著者
吉村 あき子
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

「メタ言語否定」は、命題の真理条件的内容を否定する「記述否定」とは異なり、先行発話の持つ様々な要因(前提、慣習含意や会話の含意、形態、スタイル、発音など)に基づいて、その先行発話に異議を唱えるものであり、否定は語用論的に多義的であるとHorn(1985,1989,2000^2)は主張する。本研究はメタ言語否定の全体像を明らかにすることを目標に、メタ言語否定の否定対象に対する統一的規定、メタ言語否定の現象から明らかになる自然言語の否定辞の意味、さらに、個別言語としての日本語におけるメタ言語否定の特徴を明らかにした。メタ言語否定の否定対象は、上記のように非常に多様である。しかしメタ言語否定という現象が自然類をなすのであれば、その対象に対して統一的規定が可能であるはずだという考えに基づき、発話の認知処理プロセスという視点から、メタ言語否定の否定対象は、エコーの元になるものによって必然的にあるいは一般的に伴われるが伝達されないもの、と規定できることを示した。自然言語の否定辞のコード化された意味について、Horn(1985,1989,2000^2)はグライスの精神とメタ言語否定/記述否定という現実に存在する使用の区別(語用論的多義性)の間のジレンマに苦しみ、Carston(1996,1998a, b,2002)の、否定辞の意味はメタ言語否定を含むどのような否定辞の例も真理関数演算子であるという主張も、本来の定義に沿うと矛盾を生じる。メタ言語否定の現象の詳細な観察分析から、自然言語の否定辞は、論理学において定義される真理関数演算子を超えた非常にgeneralな「異議を唱える」機能を持つものであると分析しなければ解決しないことを示した。さらに、日本語のメタ言語否定を観察することによって、日本語には「の」を伴う「〜のではない」のような、述語を含むレベルの帰属的な(帰属元を持つ)メタ表示の否定であることをマークする表現形式があること、このことによって通常の否定形式が用いられた場合に伴われるニュアンス/効果が説明できることを示した。

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