著者
小寺 彰 伊藤 一頼 塚原 弓 玉田 大 林 美香
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本プロジェクトは、現代国際法学において流布し国家責任条文草案でも前提とされている、あらゆる義務違反は責任を生じさせるという「一般法としての国家責任法」を観念し得るのかという問題に、歴史的・分野横断的観点から迫ってきた。本年度は、プロジェクトの集大成として、国家責任法の歴史、実定法としての国家責任法の評価に関わる報告及び総括を行う研究会を行った。第一に、「第一次大戦以前の国際法・国際法学における『責任』―国際法における国家責任法成立」と題する報告が行われ、19世紀以前には、正戦論において戦争の正当原因の一つとして賠償義務の存在が想定されていたこと、また、正戦論を前提としなくとも、慣習法たる責任法が戦争回避の手段として否定されていたわけではないことが確認され、国際法の国家責任法が成立したのは19世紀後半以降であるという従来の理解に修正を迫ることが出来た。また、19世紀の学説、実行共に、その適用対象を外国人損害に限定していたわけではなく、そうした観念は、むしろ戦間期に成立した可能性が指摘された。第二に、「国際法における緊急避難の考察」と題する報告が行われ、国家責任条文草案成立以前の実行における緊急避難法理には、権利として存在する「自衛型」と義務違反の存在を否定する「不可抗力型」のものが存在し、一般法を志向し二次規範として機能する条文草案上の緊急避難とは異なり、事案に応じて一次規範のレベルで機能していたことが指摘された。本プロジェクトによって、「一般法としての国家責任法」という観念が歴史的に一貫して採用されてきたわけではないこと、また、「責任」の意味や効果も個別の分野によって変わりうることが浮き彫りにされたことが大きな成果と言える。このことは、一般法としての国家責任法を想定すること自体検証を要することを意味し、条文草案の評価及び国家責任法の解釈論に大きな影響を与えるものである。

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