著者
黒田 英一
出版者
宇都宮大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究では、集団就職世代の工場経営者・商店主を対象に聞き取り調査を行った。聞き取り調査結果をまとめると、次のようになる。1 集団就職により大都会に出てきた中卒者のうちわずかしか工場経営者・商店主になることができなかった。それ以外の者は、大都会で転職を重ねて雇われ職人や単純労働者になり、あるいは帰郷卸した者、消息不明などである。2 努力してそれなりに工場経営者・商店主になれたのは、勤務した先の経営者に恵まれたことである。良き「社長」「おやじ」に恵まれて、そこで技能を徹底的に修得させられただけでなく、仕事以外の面でも厳しく躾けられた。3 集団就職世代が厳しい就業環境のなかで習得した技能は、職種や産業によって違いがみられた。小売業のように2,3年で習得できる接客・サービスの技能もあれば、10年近くたってようやく身につく大工や旋盤の技能もあった。4 就職先は住み込みであり、経営者と同じ屋根の下で暮らしたことから、集団就職世代にとって、就職先はもうひとつの家庭となった。生まれ故郷に次ぐ「第2の家庭」であった。5 「一国一城の主」になることができなかったものの、集団就職は中学卒業者にとっては大都会に入ることができる最初の一歩であり、その後の人生の入り口ともなった。こうした研究成果をふまえると、集団就職はよきにつけ悪しきにつけその後の人生のひとつの契機となっており、たまたま艮き経営者に恵まれた者だけが、工場経営者・商店主となって「サクセス・ストーリー」を演じることができたといえる。厳しい競争であっても、大都会は技能を磨けば社会階層を移動できる機会を若年労働者に与えていた公正な社会であった。

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こんな研究ありました:集団就職世代の技能習得に関する基礎研究(黒田 英一) http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/15653029
こんな研究ありました:集団就職世代の技能習得に関する基礎研究(黒田 英一) http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/15653029

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