著者
佐原 眞 小池 裕子 松井 章 西本 豊弘 中野 益男
出版者
奈良国立文化財研究所
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

1982年以来,我々は原始・古代遺物に遺存する残存脂質の試行的研究を開始して,上器・石器の用途の解明,墓の認定を行い,原始古代の環境を復原するための「残存脂質分析法」を開発した。しかし,脂肪酸とステロ-ルを中心とした分析のみでは方法が確立したとはいい難い。そこで,現生資料の脂肪酸およびステロ-ルの組成に関するデ-タベ-スを作成するとともに,新たに免疫学的な方法を導入して動植物種を精密に特定して,原始古代の衣・食・住の生活復原の精度を高めるための基礎研究を行った。その結果,次の事が明らかにされた。1.肪肪酸とステロ-ルの化学組成による石器の用途の解明馬場壇A遺跡・富沢遺跡(旧石器時代)から出土した石器の用途を現生資料の脂肪酸・ステロ-ル組成を集積したデ-タベ-スから解明した。2.糞石による縄文人の食生活の栄養化学的評的価里浜貝塚・鳥浜遺跡(縄文時代前期)等9遺跡から出土した糞石の残存脂質から縄文人の摂った食物を明らかにした。主要な食事メニュ-は13種類あり,木の実,魚介類,海獣,鳥獣を組合せたバラエティ-に富む食物を摂っていた。一日約2250Kcal(9980kJ)と理想的なエネルギ-を摂り,糖質,たんぱく質,脂肪のバランスも良く,p,Ca,Fe等の無機成分やビタミンB^1・B^2も豊富で栄養化学的にも現代人が目標にしている値に近く,縄沢人の健康的な食生活がうかがえた。3.酵素抗体法(ELISA法)による土器棺と胞衣壺の同定原川遺跡(弥生時代中期)の土器棺,田篠中原遺跡(縄文時代中期末)・平城京右京三条三坊一坪(古墳時代前期)等縄文から近世までの6遺跡から出土した胞衣壺と推定される埋設土器を免疫手法のELISA法を用いて調べた。ヒト胎盤特有の糖鎖を持った古代糖脂質が検出されることから,埋設土器は土器棺と胞衣壺と認定された。

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@sayakatake RT書いている間に入ってきた後ツイを読んで、深い知識をお持ちなことが判りました。今日はちょっと突っかかりぎみで済みません。縄文も諸説あるのでしょうが、http://t.co/7H9g6hbb なら信頼できるかと。

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