- 著者
-
松村 博文
- 出版者
- 札幌医科大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2002
本研究の目的は、東南アジアの人々と縄文人の起源と成り立ちを、古人骨の歯と頭骨の形態学的研究により明らかにするものである。この問題では、新石器時代以降の中国からの北方アジア系集団の拡散により、先住のオーストラロ・メラネシア系集団と混血し、現代東南アジア人に至ったとする「混血モデル」と、東南アジアにはもとよりいわゆる古アジア系集団が居住しており、現代に至るまで遺伝的に連続しているという「地域進化モデル」が提唱されている。これらの二大仮説のどちらが正しいのかを、形質人類学の立場から検証するための鍵となるのが、一つには歯の形態の解釈である。もう一つの重要なアプローチは、新石器時代以前の古人骨の形態分析であり、その頭骨などの形態がオーストラロ・メラネシア系集団の特徴を持つか否かが鍵となる。本研究による歯の形態学的データの解析からは、混血モデルを強力に支持する結果が得られた。Sundadontと称すべき歯列をもつ集団は、後期旧石器時代のスンダランドに起源をもつオーストラロ・メラネシア系集団と中石器時代の東南アジア先住民に限られ、現代東南アジア人の歯の形態は、後に移住してきたSinodont型歯列をもつ北方アジア人との混血により生じた両者の中間型歯列にすぎないという見方がなされた。現代東南アジア人と類似する歯の形態をもつ縄文人の成り立ちも、同様の解釈がなされた。一方、頭骨形態の分析からも、東南アジアでの新石器時代以前のマレーシアのグアグヌン遺跡、タイのモキュウ人遺跡やベトナムのボアビン文化期の遺跡などから出土している人骨は、オーストラロ・メラネシア系集団と強い類縁関係が示唆された。また新石器時代の東南アジア人や縄文人の頭骨は、これらのオーストラロ・メラネシア系集団と北方アジア系集団の中間的特徴をもっており、両者の混血の初期段階の集団と位置づけられた。