著者
矢口 直道
出版者
岐阜市立女子短期大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本年度は、調査データの整理と考察に努めた。成果の一部は、『ホイサラ多神格寺院の平面構成』と題した論文にまとめ、鈴木博之・石山修・伊藤毅・山岸常人編、「シリーズ都市・建築・歴史 第2巻 古代社会の崩壊」(東京大学出版会、2005年)の第4章(pp.237-308)として、発表した。ここでは、従前の研究成果に本研究費によって行った2度に渡る現地調査の知見を加えて、ホイサラ朝を中心としてデカン高原の諸ヒンドゥー王朝の寺院を構成する室の形状と配置に着目し、政治的、宗教的背景をふまえて寺院の平面構成を論じた。まず、寺院本殿を構成する各室の平面形態との関連をみることにより,複雑な平面類型の寺院内部の様相を理解することができることを述べた。これに加えて、本研究の課題である宗教建築の左右対称性に関して、寺院にまつられた神格と寺院の入口の位置に着目することによって、主祠堂にいたる軸線に対して対称、非対称を論ずることができると指摘した上で、複数の神格をまつる多神格寺院の平面は、同宗派の神格をまつる寺院では複数の祠堂が対称に配置され、異種の神格をまつる重層信仰寺院では非対称に配置される傾向にあると述べた。具体的には最も吉兆な西方にシヴァ神をまつり、それに準ずる入口正面にヴィシュヌ神をまつることが多く、当時の宗教的背景を勘案すると、シヴァ派の優位を確立しながらヴィシュヌ信仰を取込んだヒエラルキカルな建築表現であると結論づけた。これは成果の一部であるが、このような見地からインド寺院建築を勘案した研究はほとんどなく、複雑な平面形が特徴の一つである中世ヒンドゥー教寺院を理解するため一つの考え方であろうと考える。

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こんな研究ありました:南インド宗教建築の左右対称性に関する研究(矢口 直道) http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/15760482
こんな研究ありました:南インド宗教建築の左右対称性に関する研究(矢口 直道) http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/15760482

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