著者
長谷川 敦章
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

昨年度の研究活動において,北レヴァントの海岸部であるシリア・アラブ共和国ラタキア県における遺跡踏査および測量調査を行った。これにより本研究の目的の一つである,調査対象が地中海沿岸の大規模テル型遺跡への偏重の是正を試みた。本年度の研究では,この成果を周辺地域と比較し位置づけていく調査・研究を実施した。特に本研究のねらいの一つである,先行研究で疎かにされてきた,内陸地域との関係に焦点をあてるため,以下の3地域で調査を行った。その一つは,ラタキア県の東に隣接する,北レヴァントの内陸部であるシリア・アラブ共和国イドリブ県のエル・ルージュ盆地である。当該地域では,テル・エル・ケルク1号丘遺跡の発掘調査を行った。本調査では,ラタキア県,ひいては該期の東地中海世界に極めて特徴的なミケーネ土器が出土した。この事例は内陸地域では極めて珍しく,ミケーネ土器の東限域を示す可能性がある。またこの成果は,これまで東地中海世界と隔離されて考えられがちであった北レヴァント内陸地域の歴史的位置づけに再考を促すものである。第2の調査は,ラタキア県の北側に位置するトルコ共和国アンタキア県における考古学的踏査である。この地域は北レヴァントを南北に流れるオロンテス川下流域であり,ラタキア県と比較する上で重要な資料を得ることができた。第3の調査は,ユーフラテス中流域に位置するテル・ガーネム・アル・アリ遺跡である。当該遺跡周辺は考古学的調査の空白地域であり,その成果は極めて貴重である。メソポタミア地域の西端にあたり,北レヴァントに影響を与えたメソポタミアの文化を考える上での一つのケーススタディになると考えている。東地中海世界に果たした北レヴァントの歴史的意義について再考するためには,上述した地域での成果を詳細に分析し,北レヴァントの歴史的重要性を内陸地域との関係性で捉え直し,歴史の再構成を試みる必要がある。

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こんな研究ありました:古代東地中海世界に果たした北レヴァント文化の歴史的意義(長谷川 敦章) http://t.co/GyU6h0kG

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