著者
渡邉 慶
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

計画初年度および2年度の研究の結果、ニューロン活動記録実験(本実験)に用いる行動課題として、Dual task paradigm(二重課題法)と呼ばれる刺激提示方法を用いることが本研究の目的に最も適していることが明らかになった。二重課題とは、被験者に同時に二種類の異なる課題を行わせる実験手法である。この時、二重課題を構成するそれぞれの課題の正答率は、個々の課題を単独で課した場合の正答率より低下することが、二重課題干渉(Dual task interference)として知られている。本研究で用いた二重課題では、サルに、視野内の異なる場所に配置されたリング状の視覚刺激の輝度の微細な変化を検出(注意課題)させる傍らで、視野内の5カ所の内のいずれかに提示される別の視覚刺激(正方形の一様光ディスク刺激)の場所を記憶させる(短期記憶課題)という二種類の課題を同時に課した。行動データ解析の結果、2頭のサルにおいて、二重課題干渉が起こることが示された。即ち、両課題を同時に行った二重課題場面における各課題の正答率が、注意課題と短期記憶課題を別個に行った場合の正答率に比べて、顕著に低下した。更に、サル前頭連合野から単一ニューロン活動を記録・解析した結果、2頭のサル両者において、前頭連合野のニューロン活動が二重課題干渉を示すことが明らかになった。即ち、短期記憶課題を単独で課した場合に記録された記憶関連活動が、同一の課題が二重課題の一部として行われた場合には、顕著に減衰することが示された。更に、二重課題場面における記憶関連ニューロン活動の減衰の大きさは、行動レベルで観察された二重課題干渉の大きさと相関していることが示された。従って、行動レベルで観察された二重課題干渉という現象は、前頭連合野の単一ニューロンの挙動によって説明されることが示された。本研究の結果は、多くの心理現象の説明に幅広く用いられてきた「認知資源」という心理学的概念に、神経科学の立場から直接的な証拠を提示するという意義を持つ。

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こんな研究ありました:前頭連合野の神経活動と視覚的意識の関係(渡邉 慶) http://t.co/S7bu0qSb

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