- 著者
-
戸次 加奈江
山口 一郎
- 出版者
- 国立保健医療科学院
- 雑誌
- 保健医療科学 (ISSN:13476459)
- 巻号頁・発行日
- vol.72, no.3, pp.186-190, 2023-08-31 (Released:2023-09-21)
- 参考文献数
- 10
利便性の高い豊かな生活へとライフスタイルが変化し続ける中,生活用品や住環境において,未規制の化合物の利用が増加していることや,原子力発電所の事故による放射性物質の環境への放出,5Gシステムの普及など電波による健康リスク,細菌やウイルスによる食中毒事故の発生など,我々は多くのハザードと隣り合わせにありながら日々生活している状況にある.また近年,有害性の高い既知物質の使用が禁止または規制を受ける一方で,大気汚染や異常気象に絡んだ自然災害,新型コロナウイルス感染症など,これまで想定されていなかった多様なリスクが身の回りに存在している.このようなリスク因子の主な疾病への寄与は,世界保健機関によりDALY(障害調整生存年数)を指標に示されており,さらに疾病予防の指標となる環境リスクが提示されているが,これらに対し,我が国ではレギュラトリーサイエンスの理念のもと,環境調査による科学的知見に基づくリスク評価や,人を対象とした環境疫学調査,さらに規制・施策の実施による安全管理の取組がより一層必要とされているところである.さらに,世の中の環境リスクは,産業や工業活動などの人為由来のものから,地震や火山の噴火などの自然災害,さらには,越境汚染や海洋汚染などによる国境をまたいだ問題に至るまで,時代と共に,複雑かつ不確実性を持ち合わせた対応困難な問題も次々と浮上している.そのため,日本は,これまでの自然災害への対応などの経験と共に,先進国として国際的な共通認識の中で,環境リスク低減に向けた対策に貢献していく必要があり,将来的な課題解決に対応していく上では,化学,物理学,生物学,医学など自然科学だけでなく社会科学も含めた分野横断的な研究の推進と,産学官の専門家による連携がますます必要になるであろう.