- 著者
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中瀬 朋夏
- 出版者
- 武庫川女子大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2018-04-01
これまで、本研究課題において、乳がん悪性化進展のプロセスには亜鉛シグナルが重要で、その標的分子のひとつとして低酸素誘導性因子Hypoxia-inducible factor-1 (HIF-1)を明らかにしてきた。本年度は、乳がん細胞の低酸素環境適応能力の発揮における亜鉛イオンの機能的役割と亜鉛イオンを介したHIF-1の制御機構の解明に取り組んだ。低酸素環境条件下におけるエストロゲン受容体陽性ヒト乳がん細胞MCF-7の生存能力は、HIF-1αの活性と強く相関した。そのHIF-1αの活性は、細胞内亜鉛イオン濃度に依存した。さらに、ジンクフィンガードメインを持ち、HIF-1の安定化と機能に密接に関与することが報告されているMetastasis-associated gene‐1 (MTA-1)は、低酸素環境条件下で、HIF-1αの活性化とともに高発現し、その発現量は細胞内亜鉛イオン濃度に比例した。低酸素環境条件下における細胞内亜鉛イオンの供給には、MCF-7の細胞膜ならびに細胞内のオルガネラ膜上に局在する亜鉛トランスポーターの発現比率が重要であることを、亜鉛トランスポーターのノックダウン実験から明らかにした。以上より、MCF-7の低酸素環境適応性には、細胞内亜鉛イオンとその制御分子である亜鉛トランスポーターが必要であり、亜鉛イオンのターゲット分子としてMTA-1が関与している可能性が示唆された。本年度は、亜鉛シグナルの解析として、低酸素環境適応における亜鉛イオン(Zn2+)を介したHIF-1の制御機構の一端を明らかにすることができた。乳がん細胞における亜鉛の役割から、乳がん悪性化進展に大きく関与する低酸素環境適応性に迫った研究はこれまでになく、乳がん治療の新戦略開発に有益な知見である。