この様な有害成分は完全に除去されているわけではなく,少なからず主流煙に含まれていた.今後,iQOSの使用規制には,有害成分の情報に加え,受動喫煙や毒性などの情報から,総合的に判断していく必要がある.
著者
欅田 尚樹 内山 茂久 戸次 加奈江 稲葉 洋平
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.501-510, 2015-10

国民健康栄養調査によると日本の喫煙率は徐々に低下傾向を示してきた.ここ数年は低下傾向が抑制され定常状態を示している.低下してきた要因として,受動喫煙対策を含むたばこ規制と,消費者の認識を高めることにつながるたばこの健康影響に関する知識の国民への普及があると考えられる.喫煙率の低下と連動して,禁煙意思を有する喫煙者の割合は徐々に増加していた.ところが直近の調査では,禁煙意思を有する喫煙者の割合が急激に低下した.この減少の要因の一つとして,各種新規たばこおよび関連商品の販売が関係していると思われる.この状況が継続すると,2022年に成人喫煙率を12%とする目標達成は困難なものになると思われる.スヌースは,たばこ葉が詰められたポーションと呼ばれる小袋を唇と歯肉の間にはさみ使用する無煙たばこである.EU諸国ではスヌースの販売が禁止されているが,スウェーデンでは早くから販売がされていた歴史的経緯から特例として販売されている.2013年には日本たばこ産業株式会社が国内でスヌースの販売を開始した.スヌースは,依存性を有するニコチンや,発がん性物質,その他の有害物質を含んでいる.スヌースは,紙巻きたばこのより安全な代替物ではない.無煙たばこは,国際がん研究機関IARCによる発がん性分類において,グループ 1 ;ヒトに対して発がん性があると分類されている.近年,電子タバコも広く普及しつつ有る.しかしながら,我々は電子タバコの蒸気に,ホルムアルデヒド,アセトアルデヒド,アセトン,アクロレイン,グリオキサール,メチルグリオキサールなど種々のカルボニル類が含まれていることを報告した.いくつかの銘柄の電子タバコからは,従来の紙巻きたばこの主流煙に含まれるより高濃度のカルボニル類の発生も観察された.また,市場での規制が無い広告は以前のたばこの広告に似ている状況にある.たばこ対策においてたばこ製品規制は必須の要件である.WHO世界保健機関のたばこの製品規制に関する科学諮問グループは,WHOたばこ規制枠組み条約FCTC第 9 条,10条にそった電子タバコや無煙たばこの規制について言及している.公衆を保護し公衆衛生を推進していくために,政府機関の監督の下で,これらのたばこ製品および関連製品のデザイン,内容物と排出物の規制の実行が求められる.電子タバコを含む新規たばこ関連製品は,決して無害あるいは害が少ない訳ではなく,公衆衛生上の潜在的な影響は明確ではないので,これらに対する規制は,たばこ規制政策の枠組みに則って実施されるべきである.新規たばこ関連製品の市場における細心の注意と監視が必要である.
著者
戸次 加奈江 浅見 真理 欅田 尚樹 児玉 知子
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.262-272, 2021-08-31 (Released:2021-10-13)
参考文献数
48

「持続可能な開発目標 3 」(SDG3)では,保健医療分野に関する評価・モニタリング指標の提示が求められている.本研究では,生活環境関連分野における指標の定義を確認するとともに,一般環境から労働環境までを対象に,WHO報告書から環境リスクが指摘される化合物及び物理的因子に関する国内の文献レビューを行った.その結果,室内寒暖差と死亡率との関連性や,準揮発性有機化合物(SVOC)の室内濃度や湿度環境とアレルギー疾患との関連性,大気中の微小粒子状物質と呼吸器・循環器系疾患との関連性が示唆された.また,指標3.9.2「安全ではない水,安全ではない公衆衛生及び衛生知識による死亡」はTier Iであるが,過去30年間の国内水質事故事例の情報収集等をもとにした水系感染症死亡事例による推計値は,国連指定のコーディングによる報告値よりも極めて低く,WHOのWASH定義疾病コードが開発国の状況を基にした定義となっていることが示唆された.
著者
稲葉 洋平 内山 茂久 戸次 加奈江 牛山 明
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】リトルシガーは葉巻であるが、その外観、使用法は紙巻たばことほぼ変わらないたばこ製品である。リトルシガーは、2019年から市場に多く投入されている。この一因として、シガー(葉巻)は、紙巻たばこよりもたばこ税が低く、20本入りの1箱の価格が400円程度となっている。紙巻たばこが1箱500円程度であることを考えると安価な紙巻たばこ製品と考えられる。現在、国内で販売されているリトルシガーの主流煙に含まれる化学物質量は、公表されていない。そこで、本研究では、リトルシガー主流煙のニコチン、一酸化炭素、タール、たばこ特異的ニトロソアミン(TSNAs)の分析を目的とした。【方法】測定対象のたばこ製品は、echoとわかばの紙巻たばこ、リトルシガーとした。さらに数銘柄のリトルシガーを対象とした。主流煙捕集の喫煙法は、紙巻たばこ外箱表示に採用されているISO法とヒトの喫煙行動に近いHCI法の2種類を採用した。リトルシガーと紙巻たばこの主流煙は、自動喫煙装置に設置したガラス繊維フィルターに捕集し、振とう抽出後、GC/FIDへ供しニコチンの分析を行った。一酸化炭素、TSNAsに関してもWHO TobLabNetが定めた標準作業手順書に基づいて分析を行った。【結果及び考察】ISO法で捕集した主流煙のニコチン量(mg/cigarette)は、紙巻たばこのechoとわかばが0.96と1.33となり、リトルシガーのechoとわかばが1.08と1.53となった。リトルシガーで上昇しているのが一酸化炭素(mg/cigarette)で、echoが13.2から18.3、わかばが16.4から24.5へ上昇していた。一方で、たばこ特異的ニトロソアミン(TSNAs)は低減されていた。リトルシガーの喫煙者は、紙巻たばこと同様の喫煙行動となると予想される。ヒトの喫煙行動に近いHCI法で捕集した主流煙の化学物質量は、ISO法より高くなることも確認された。リトルシガーが安価なたばこ製品としての定着によって、たばこ対策が後退することが懸念される。また、リトルシガーはタール量も高いことから、燃焼によって発生する多環芳香族炭化水素、カルボニル類、揮発性有機化合物の分析を継続的に進めていく計画である。
著者
戸次 加奈江 浅見 真理 欅田 尚樹 児玉 知子
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.262-272, 2021

<p>「持続可能な開発目標 3 」(SDG3)では,保健医療分野に関する評価・モニタリング指標の提示が求められている.本研究では,生活環境関連分野における指標の定義を確認するとともに,一般環境から労働環境までを対象に,WHO報告書から環境リスクが指摘される化合物及び物理的因子に関する国内の文献レビューを行った.</p><p>その結果,室内寒暖差と死亡率との関連性や,準揮発性有機化合物(SVOC)の室内濃度や湿度環境とアレルギー疾患との関連性,大気中の微小粒子状物質と呼吸器・循環器系疾患との関連性が示唆された.また,指標3.9.2「安全ではない水,安全ではない公衆衛生及び衛生知識による死亡」はTier Iであるが,過去30年間の国内水質事故事例の情報収集等をもとにした水系感染症死亡事例による推計値は,国連指定のコーディングによる報告値よりも極めて低く,WHOのWASH定義疾病コードが開発国の状況を基にした定義となっていることが示唆された.</p>
著者
戸次 加奈江 稲葉 洋平 内山 茂久 欅田 尚樹
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 = Journal of the National Institute of Public Health (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.460-468, 2015-10

2005年,世界保健機関(WHO)はたばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(WHO Framework Convention on Tobacco Control; WHO FCTC)を発効し,本条約により締約国は,たばこ消費の削減に向けた広告・販売への規制や密輸対策をはじめ,たばこによる健康被害防止のためのヘルスコミュニケーションの実施が要求されている.「第11条:たばこ製品の包装及びラベル」では,締約国に対して,喫煙を主な要因とする疾病の警告表示の義務付けや,各国でのたばこ政策の実施へ向けた国内法制定のための実践的な支援対策としてMPOWER政策が提示されている.こうしたFCTCの発効により,各国でのたばこ対策は飛躍的に進められ,2010年には,画像警告ラベルの表示を実施する国が34ヶ国であったのに対し,2015年には77 ヶ国までにも増加し,その他,禁煙者の増加を目的に実施される,包装上に禁煙電話相談サービス(クイットライン)の連絡先を表示する対策や,たばこ製品特有の色使い・画像・マークなどの使用が禁じられた「プレーンパッケージ」の導入により,オーストラリアでは喫煙率が2010年から2013年の間に15.1%から12.8%に減少するなど,たばこ対策の実施による着実な効果が伺える.一方,日本国内の喫煙率は,今現在も他の先進国と比較して非常に高い水準にあり,喫煙による有害性が社会的にも広く認識されているアメリカやカナダ等の先進国と比較すると大きな差が生じている.また,日本国内では,FCTCに対応すべく「たばこ事業法施行規則」による警告表示,規制が定められているものの,それらはFCTCで求められる最低限の条件を満たすのみである.この様に,他国と比べてもFTCT第11条に関連した日本国内のたばこ対策は大きな遅れを取っている状況にある.これらのことから,今後,わが国のFCTCに基づいたたばこ対策による喫煙率低下へ向けた効果,また社会的影響等について国際的なたばこ対策の動向を踏まえた総合的な見直しを行い,将来的なたばこ対策全体の方向性を示す必要がある.
著者
戸次 加奈江 稲葉 洋平 欅田 尚樹
出版者
一般社団法人日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.24-32, 2015
被引用文献数
2

The World Health Organization (WHO) Framework Convention on Tobacco Control (FCTC) requires member countries to implement measures aimed at reducing the demand for tobacco products. FCTC article 11 describes the important forms of health communication and packaging regulations. And this article recommends on large pictorial health warnings and encourages more effective forms of disclosure on constituents and emissions. Furthermore, article 11 recognizes the importance of the package as a promotional vehicle for tobacco companies and requires the removal of potentially misleading packaging information, including the terms "light" and "mild." The Conference of the Parties (COP) adopted guidelines for implementation of article 11 on "Packaging and labelling of Tobacco Products". Some countries, such as Canada, the U.S.A., Australia, EU countries etc. positively promoted tobacco control by implementing countermeasures such as the graphic health warning labels and plain packages. These countermeasures showed the significant effects of decreasing smoking rate and preventing smoking initiation in young people. Furthermore, these warning labels were effective for the literally challenged. However, the Japanese government has not implemented these countermeasures, and only limited texts are shown on Japanese tobacco packaging. Therefore, Japan should emulate approaches taken by other countries, and promote the tobacco control policy in accordance with FCTC.
著者
戸次 加奈江 稲葉 洋平 牛山 明
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.138-143, 2020-05-29 (Released:2020-06-27)
参考文献数
24

喫煙による健康被害は,有害成分を含む喫煙者本人の主流煙による一次喫煙をはじめ,喫煙時に発生する副流煙や喫煙者が吐き出す呼気中のたばこ煙(呼出煙)による受動喫煙(second-hand smoke),そして洋服や部屋に吸着したたばこ煙(残留たばこ煙)による三次喫煙(third-hand smoke)が知られている.特に三次喫煙については,受動喫煙と比べると一般的な認知度は低く,その有害性についても現時点で人への有害性は立証されていないものの,室内に吸着する残留たばこ煙には,揮発性が高く悪臭を伴うピリジン類をはじめ,揮発性の低いニコチンやたばこ特異的ニトロソアミン類(TSNAs)等多岐に渡る成分が含まれている.三次喫煙は,室内におけるこうした成分に,空気やハウスダストを介して非意図的に曝露を受けることであり,受動喫煙と同様,特に感受性の高い乳幼児や幼児期の子供への健康影響には注意を払う必要がある.我が国で2020年 4 月 1 日から全面施行された改正健康増進法の中では,受動喫煙対策の強化が主な目的にもされていることから,今後,室内での喫煙機会は大幅に減少していくものと推定される.しかしながら,喫煙可能な場所も未だ半数以上を占めており,これまでの実証実験による報告からも,従来の喫煙場所を禁煙区域に変更するだけでは,残留たばこ煙による三次喫煙の影響を完全に除くことは困難である.さらに,近年普及する新型たばこにおける健康影響や環境汚染への影響については未解明の問題も多く残されていることから,喫煙による室内汚染問題への対応として,今後は,長年の課題である受動喫煙をはじめ,三次喫煙も含めた微量なたばこ煙成分に対する高性能な分析技術と生物学的な影響評価手法を確立することで,喫煙の有害性に関する基礎的な情報を得る必要がある.さらに,短期及び長期に亘る実際の人への健康影響を明らかにしていく上でも公衆衛生分野における継続した疫学的調査研究の実施が必要である.
著者
戸次 加奈江
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1263, 2014

アリール炭化水素受容体(AhR)は,環境汚染物質であるダイオキシン類や多環芳香族炭化水素類の受容体として働く転写因子である.AhRがリガンドと結合して活性化すると核内に移行し,そこでAhR nuclear translocator(ARNT)と結合する.このダイマーは異物応答配列(XRE)と呼ばれる特定の塩基配列に結合することにより,薬物代謝酵素CYP1A1をはじめとする様々な標的遺伝子の発現を誘導する.一方で,このようなAhRの反応経路(古典的経路)以外に,AhRの転写因子としての機能やARNTに依存しない,nongenomic pathwayと呼ばれる毒性経路の存在がMatsumuraによって示された.このAhRの反応経路では,炎症反応にかかわる様々な細胞内誘導される.このため,従来の古典的経路とは異なるnongenomic pathwayを介した新しいAhRの役割が明らかになってきた.さらに興味深いことに,培養細胞を用いた検討から,古典的経路の指標であるCYP1A1の誘導は曝露数時間後に減少してしまうのに対し,nongenomic pathwayに由来するCOX2等の誘導は72時間後でも増加しており,反応性の違いが見られている.したがって,nongenomic pathwayを介したAhRによる初期のシグナルが,持続的なシグナルに変換され,慢性的な炎症反応につながる可能性も示唆されている.<br>なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.<br>1) Matsumura F., <i>Biochem. Pharmacol</i>., 77, 608-626 (2009).<br>2) Dong B., Matsumura F., <i>Mol. Endocrinol</i>., 23, 549-558 (2009).<br>3) Vogel C. F. A. <i>et al</i>., <i>J. Biol. Chem</i>., 289, 1866-1875 (2014).<br>4) Fujisawa Y. <i>et al</i>., <i>Biol. Chem. Soc</i>., 392, 897-908 (2011).
著者
稲葉 洋平 内山 茂久 戸次 加奈江 欅田 尚樹
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.448-459, 2015-10

我が国は「たばこ規制枠組み条約(FCTC)」を批准し,「受動喫煙」「禁煙支援」などのたばこ対策は推進しているものの,「たばこ製品の規制」に関するたばこ対策は実行されていない.さらにここ数年間でメンソールカプセルを封入した紙巻きたばこ,無煙たばこ,電子器具を使用する「Ploom」,「iQOS」などの新規たばこ製品さらには電子タバコが販売されるなど,喫煙者を取り巻く環境が大きく変化しており,最近の調査では,禁煙の意思の低下が報告されるようになった.FCTC第 9 ,10条「たばこ製品の規制・情報開示」の実行は,たばこ製品の「毒性」,「依存性」,「魅惑性」を低下させ,喫煙者がたばこ製品の有害性を知る機会を増加させ,最終的に禁煙を選択することへの行動変容が期待される.さらに,たばこ対策を推進するための科学的根拠の蓄積がされる.これまで我々は,これを目的としてWHOたばこ研究室ネットワークとたばこ製品評価の標準化を行い,国産たばこ銘柄の各種有害化学物質の分析,日本人喫煙者の喫煙行動調査を実施してきた.その結果,我が国のたばこ製品は,海外産たばこ銘柄と比較すると有害化学物質の低減の余地があり,依存性,魅惑性の低下が求められた.日本人喫煙者は低タール・低ニコチンたばこの喫煙に伴う代償性補償喫煙行動によりたばこ煙曝露量が上昇することが確認された.今後,FCTC第9,10条に基づいたたばこ製品の調査を継続しつつも,早急なたばこ製品規制が求められる.
著者
吉田 勤 内山 茂久 武口 裕 宮本 啓二 宮田 淳 戸次 加奈江 稲葉 洋平 中込 秀樹 欅田 尚樹
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.55-63, 2015-01-05 (Released:2015-01-31)
参考文献数
14

Gaseous chemical compounds such as carbonyls, volatile organic compounds (VOC), acid gases, basic gases, and ozone were measured in indoor and outdoor air of 40 houses throughout Sapporo city in the winter (January to March, 2012 and 2013) and summer (July to September, 2012) using four kinds of diffusive samplers. Almost all compounds in indoor air were present at higher levels in the summer than in the winter. The indoor concentrations of acetaldehyde and p-dichlorobenzene exceeded the Health, Labour and Welfare, Japan guideline in three and two houses, respectively. The mean concentrations of formaldehyde were 27 μg m−3 in the summer and 17 μg m−3 in the winter, and showed that the summer concentration was 1.6-fold higher than that in the winter. Nitrogen dioxide was present in extremely high concentrations in the winter, and it was suggested that the sources of nitrogen dioxide in indoor air are kerosene heaters, unvented gas stoves and heaters. Formic acid was generated by combustion because the nitrogen dioxide concentration in indoor air was well correlated with the formic acid concentration (correlation coefficient = 0.947). In outdoor air, the negative correlation between nitrogen dioxide and ozone was observed during the winter. It was suggested that the reaction of nitric oxide and ozone may influence the formation of nitrogen dioxide.