著者
今村 信隆
出版者
京都造形芸術大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

ミュージアム(特に美術館)における声という問題を扱う本研究では、博物館学はもとより、美学・美術史や美術批評史といった幅広い分野にまたがる資料にあたる必要がある。本年度は、そのなかでも議論の出発点になると考えられる一七世紀フランスの絵画論を中心に精読を行い、問題点の整理を試みた。その結果、次の二点が明らかになってきた。第一に、当時の代表的な絵画理論家であるロジェ・ド・ピールとアンドレ・フェリビアンの対話編のなかで、話者たちの声、話しぶり、会話における洗練度などが、議論の運びそのものにも影響を与えるような重要な要素になっているということである。このうち、ド・ピールについてはすでにある程度の指摘をしたことがあるが、フェリビアンについても同様の指摘が可能であることが判明した。第二に、しかしその一方で、王立絵画彫刻アカデミーにおいて口頭で行われていたはずの「会議」においては、話者の声色や話しぶりといった要素は削減され、あくまでも文書として刊行することが目指されていくというプロセスが、明らかになった。アカデミーにおいては、口頭でのやり取りのなかにあった多様な意見の存在が整理され、批判とそれに対する反証というかたちで、統一の見解がもたらされようとしているのである。このことは、制度としてのアカデミーにも大いに関わる問題であり、同時に、美術作品をみるという制度としても、以後の鑑賞経験の土台になっていく出来事であると考えられる。上記の二点の関係については、現在、まとまった論考を準備しているところである。また、本研究の終着点にあたると思われる20世紀の美術批評史についても、本年度はクレメント・グリーンバーグを中心に再整理を試みた。特に、比喩としての「詩」が議論される個所において、朗読や声が本質的でないものの例示として語られていることが見いだされ、今後の研究の指針が得られたところである。

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17C仏で鑑賞経験の一部として重視されていた会話は、18C以降の鑑賞からは排除され、20C後半まで静かに、孤独に作品と向き合うことが理想とされてきたが、現在は対話型鑑賞をはじめ声が復権している、という論旨。 美術館における声と公共性に関する史的研究 https://t.co/ih3XkKxLWj
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