著者
西條 辰義 大和 毅彦 芹澤 成弘 青柳 真樹
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

理論構築と共に実験・調査などを通じて実際の使用に耐える制度の設計を目指すのが「制度設計工学」である.新たな制度設計の枠組みとして,セキュア遂行概念を提案している.従来の制度設計の理論においては,人々の取る行動原理は理論研究者が選ぶ.一方,支配戦略の存在する制度においてたとえナッシュ型の行動を取るとしても,社会の目標を達成することが可能であることを保証するのがセキュア遂行である.公共財供給における制度設計の代表例であるピボタル・メカニズムはセキュアではない.これを実験室において確認すると,セキュアなメカニズムとセキュアでないメカニズム(たとえばピボタル・メカニズム)ではパフォーマンスに顕著な差があることを発見している.従来の利己的個人の枠組みにとらわれず,「日本人はいじわるがお好き?」プロジェクトもこの研究の一環である.公共財の非排除性を満たす環境では,人々が自発的にメカニズムには参加するインセンティブを付与するのは不可能であるという理論結果に基づき,その環境で被験者実験をしたところ,自己が損をしてまで相手の足を引っ張るというスパイト行動を発見した.この行動は,中国,アメリカの被験者と比して,日本人のほうが取りやすいことも発見している.さらには,fMRIを用い,被験者の脳活動を観測することによって,被験者の脳がスパイト行動には反応しにくいものの,利他的な行動には反応しやすいことも発見している.この研究は,日本における最初ニューロエコノミックスの研究だと思われる.さらには,スパイト動機がヒトの行動の根本的な原理であるという予想の検証を開始している.温暖化対策の制度設計を例にとり,実際に被験者の意識調査も実施している.上海における調査では,年齢の高い人々ほど環境意識が高いという従来とは異なる結果を得ている.さらには,繰り返しゲームにおいてどのような戦略のもとで協力の創発が起こるのか関わる理論および実験研究も実施している.
著者
大和 毅彦
出版者
滋賀大学経済学会
雑誌
彦根論叢 (ISSN:03875989)
巻号頁・発行日
no.357, pp.47-65, 2006-01
著者
西條 辰義 大和 毅彦
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

公共財の存在する経済においては公共財の提供するサービスにただ乗りをする主体が発生するため,パレート効率な配分を達成するのは容易でない.ところが,1977年にグロブズとレッジャードは,彼らのデザインしたメカニズムにおけるナッシュ均衡配分がパレート効率になることを示した.この研究は経済学における70年代の最も輝かしい成果のひとつであった.この後,グロブズ=レッジャード・メカニズムよりも性能のよいメカニズムが数多く開発された.グロブズ=レッジャード以降の研究においては,各主体がメカニズムに参加することを暗黙のうちに仮定していた.しかし,たとえば地球温暖化防止京都議定書のように,議定書には署名はしても批准はしない(メカニズムそのものは認めてもそれには参加しない),という国々が出現している.この問題は地球温暖化防止や平和という国際公共財供給などの国際条約における共通の問題である.我々は,上述のメカニズムに参加するかどうかも戦略変数にとりいれ,理論モデルの構築を行ってきた.残念ながら,すべての主体が参加するようなメカニズムをデザインすることは不可能であるという基本的な不可能性定理を証明している.このことを検証するために実験室にてさまざまな実験を実施した.日本における実験では,参加をせずにフリーライドをする主体を参加者がパニッシュするという行為を通じて,自分の利得が下がるのにも関わらず,ほぼすべての主体が参加するということを観察している.一方,アメリカにおける実験では,進化論的に安定的な均衡という理論の予測どおりに被験者が行動している.この極端に異なる実験結果の分析は今後の課題となろう.
著者
西條 辰義 下村 研一 蒲島 郁夫 大和 毅彦 竹村 和久 亀田 達也 山岸 俊男 巌佐 庸 船木 由紀彦 清水 和巳
出版者
高知工科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007-07-25

特定領域「実験社会科学」の研究者のほとんどがその研究成果を英文の学術雑誌に掲載するというスタイルを取っていることに鑑み, 社会科学の各分野を超えた領域形成が日本で始まり, 広がっていることを他の日本人研究者, 院生などに伝えるため, 和書のシリーズを企画し, 勁草書房の編集者と多くの会合をもち『フロンティア実験社会科学』の準備を実施した. 特定領域におけるステアリングコミッティーのメンバーと会合を開催し, 各班の内部のみならず, 各班の連携という新たな共同作業をすすめた. 方針として, (1)英文論文をそのまま日本語訳するというスタイルは取らない. (2)日本人研究者を含めて, 高校生, 大学初年級の読者が興味を持ち, この分野に参入したいと思うことを目標とする. (3)第一巻はすべての巻を展望する入門書とし, 継続巻は各班を中心とするやや専門性の高いものにする. この方針のもと, 第一巻『実験が切り開く21世紀の社会科学』の作成に注力した. 第一巻では, 社会科学の各分野が実験を通じてどのようにつながるのか, 実験を通じて新たな社会科学がどのように形成されようとしているのかに加えて, 数多くの異分野を繋ぐタイプの実験研究を紹介した. この巻はすでに2014年春に出版されている. 継続の巻も巻ごとで差はあるものの, 多くの巻で近年中に出版の見込みがついた. さらには, 特定領域成果報告書とりまとめを業務委託し, こちらも順調にとりまとめが進んだ. 以上のように本研究は当初の目標を達成した.

1 0 0 0 IR 協力の創発

著者
Cason Timothy N. 西條 辰義 大和 毅彦 横谷 好
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.97-103, 1998-04

小特集 : 社会規範と進化についてのコンファレンス
著者
大和 毅彦
出版者
東京都立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

所有権が明確に定義されていないため共有地の資源が過剰に利用された結果,さまざまな社会的損失が生じる問題は「共有地の悲劇」と呼ばれる.本研究では,この重要な問題を解決するための社会制度・メカニズムの設計に関する理論的分析とパソコンを使用してのシミュレーション分析を行った.共有地の悲劇が起こっている経済において,問題解決を目指す制度・メカニズムが自発的に生まれてくる可能性について吟味した.いま,湖に面している漁村を考えよう.労働に関して収穫逓減の場合には,漁村の各漁師が非協力的に行動するナッシュ均衡での総労働投入量はパレート最適な水準よりも大きくなり,漁が過剰に捕獲され共有地の悲劇が起こる.しかし,漁師間で十分なコミュニケーションが可能であれば,協力が生まれ,共有地の悲劇を回避できる余地はないのであろうか,いま,あるグループに属する漁師の間で話し合いが行われて,彼らの総所得を最大にするように彼らの総労働投入量を決定し、捕獲された魚の総量は彼らの間で再分配するような提携が結ばれたとする.外部性が存在するために,提携を形成することによって獲得可能な利得は,提携のメンバー以外の漁師の行動・協力関係に大きく依存する.提携を形成することにより,外部のメンバーがいかなる提携を形成するかについて,各提携が慎重な悲観的予想をしている場合には,コアが存在することを示した.つまり,いかなる提携によっても拒否されず,いかなる提携を考えても,その提携の力だけでは改善不可能な配分が存在する.よって,自由な交渉が可能ならば,パレート最適性が達成され共有地の悲劇を回避できるのである.しかし,この結果は提携構造に関する予測に依存し,外部のメンバーがいかなる提携を形成するかについて,各提携が楽観的予想をしている場合には,コアは存在しない.
著者
清水 和巳 大和 毅彦 瀋 俊毅 芹澤 成弘 大和 毅彦 渡部 幹 清水 和巳 渡部 幹
出版者
早稲田大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

「社会関係資本の機能と創出」に関して主要な成果を概略的に記す。1. 社会関係資本の尺度として従来、General Social Survey (GSS)のネットワークに関する項目が使用されていたが、この尺度が人々の信頼・協力行動を予測しうるとは言えない。われわれは、ある社会の社会関係資本の水準を測るには、上記のようなデモグラフィックデータだけではなく、実際の行動実験における信頼・協力行動のデータをとり、その二つの関係をしなくてはならないことを示した。例えば、中国の経済発展状況が異なる様々な都市で、公共財実験・信頼ゲーム実験などを行った結果、被験者の信頼・協調が性別や年齢だけではなく、協力行動の有無、リスクや公平に対する選好、他人への期待に影響されることがわかった。2. 信頼に基づく人間の協力行動の生化学的な基礎としてミクログリアが重要あることが示唆された。実験において被験者に脳内免疫細胞であるミクログリアの活性を抑えるミノサイクリンという抗生物質を投与し,他者への信頼が重要となる経済取引実験を行ってもらい,偽薬群と比較したところ,実薬投与群は他者の信頼性判断により敏感になることがわかった。特に、ミクログリアの活性は盲目的な信頼を抑制し、きちんとした判断に基づいた信頼。居力高校を促進する可能性があることが示唆された。3. 囚人のジレンマ・鹿狩りゲームはそれぞれ、協力・協調の失敗を引き起こす状況として広く知られている。われわれは、これらのゲームを繰り返し行う状況下で協力・協調を導くと期待できる三つの仕組み(device)、すなわち、(1)協力・協調の難易度の段階的変化、(2)変化の内生性、(3)目標値の調整、について理論・実験により考察した。その結果、この仕組みが一種の社会関係資本として機能し、人々の協調・協力を促すことが確認された。これらの仕組みは、匿名性の高い現代社会において解決が難しいジレンマ、また、権力の干渉の余地の小さい国家間の問題や個人裁量の範囲内の問題にも適用可能と考えられ、それゆえ外的妥当性が高く、応用範囲も広いと考えられる。