著者
山田 明子 玉置 幸雄 久永 豊 石川 博之
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic Waves. Japanese edition = 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13490303)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.85-94, 2004-06-25
参考文献数
25
被引用文献数
3

骨格性下顎前突症の患者に適用される外科的矯正治療では,下顎枝矢状分割術と上下顎移動術の2つの術式が多用されているが,術後の軟組織側貌を予測するためには,両術式による硬組織変化が軟組織変化に与える影響や,術式間の相違を把握することが重要である.そこで本研究では,骨格性下顎前突症と診断され外科的矯正治療を適用した女子50症例を対象として,下顎枝矢状分割術と上下顎移動術を施行したそれぞれ25症例について,歯槽性および骨格性の変化と軟組織変化との相関性を比較検討した.その結果,両群ともに顎関係の変化が大きいほどNasolabial angleが増加し,また下唇最深点が後退する関係が認められた.さらに,上下顎移動群では,Interincisal angleの減少にともない上唇点が前方へ,下唇点および下唇最深点が後退する関係が認められた.上下顎移動群では骨格性および歯槽性変化の双方において軟組織変化との有意な相関が認められたが,下顎枝矢状分割群では骨格性変化にのみ軟組織変化との有意な相関が認められた.これについては,下顎枝矢状分割群では上下顎移動群よりも下顎骨の後方移動に伴い下顎骨に付着する筋肉や軟組織にかかる緊張が大きくなりやすく,骨格性変化が歯槽性変化よりも軟組織変化に大きく影響するためと考えられた.以上から,下顎枝矢状分割術単独を施行する場合と上下顎移動術を行う場合では,術前矯正治療による前歯歯軸傾斜の変化が治療後の顔貌に与える影響が異なっており,この点を考慮した上で治療計画を立案する必要のあることが示唆された.(Orthod Waves-Jpn Ed 63(2):85~94,2004)