著者
大和 毅彦
出版者
東京都立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

所有権が明確に定義されていないため共有地の資源が過剰に利用された結果,さまざまな社会的損失が生じる問題は「共有地の悲劇」と呼ばれる.本研究では,この重要な問題を解決するための社会制度・メカニズムの設計に関する理論的分析とパソコンを使用してのシミュレーション分析を行った.共有地の悲劇が起こっている経済において,問題解決を目指す制度・メカニズムが自発的に生まれてくる可能性について吟味した.いま,湖に面している漁村を考えよう.労働に関して収穫逓減の場合には,漁村の各漁師が非協力的に行動するナッシュ均衡での総労働投入量はパレート最適な水準よりも大きくなり,漁が過剰に捕獲され共有地の悲劇が起こる.しかし,漁師間で十分なコミュニケーションが可能であれば,協力が生まれ,共有地の悲劇を回避できる余地はないのであろうか,いま,あるグループに属する漁師の間で話し合いが行われて,彼らの総所得を最大にするように彼らの総労働投入量を決定し、捕獲された魚の総量は彼らの間で再分配するような提携が結ばれたとする.外部性が存在するために,提携を形成することによって獲得可能な利得は,提携のメンバー以外の漁師の行動・協力関係に大きく依存する.提携を形成することにより,外部のメンバーがいかなる提携を形成するかについて,各提携が慎重な悲観的予想をしている場合には,コアが存在することを示した.つまり,いかなる提携によっても拒否されず,いかなる提携を考えても,その提携の力だけでは改善不可能な配分が存在する.よって,自由な交渉が可能ならば,パレート最適性が達成され共有地の悲劇を回避できるのである.しかし,この結果は提携構造に関する予測に依存し,外部のメンバーがいかなる提携を形成するかについて,各提携が楽観的予想をしている場合には,コアは存在しない.

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