著者
藤井 勝
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

1. 日本の伝統的家族理念は、近世の家の理念に求められる。近世の家は家父長制的ではあるが、成員の対等性と和の理念によって支えられた。また公的役割を果たすべき存在として家は理念化されたが、それは永続性の希求という理念を強化した。近世の身分層ごとに家の理念は多様性でありつつも共通の特質をもった。町人層さえも家の理念を発展させたことは、近代以降の産業化・近代化にとって重要な意味をもった。さらに家の理念は、祖先信仰からも儒教倫理から適合的な思想や価値観を提供された。2. 近世の家の理念は近代に引き継がれた。「日本的」なシステムは、明治以降の近代化のなかで解体されたのではなく、むしろ継承・再編されたからである。たとえば近代の儒教はかなり硬直的・統制的となって家の変容を生み出すが、それも近代の政治経済的展開への適応的な再編であった。そして戦後の高度成長期にさえ、「日本型企業社会」のなかに再編された。現代こそ、「日本的」システムの、また家の理念の大きな変容期である。3. 以上の歴史的前提のもとに、現代社会の家族理念は存在する。第一に、現代の家族理念には、現代的な変容と伝統性の保持とが共存している。成員の情緒的感情的結合を重視する一方で、家族の継承性を求める理念は根強く存在している。都市的地域の祖先祭紀でも、夫婦家族に適合的な祭紀が広がる一方で、伝統的祭紀およびその観念を持続させる契機が孕まれている。伝統的な家族理念の解体による「現代家族」的理念の確立という直線的過程を、調査データからは展望できない。第二に、農村では過疎化要因が家族理念に影響を与えている。そのため農村は都市と比較して遅れている、あるいは伝統的な文化的・社会的特質をもつという一般的な仮説は必ずしも適用できない。親子居住をめぐる理念と実態の関係をみても、農村地域では親子同居についての家的理念があるにもかかわらず、結果としては高齢者夫婦(単身)世帯が増加し、そこに独特の家族理念が生ずるという現状がある。

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